第126話『俺、脂肪という名の裏切りに沈む』
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どんな話題でも気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。
いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)
一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
──まじで!
最近の俺、なんかこう……裕福な気がする。
以前はもやし1袋を3食分けて咀嚼してたのに、今では──
ポテチが常備されている!!
(……ちょっとした貴族じゃね?)
もちろん、夕飯はカップ麺だ。
だがそこにトッピングとして温泉卵を加えるあたり、俺の中の成金魂が目覚めつつある。
そんな“庶民ランク昇格の喜び”に酔いしれていたある日──
ミリーが、何の前触れもなく俺にぎゅーっと抱きついてきた。
「じゅんくん、前より……ぷよぷよしてて好きーっ♡」
え、好きな理由そこ!?
「えへへ〜、なんかね、おなかが……むにゅってしてて……ミリー、気に入っちゃったの〜♪」
(これが“幸福太り”ってやつか……)
(まぁ……でも抱き心地が良いなら、良いか?)
しかし──その言葉は、ある女の逆鱗に触れた。
「潤様……」
ゾワッとするほど低く、けれど冷静な声。
振り返ると──そこにはノアがいた。
スッ……と音が聞こえそうなほど、優雅に佇むノア。
その瞳には慈愛と──明確な危機感。
「潤様、少し痩せましょう……非常に健康的ではありません。
このままでは、お身体に支障が出る可能性もございます……」
(出た、保健室の先生フェーズ……)
「私がお手伝いしますので。ご安心ください、潤様には一切、無理はさせません」
※ただし、“ノア基準の無理ではない”という前提である。
いやでも、心配してくれてんだよな。
ノアは本当に、俺のことを考えて──
「……おっしゃ!やったるわ!」
──って勢いで返事してしまった数秒後、俺は後悔することになる。
「ふぁ〜あ、なんか話してますぅ?」
謎のタイミングで、ユズハが背後から現れる。
ストロー付きのタピオカ片手に、やる気ゼロの足取り。
「え〜、ユズハも混ぜてくださぁい?」
「え、なんでユズハも?」
「だってぇ〜、人気女優ノアちゃんのダイエット方法って、ぶっちゃけ気になるじゃないですか〜?
やっぱり次世代エースの私としては、知っておかないと〜♡」
(急に出てきた“芸能界の継承争い”!?)
「……次世代って……てか、まずユズハは女優だったことあったっけ?
いや待て、ツッコんだら負けな気がする……」
ここでノアが、すっと背筋を伸ばした。
「……ええ、もちろん構いませんよ。ユズハ様も潤様も、ぜひご一緒に。
とりあえず──今から10キロ走りましょうか」
「「……えっ?」」
何この即決地獄。
※前フリなしで「10キロ走りましょう」は狂気です。
「えっとノアちゃん?今って確か──お昼すぎじゃないですか?
……あの、炎天下じゃないっすか?」
「その通りですね。最も脂肪が燃焼しやすい時間帯ですから」
「効率の鬼だこの人ッ!!」
──こうして、地獄のダイエット合宿が始まった。
なお、俺の“ポテチ貴族生活”は開始から一週間で幕を閉じた。
我が栄華、わずか七日。ナポレオンもびっくりの短命政権である─
──そして今。
「ぜぇ……っ、ぜぇぇ……っ!あっつ……死……ぬ……」
顔面から流れ落ちる汗。Tシャツは既に“入水”レベルでびしょ濡れ。
地面が揺れてる。いや、揺れてない。これは俺の視界の問題。
(な、なんで……ノアは涼しい顔してんの……?)
その横では、ユズハが走りながらスマホを操作している。
「……へぇ〜、今の気温32度らしいですよぉ。
でもアスファルトの上って5度くらい高いから、体感37度ですね〜♡」
「※それ、真面目に言うと洒落にならないからやめて……!」
「それにしても〜、せんぱいって案外むっちり系だったんですね〜?
なんか、親しみ湧いちゃうな〜。……あ、
あの体型ならワンチャン“着ぐるみ役”狙えますよ〜?」
「いや俺、アニメのマスコット枠狙ってないからね!?」
「じゃあ、着ぐるみの中で汗だくになって倒れてニュースになる人、目指しましょうよ!」
「俺の将来性を何だと思ってんの!?」
──と、その時。
視界の隅に、光る何かが見えた。
「……! う、宇宙人……!?」
白昼の道路に浮かぶ銀色の円盤。回転しながら降下してくる。
いや違う、アレは──
「……扇風機だ……羽が……俺を……迎えに……」
「潤様、幻覚ですね。あと500メートルです」
「ゴール地点が……五百光年先に感じるのですが……っ」
──数分後。
ゴール地点(公園のベンチ)に辿り着いた俺とユズハは、
死にかけのナメクジのように倒れ込み──
気づけば手にしていた。
「はぁぁぁ……沁みる……沁み渡る……」
「スタバの新作……キャラメルクリームフラペチーノ……これが……文明……」
走り切った後の“ご褒美”は、糖分の塊だった。
──だが。
「…………」
後ろから、氷のような気配が立ち上る。
俺とユズハが同時に振り返ると、
そこには、日傘を差したノアがいた。
「潤様?ユズハ様? それは……なんですか?」
「「えっ、フラペチーノですけど?」」
「……」
ノアが静かに、日傘を畳んだ。
そして──
ボンッ!!
地面を踏みしめ、砂煙が舞う。
「……今すぐカロリーを“贖罪”していただきます」
「え、えっ!?ま、まだ汗も拭いてないんだけど!?」
「ユズハちゃん倒れてるよ!?多分脈とれてないよ!?」
「問題ありません。フラペチーノを摂取した瞬間から、リスタートですから」
「リセットボタン雑すぎィィィ!!!」
こうして第二部、怒りのノア編:ダイエット死闘篇が開幕した。
次なるメニュー──それは、
「はい、二人一組でバランスボール腹筋です。
潤様はユズハ様の足を持ってあげてください」
「えっ、俺が“補助側”!?主犯俺なのに!?」
「……せんぱ〜い、ユズハもう無理……
バランスボールって、座るだけでも難しいのに……
あの、これどっちかっていうと遊具では?」
「さっきから君だけ“児童公園ノリ”なんよ」
「それに……私、ノアさんの隣で運動するの、ちょっと……嬉しいかも……♡」
「甘えた声出してもノアには効かないからな!?」
「……ふぅ。お二人とも、準備はよろしいですか?」
ノアがストップウォッチを手に、タイマーをセットする。
「制限時間は30分間です」
「「う、嘘でしょ!?」」
容赦なきダイエット道場──ここに極まる。
そして俺は悟った。
(……ポテチの背徳感って、幸せの裏返しだったんだな……)
──その日の夜。
「……おっかしいな……」
「……晩ご飯ってさ、普通『幻覚』じゃないですよね……?」
俺とユズハ、リビングのソファで膝を抱えながら虚空を見つめていた。
(ノア特製・極限低カロリー晩ご飯)
・無塩蒸しブロッコリー(5房)
・ミネラルウォーター(微温)
・謎の植物性サプリメント(2粒)
(……栄養というか……もはや宗教儀式!?)
「せんぱ〜い、あの謎の2粒って何だったんですかぁ……?」
「……希望の種、とかじゃね?」
「全然芽吹いてくれませんけどぉ〜……」
──空腹。
それは理性の崩壊を促し、人を獣へと戻す。
ユズハが唐突に俺の袖をつまんだ。
「……せんぱ〜い。ここだけの話……『神様っている』って信じてますぅ?」
「……こんな時だけ都合よく神頼みかよ……」
俺は無言でスマホの時計を確認する。
──23時52分。
「……」
「……」
言葉はない。ただ頷きあうだけで、意思が通じた。
(行くしかない──コンビニへ!)
玄関前──
「ミッションコード、『スイーツ解放作戦』──始動!」
ユズハが小声で呟く。
「コードネーム無駄にかっこいいな!?」
「え、じゃあ『プリン奪還作戦』とか?」
「奪還てなんだよ!?奪われてねぇよ!?」
「え〜、だってぇ、せんぱいの心、もうノアさんに奪われてませんかぁ?」
「物理的な食料の話だよ!!」
ふたりで静かにドアを開ける。
「よし……足音ゼロ、靴音ゼロ、気配ゼロ……」
「……いや、せんぱいのお腹の音が世界を震わせてますけどぉ……?」
「そこはどうしようもねぇだろ!!」
深夜のコンビニ──
まばゆい光、甘い香り。
「せんぱ〜い、見て見て……『ぷるぷる大玉プリン』ですよぉ……天使のほっぺって書いてある……♡」
「ユズハ、それは悪魔の囁きだ……」
「ユズハ、悪魔に魂売る覚悟決めましたぁ……あ、肉まんとピザまん追加でぇ!」
「欲望の悪魔爆誕かよ!」
だが、ポケットを探り俺は硬直した。
(……財布がない。あるのはポケットの小銭、350円のみ……)
「せんぱ〜い、このメロンパンも欲しいんですけどぉ……?」
「待てユズハ。俺ら今、資産350円だから」
ユズハが瞬時に真顔になる。
「プリン120円……肉まん110円……メロンパン120円……計350円……」
「ちょ、俺の分ないんだけど!?」
「あはは〜、先輩はまたブロッコリー食べればいいですよねぇ?」
「なんで俺だけ無限ブロッコリー地獄なんだよ!?」
レジ前で静かな睨み合いが発生したその時──
「──おふたりとも、仲良くお夜食ですか?」
背後に立つ優雅な気配。
振り返った瞬間、俺とユズハの魂が天に召されそうになった。
「ノ、ノア!? なんでここに!?」
ノアは静かに微笑んでいる。
「潤様が夜中に盗み食いされないように、財布は事前に回収しましたが……まさか小銭まで持ち出すとは、さすが潤様。驚きました」
「完全に犯罪者扱いじゃん!!」
ユズハがうっとりと見つめながら呟く。
「ノアさんってばぁ、夜のコンビニにまで優雅さ持ち込むとか反則ですよぉ……♡」
「ユズハ、お前のんきすぎるだろ!?」
ノアが穏やかに宣告する。
「帰宅後の贖罪メニューを増量しますので、お二人とも覚悟してくださいね」
──笑顔に見えたが、目が本気だった。
帰宅後のリビング。
「……」
「……」
前には巨大なバランスボールと、重りのついたジャンプロープ。
「……ちなみに、これ、何?」
「罪人への救済措置です──潤様、ユズハ様。プリン1つあたり500回ジャンプです」
「プリン1つに対する罰のスケールおかしくない!?」
「ノアさん、ユズハもう反省したんですけどぉ……」
ノアは優雅に微笑んだ。
「反省は行動で示してください」
(──これが『夜の脱走プリン事件』の顛末だった。)
あとがき小話
作者『やばいよ……やばいよ〜……』
潤『出川かよ。で?何やらかしたんだよ』
作者『俺のXアカウント、偽物出た』
潤『は? まじで?通報したのか?』
作者『した。ちゃんとやった。でもさ……そいつエロ系のツイートばっかリツイートしてて、むしろ俺じゃないって思われると思う』
潤『…………』
作者『……え?なんで黙るの?』
潤『いや、普通にお前が言いそうなことツイートしてたら、それはそれで困るなって』
作者『俺、そんなエロいこと言ってる!?』
潤『言ってんだろ。あとがきでノアのパンツの色とか聞いてるやつが何を……』
作者『……ごめん、否定できんかった』
──アイコンを真似されるより、信用を失う方が痛かった作者でした。
次回予告:
「俺の偽物、俺よりまとも」
潤『いや逆に悔しいわ!!』