第162話『俺、リベンジマッチ』
作者『ヒロインズの掛け合いツイート、#才能奪取 タグつけて呟くようにしたよー』
潤『もはや……ただの日記ですら……?』
作者『活動報告って読まれてるか怪しいし、とりあえず言っとけ精神』
潤『なんでもありだな、おい』
作者『あったりめーよ、こちとら江戸っ子でぃ!』
潤『……一度も東京住んだことないだろ』
作者『江戸っ子の魂は場所じゃねぇんだよ!!(キリッ)』
「──で、さ」
病室のベッドに腰かけながら、俺はゆっくりと腕を組んだ。
「黒コートの男……プリンス。アイツは、結局どうなったんだ?」
リアが、タブレットの画面をスッと指でなぞる。
「……逃げられました。ですが、おそらくこちらも想定外の反撃だったのでしょう。
現在は潜伏しており、回復に専念していると考えられます」
「そりゃそうだろ……あんなバンに轢かれて軽トラで吹っ飛ばされて社員に囲まれて、
普通の人間なら原型ねえよ……」
でも──
「……でもさ、次に来たときは“全快のあいつ”が相手ってことでしょ?
こっちは未回復、あっちは全回復──完全にリベンジマッチっていうか、
“とどめ刺されるラウンド2”なんだけど……?」
「潤さん……」
エンリが悲しそうに俺の膝に手を乗せてくる。
「もう……戦わないでください。危険すぎます。
私が、私たちが、守りますから……」
──うっ、今の言い方、ちょっと泣きそうになった。
が。
「でも〜それじゃ〜男が廃りますよぉ? 先輩ぃ〜」
どこからともなく、聞き慣れた“語尾が伸びる声”が響いてきた。
「ユズハ……お前、今どこ……?」
「くっくっくっ……それを知りたいですかぁ〜?
ならば答えましょう──! ユズハちゃんは今ここにぃ──」
──ガッシャアァァン!!
窓の外から派手な落下音。
「……落ちたな」
「うん。たぶん一階だから大丈夫だと思うの……」
ミリーが心配そうに窓に駆け寄り、
エンリも「あっ……」って言いながらあとを追う。
一方──
「……はぁ」
「……いつものことですね」
リアとノアはほぼ同時にため息をつき、
「ぎゃはははは!ユズハ、あんたアホやなぁー!!」
カエデだけが、爆笑してた。
(……うちの社、ほんとカオスだな……)
そう呆れて思った直後だった。
「……潤」
ふいにリアが、眉間に手を当ててつぶやいた。
その瞳に、いつもの冷静さと──もう一つ、何かスイッチが入ったような鋭さが宿る。
「少し、案があります」
「え?」
「──“全員で仕留めましょう。計画的に”」
部屋の空気が一瞬、変わった。
ノアが静かに立ち上がり、そっと潤の横に寄る。
「リア様。何か、作戦を?」
「はい。プリンスの“戦術力”と“精神耐性”を正面から崩すのは不可能……
ならば、“本人が戦術の外にいると錯覚する状況”を作ります」
「錯覚……?」
「ええ。“自分が想定通りに戦っている”と思わせながら、
その実、すべてがこちらの演出通りに進んでいるという舞台──」
「ちょっと待って!なんか難しい話始まってない!?おれ今、病み上がりなんだけど!」
「要するに〜、“先輩がかっこつけて滑るのも全部計算”ってことですよね〜?」
窓からよじ登ってきたユズハが、なぜかもう病室に戻ってた。
ミリーとエンリが「生きてたぁぁ!」と喜ぶ中、リアの指がスッと宙を切った。
「演者、悪意誘導、自動反応無効……潤の才能は、演出に特化した戦術には極めて向いています。
ただし、それを“最大限に機能させるには”」
「──“脇役が全力で支える必要がある”ってことやな?」
カエデがにやっと笑って拳を鳴らす。
「せやったら、ウチは正面からガチンコや!潤くんが後ろでちょこまか動いてたら、敵さんビビるやろ〜?」
「囮行動は私がやります。動線を潰す包囲も考えます」
エンリが手帳を取り出して、淡々と指を折る。
「じゅんくんのかっこ悪い動きは〜、ミリーが盛り上げるから安心してねっ♪」
それ、安心していいのか俺。
「私は、“最高の舞台”を用意しますから。演者として──主役に恥をかかせる準備は万全です♡」
どんな役者だよ!?
リアが、最後に静かに言った。
「潤──今回あなたは、“主役のくせに裏方のように動いてください”」
「……え?主役だよね?それ、言い方おかしくない!?」
「……主役ですが、滑ります。演出です」
「やめろぉぉぉぉ!!」
だが、もう全員の目に火が灯っていた。
誰も止まらない。
誰も冷静じゃない。
なのに──
(……あぁ。やっぱこの会社、カオスだけど……)
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「──じゃあ、俺は俺らしく、“才能を使って”……滑ってくるか」
ミリー「じゅんくんが滑っても、ミリーが拾ってあげるね〜♡」
リア 「いいえ、拾わないでください。本人の学習のために」
潤 「お前らどんだけ俺に厳しいんだよ!!」
【あとがき小話】
作者『サイレントアサシン……いや、イヨ!』
イヨ『は、はわっ!? はいっ!? えっと……い、イヨですっ……!』
作者『君にはいずれ……きっと……たぶん……そのうち……出番がある……!かも!』
イヨ『…………っ』
(沈黙)
イヨ『あ、あの……い、今の……「かも」って……え、えっと……い、意味的には……その……ぅぅ……』
作者『いやいやいや!希望はある!ゼロじゃないから!』
イヨ『ほ、ほ、本当にぃ……? イヨ、がんばれるように……が、がんばってるんですけど……
でも……お、お役に立てないなら……えっと、その、空気のように……す、すみっこで……』
潤(いやもう見てらんないわ……!誰か毛布と温かいココア持ってきてあげてくれ!)
イヨ『……ぅぅ……だ、誰かに……必要って……い、いってもらえたら……うれし、かったのになぁ……(ぽろぽろ)』
作者『……俺のせいじゃないもん(震え)』