第163話『俺、アサシィン!』
作者『今日は…………ピラフ食べました(完)』
潤『ちょ、待て。4回目にしてネタ切れ!?早すぎだろ!!』
作者『ちがっ……ちがうの潤くん……!これは“シンプル・イズ・ベスト”戦法……っ!』
潤『いや“シンプルすぎて情報ゼロ”なのよ。どこのピラフ?味は?感想は!?』
作者『……ピラフって、心で感じるものじゃない?(遠い目)』
潤『どのジャンルに迷子になってんだよ!!』
──静かな病院に、革靴の音だけが響いていた。
コツ、コツ、コツ──
乾いた足音が廊下に刻まれるたび、空気が冷たく研がれていくような錯覚に陥る。
病室の扉の前に立ち、無言でノブに手をかける男。
ガラ……ッ。
静かに、しかし決してためらわず──
男はスライド扉を開けた。
一歩。
また一歩。
音もなく、ベッドに向かって歩み寄る。
そのコートは黒く、長く、動きに一切の無駄がなかった。
──暗殺者。
その存在を、空気が告げていた。
ベッドには、俺。
点滴に繋がれ、眠っている……フリだ。
心臓が跳ねる。
だが、動かない。
いや──動けない。
男は懐からナイフを抜くと、迷いなく手に握り──
そのまま、俺の喉元へと手を伸ばし──
スルッ。
「……ッ?」
その動きが、突如として乱れた。
男のブーツが、廊下と病室の境界で妙に滑った。
バランスを崩し、前のめりに片膝をつく。
「……なんだ?」
足元を見やると、そこには無色透明の液体が──
「……油……?」
だが、遅い。
ピシン!
「ッ──?」
その瞬間、首筋に違和感。
柔らかくも、冷たい感触。
──ゴムの刃が、首を打った。
「はいお前〜〜! 一回死にました〜〜!!」
カーテンの陰から、俺が飛び出してくる。
ゴム製ナイフを手に、ニヤニヤのドヤ顔。
「即・死・判・定で〜〜す! おつかれさまで〜〜す!」
ブチィン!
男の顔面が、ギリッ……と引き攣った。
「……貴様……俺を、舐めたな……?」
(うわ来たこれ──!!)
「ごめんなさあああああああああああい!!!」
俺は点滴スタンドごと病室を飛び出し、廊下を爆走!
「ッ……待てェェェェェッ!!」
怒声とともに追いかけてくる黒コート。
……が、やはり床は油。
ツルッ! → 前のめり! → 踏ん張る! → ツルッ!
(おおおお滑ってる滑ってる!助かったあああ!!)
追跡がまさかの“バランスボール上での格闘”みたいな動きになってる!
廊下の角を俺が飛び曲がり──
男もすぐに追いかけるが、その先に俺の姿はない。
「……何処だ」
「どこへ消えた……」
男の視線が左右を泳ぐ。
その目に宿るのは、怒気・殺気・あとちょっとの恥。
──静寂の院内に、突如として響き渡る声。
『あれあれぇ〜〜? 伝説の暗殺者のボスさんが〜〜〜? 油で一デス〜〜〜? ぷぷー♡』
高らかに、そして何よりウザさマシマシで──
ユズハの全力煽りボイスが、病院中に木霊する。
『これは記録ですねぇ〜! “殺し屋歴20年のベテラン、油で滑って死亡”ってタイトルで動画投稿しときますかぁ〜?♡』
(やってんなお前……!!)
俺はカーテンの裏で息を潜めつつ、思わず変な汗が出た。
──ヤバい。
あれ怒らせるやつだ。
「……くそが……言わせておけば……!」
黒コートの男は、怒りに任せて病室の壁を──
ドン!!
容赦なく拳で叩きつけた。
石膏がバキバキに砕け、壁が軽く凹む。
(ヒィィ!! 物理強ッ!!)
すると──
『──今や!! 潤くんっ!!』
廊下の奥から、カエデの叫び声が飛んだ!
「ッ!」
反射的に身構える黒コート。
──しかし、
『ぷぶーー!! また引っかかりましたねぇ〜〜!? あんた警戒心どこ置いてきたんですかぁ〜?♡』
再びユズハの声がスピーカーから炸裂!
その直後──
『引っかかったー♪ 引っかかったー♪』
今度はミリーの可愛い声がBGMのように重なる。
『あーあ、ダサダサですねぇ〜〜♡』
『ダサダサー!!』
ユズハ&ミリー、煽り連携プレイ発動。
これにはさすがの黒コートも、
「……ッ、くそが……ッ!!」
怒りが閾値を超えた。
──その瞬間。
ピシィン!
再び、首筋に“あの感触”。
「ハイ、二キル目! あざっす!!」
今度は背後から、俺がひょこっと出現。
ゴムナイフを首にピトッと当てたまま、超笑顔でドヤ顔キメてる。
「ルール通りなら、もうお帰りくださーーーい!!」
男が反射で腕を横殴りに振るが──
すでに俺はその場から猛ダッシュ。
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!! プリンスさぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」
叫びながら、またも廊下の奥へ全力逃亡。
「おのれぇぇぇぇぇぇ!! 殺すゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
【あとがき小話】
作者『ツバキも……一応、まだ登場あるよ』
ツバキ『──“一応”って何よ、“一応”って。聞き捨てならないんだけど?』
作者『ひっ……い、いや……つまりアレだよ? 余白の中の輝きっていうか!その!』
ツバキ『ふふん♪ ま、いいわ。どうせ最後は私の登場を誰もが待ち望むようになるんだから』
作者『つ、強気……!』
ツバキ『そっちがお願いしてくるまで出てあげないだけでしょ? 寧ろ……土下座でもしたら、考えてあげてもよろしくてよ?』
潤(……この人、敵でも味方でもないのに存在感だけはラスボス級なんだよな……)