第164話『俺、の勝ち方』
作者『今日は……日刊ランキング37位に!ワンタッチ到達しましたァァァァ!!!』
作者『ありがとおおおおおおおおおおおおおお!!!!(語彙溶解)』
潤『……情緒……行方不明になってない?でもまあ、読たんたちのおかげだな。ありがとうな』
作者『で、で、で……お祝いコメント……とか……ほら……あったかい感じの……ね?(チラッ)』
潤『結局そこかよ!!欲しがりか!!』
俺は滑り込みで一室に飛び込んだ。
ゼェ、ゼェ……限界。もう無理。足が棒。心もボロ雑巾。
(ここまでくれば……少しだけ、休める──)
だが、数秒も経たず──
「逃がさん……!」
ドアがガチャリと開く。
「っ!」
黒コートが、一歩、また一歩と俺を追って足を踏み入れ──
その場に立ち尽くした。
「……なん、だと……?」
──空間が、明らかにおかしい。
チュンチュン……
ラジオから、鳥のさえずり。
ヒュゥゥ……
扇風機が、風を送る。
ヒラ……ヒラ……
カーテンがやけに穏やかに揺れ──
その奥。
布団が──二組。
そして、奥の布団には明らかに“もっこりとした膨らみ”。
人が──寝ている。
「……………」
そして──ラジオの音声が流れた。
『安心して……大丈夫です。もう、休んでいいんです……』
『誰もあなたを否定しません』
『安らかに──おやすみなさい』
「…………ッ」
黒コートの肩が、ピクリと揺れた。
(……効いてる!?)
あいつの目が明らかに揺らいだ。
まさかのラジオ催眠。
そしてこの空間のあまりの安らかさ。
──不安と焦燥で張り詰めた神経を、ほんの少しだけ、優しくほどく。
だが──
「……ふざけるなぁぁぁあああ!!」
拳が振り上げられ、布団へと振り下ろされ──
「お前かぁぁ!!」
めくり上げられたその布団の中から──
潤が飛び出し逃げる
「貴様ぁぁあああああああッ!!」
──第二ラウンド、開幕。
ドカッ! バタン! ガチャッ! ギュィィィン!
追いかける音と、逃げる音と、なんかよくわからない扇風機の音が交差する中──
俺は、またしても病院の廊下の隅へと追い詰められる。
「もう終わりだッ!お前らの……そのくだらん茶番もなぁぁあああッ!!」
怒りの咆哮と共に、黒コートが俺の肩をガッと掴む。
「貴様には、ここで──終止符を……ッ!」
だが──
「……っ!?」
俺の身体を無理やり振り向かせたその瞬間。
そこに立っていたのは──
銀髪の少女だった。
「──ッな……っ!」
そして。
「……はーい、三キル目入りましたー♪」
「プリンス、よゆーぶっこきすぎわろた〜♪」
背後から首筋に走る──三度目のゴムの感触。
「ぐぅおおおおお貴様あああああああああああああああ!!!」
あまりの屈辱に、黒コートが叫ぶ。
いや、もう叫びじゃない。うめき。咆哮。動物のそれ。
⸻
俺は走った。もはや本能で。
背後から──荒々しい足音。黒コートが迫ってくる。
廊下を駆け抜け──エントランスを突破し──
夜の外気が肌にぶつかった瞬間。
──ピカッ!!
「な──ッ!?」
ライトが、一斉に俺と黒コートを照らす。
「……っ!」
そこに現れたのは──
「包囲完了ォォォ!!」
「暗殺者確保ォォ!!」
「照明角度ヨシ!機動隊、待機ッ!」
警察の機動隊が周囲を包囲していた
黒コートは顔を歪める。
「き、貴様……ッ!」
そのまま、踵を返して病院内へ逃げ戻ろうと──
──ガンッ!!!
「ッぶふぉっ!!?」
自動ドアに思いっきり顔をぶつけた。
「なんで開かん!?」
(そりゃそうだよ、自動反応無効を発動したもん)
そして一瞬の隙。
俺はウインドウを開いた。
【スキルウインドウ展開】
リンクスキル:笑顔共有
→イエス!
「くっ……ふ、ふはっ……!?な、なぜ……笑いが……」
黒コートが自分の表情に混乱する。
──そして、止まらない。頬が、口角が、ひくついていく。
「ぷ、ぷふっくっ……き、貴様のしわざかぁっ!!」
(そうだよ、誰が“安心して休め”だけで終わるかっての)
──黒コートの拳が、こちらに振り上げられる。
が、動きが──甘い。
(笑顔共有で動揺。今なら──いける!)
【スキルウインドウ展開】
格闘(Lv8)発動
反射強化(Lv4)発動
「アチョーーーッ!!」
「わちゃーーー!!」
「ハァァアチョーーーーー!!」
──まさかの三段突き炸裂。
黒コートは、グルンッと空中で一回転して──地面に叩きつけられた。
「ぐぼふぉっ!!!」
倒れた黒コートを、機動隊が取り押さえる──
「──はい拘束〜♪」
「伝説お疲れっす!」
「大人しくしろやぁぁぁ!」
──白い防護服。だが、よく見るとメイクもばっちり。照明もばっちり。
(うちの劇団員……機動隊そっくりじゃん)
「貴様らごときが……!」
黒コートが歯を食いしばる。
その前に──静かに歩み寄る影。
「……ええ。ですが、あなたは──ここまでです」
──リアが立っていた。
その冷静な瞳に映るのは、勝者の余裕。
「私達の勝利です。おやすみなさい、“伝説の暗殺者”。」
──こうして、“サイレントアサシン”のボスは。
謎の安眠ラジオと、三発のゴムと、謎の三段突きにより──
無事? 捕獲されたのであった。
(……絶対、これ一生トラウマだろ……)
【あとがき小話】
カエデ『なぁリアぁ〜? ウチの冷蔵庫に入れといた濃厚たまごプリン……なんで無いんやろなぁ?』
リア『私の知る限り、私は食べていません。よって、私ではありません』
カエデ『ほ〜〜ん……じゃあ誰が食べたんやろなぁ? “知る限り”とか便利な逃げ文句やのぉ?』
リア『私は事実を述べているだけです。感情論ではなく、証拠に基づくべきでは?』
カエデ『証拠な〜。ほんなら冷蔵庫の扉に「カエデ専用」ってシール貼っといたん見えへんかったんか? “目撃証拠”やで?』
リア『シールに法的効力はありません。あと、字が汚すぎて“カエレ”に見えました』
カエデ『誰に向かってカエレ言うてんねん!!??』
──背後。
イヨ『あっ……あの、あ、あのですねっ、ち、違うんですぅ……!えっと、イヨが……そ、その……ぅぅ……(ぷるぷる)』
イヨ『ぷ、プリンが……賞味期限ギリだったので……す、捨てるのはもったいなくて……つい……!』
イヨ『わ、悪気はなかったんですぅ……でも、こわくて……声、届かなくて……ぅぅぅぅ……』
──気づかれない。
リア『口論する時間があるなら、監視カメラを設置しておくべきですね』
カエデ『あぁ〜!? 今から設置したってもう遅いっちゅー話やろがーい!!』
潤(いや誰か……誰か後ろのシロいぷるぷる見てやって!?)