第125話『俺、欲情してないってば!』
いつも読んでくださって本当にありがとうございます!
なろうではコメント欄がちょっと静かめですが、
感想じゃなくても「日常のこと」「アニメの話」「つぶやき」など、
どんな話題でも気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。
いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)
一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
──朝。悪徳リクルートエージェント社・執務室。
「潤、少しだけ頭を失礼します」
「ん……? 何だリア?」
カチャッ。
背後から、リアが無言で何かを装着してきた。
金属の輪がこめかみに触れ、後頭部をぐるりと包むように締め付ける。
「……なにこれ? 頭が冷えるんだけど……って、え、なんかピカッて光ったよ!?」
「脳波測定装置です。健全な思考における刺激反応を、日常下で収集するためのテストです」
「いや説明が冷静すぎる!なんで俺が検体なんだよ!」
「大丈夫です。興奮したら音が鳴るだけですので」
「全然大丈夫じゃねぇぇぇぇぇ!!!」
リアはモニターに視線を移しながら、さらっと言った。
「皆が潤があまりにも靡かないため……“実は女性に興味がないのでは?”という仮説が上がりまして」
「やめてくれ!?俺の性的嗜好を会議の議題にするな!!」
リアは首をかしげながら補足する。
「ヒロインへの興奮反応ゼロ、接触時の体温上昇ナシ、好意の自覚も曖昧──疑われて当然です」
「なぜその分析ができるのに、俺の尊厳には配慮しないの!?」
「その点については、検証後に再評価します」
「もう再評価って時点で負けなんだが!?」
そのとき、軽やかな足音が近づいてくる。
「おはようございま〜す♪ って、なにしてるんですかぁ〜?」
ユズハがニコニコしながら顔を覗き込んできた。
いつものふざけた笑顔。だがその視線は──何かを察した女の目だった。
「もしかして〜、先輩って……私たちに興奮しない紳士さんってことですかぁ?」
「やめろその言い方ぁぁぁぁああ!!いろんな意味で地雷なんだよ!!」
「じゃあ、“誰にもドキドキしない”ってことでいいですよね〜?」
「いやその……そう言われると……何かこう、あの、あるけど!?あるけども!?」
「つまり……“私には反応しない”ってことですね〜♡」
「うわ、罠か!?今の、完璧に罠だったよな!?!?!?」
言えば地雷、黙れば罪。
俺は、万策尽きた末に──
「……まぁ……紳士の、意地は……見せますよ?」
……なにこの流れ。
──こうして、俺の煩悩チェッカーは、鳴り響く運命にある。
俺は今──修行僧。
そう言い聞かせている。
全ての煩悩を捨て、己の内なる欲に打ち克つ。
どんな誘惑にも、決して揺らがない精神を身につけるのだ。
俺は大丈夫。俺は硬派。俺は──
──ひょっこりと、ミリーが顔を出した。
「じゅんくん〜? なんでそんなウルトラマンみたいなポーズしてるの〜?」
(見られた!?!?!)
正座+正拳+目を閉じて精神統一してたら、結果ウルトラマンになってただけだ。
だが、今日の俺はミリーにすら油断しない。
「今日はぎゅーは無しだ!」
宣言と同時に、ミリーの笑顔がショボーンとしおれていく。
(……うっ、罪悪感が……)
──が、次の瞬間。
「じゅんくんっ♡」
抱きついてきた。
(やっぱりかああああああ!!)
全身で包み込んでくるミリーの弾力とぬくもり──
だが今日の俺は違う。
俺はすかさず──バニー服を着たおっさんが高速リンボーダンスをしている映像を脳内に召喚!
(セーフ!!これで脳波は乱れない!──はず!)
【ピッ】
「やったー! 鳴ったー♡」
ミリーは満面の笑みで小躍りしながら走り去っていった。
(……軽めだし……セーフだよな?)
(ピッ、だし。ピーーーじゃないし……)
今日の俺は紳士だ。この程度で負けるような軟派じゃない。
──一方その頃。
ミリーが控え室に駆け戻ってくる。
「やった〜っ!鳴ったよ〜♡ ピッって♡」
「ええ……一応、反応しましたが。想定内の初期反応です。ドキドキ値としては……不十分ですね」
リアが冷静に評価する。
「うー……」
「ふっふ〜ん、ほな! 次はうちやな?潤くんが本気でドキドキするん、教えたるわ〜♡」
「潤様はお色気程度では靡きません。真に心を開ける相手は……私のみです」
ノアとカエデが静かに火花を散らす。
「ノアちゃん、余裕やな? ここで終わらせたるわ!」
「……その自信、潤様が持ちこたえられる限り、無意味ですけれど」
──そしてカエデが出撃する。
──潤くんブース。
「潤くん! 肩凝ってへん? ウチが揉んだるで〜♡」
(……あ、あかん……それは……)
この時点で既にアウトの予感しかしない。
危険しかない。むしろ危険そのもの。
スキンシップ×柔らかさ×関西甘え特攻──この組み合わせは殺傷力が高すぎる。
──だが今日の俺は違う。
脳内に──バニー服のおっさんが逆立ちしながらフラフープを回してる映像を召喚!
(これで耐える!!見ろ俺の精神力!!!)
──だが。
「どう?気持ちええやろ〜? なぁ〜潤くん、ウチのこと……どう思ってん?」
(背中に……感触……ある!!)
笑顔のカエデが密着しながら耳元で囁いてくる。
甘い声。距離ゼロ。絶対に目を合わせちゃいけない。見たら負ける。
(くっ……おっさん!!もっと早く踊れ!!回れ!!回ってくれぇぇ!!)
【ピーーッ!】
「よっしゃぁ!! 鳴ったぁぁぁ!! 潤くん、落ちたでぇ〜!!」
はしゃぎながらカエデがスキップで控え室に去っていった。
(いや……今のは……ギリ……)
鳴ったけど、ギリセーフ。
もしおっさんが回転止めてたら即死だった。本当に危なかった。
──控え室。
「うち!鳴らしたで!? ピーーって言ったで!?!?」
「……はい、波形としては確かにピーーーですが……数値で言うと50点程度です」
「なんでやねぇぇぇぇん!!!」
──そして、静かに現れる影。
スッ──と、エンリが前へ出る。
「私の番ですから。任せてください……潤さんを、しっかり癒してみせます」
エンリ、出撃。
「うわっ……あかん……エンリさんの癒し力は、マジで鳴るわ……」
「ヤバいっすね〜、包容力えぐすぎて脳が抱かれますよあれ」
「大丈夫です。潤様は紳士……膝枕如きで動じたりしません!」
──とノアが強く断言した直後、
控え室の扉が、ふわりと閉まった。
次なる戦場は──癒しという名の罠だった。
──執務フロア・測定ポイント前。
「潤さん? そんなに身構えなくても大丈夫ですよ〜?」
(無理無理無理無理無理無理!!)
身構えるな?今この状況で!?
無理しかない。むしろなぜこの期に及んで“平然としていられる”と思ったのか。
目の前にいるのは──癒しの女神、エンリ・オブ・エンリ。
包容力という概念を具現化した存在。
そんな彼女に今、膝枕を提供されようとしている。
「さぁどうぞ? 潤さん。無理しなくていいんですよ?ほら……」
「……ほら?」
(2回言った!? 圧がすごい!! でも断れない!!)
俺は、意を決して──膝に、頭を乗せた。
その瞬間、脳内で非常召喚が始まる。
(バニー服の……おっさんを……出せ!!)
俺の妄想力が総力を挙げる。
一人、また一人。ピチピチのバニー姿で踊る中年男性たちが、
脳内ステージで乱舞を始める──
(右のやつ、ヒゲ濃いな! よし、もっとはっちゃけろ!!)
だが──
「潤さん、はい……よしよし……」
手が、優しく頭を撫でてきた。
指先が、額の生え際をゆっくりとなぞる。
「……大丈夫ですよ……リラックスしてくださいね」
(あ……あかん……ッ)
バニーおじさんが、一人、また一人と──
──昇天した。
「行くなぁぁぁ……おやじぃぃぃぃ……ッ!!」
最後の一人がダンスの途中で天に召され、
俺の脳内ステージは、静寂に包まれた。
──暗転。
「…………」
「あら? 潤さん……?」
「……寝てしまいましたね……ふふっ」
──俺は、敗北した。
癒しの女神に、俺の煩悩は打ち砕かれた。
武装も妄想も、何の役にも立たなかった。
俺は……ただの男だった。
──数十分後。控え室。
エンリが、穏やかに報告する。
「なりませんでした〜。残念ですね」
「えっ!? ならんかったんですか!?!?」
「ええ。今日一落ち着いてました。
むしろ、心拍も脳波も極めて安定していて──“熟睡波形”が出ていましたよ?」
「寝てたんかい!!!」
潤、完封。
エンリ、慈愛の無双。
そして脳内のおっさんたちに、合掌。
──次なる刺客は、ユズハ。
しかし、今回は違う。
俺には対策がある。
「せんぱ〜い♡ ユズハ、来ちゃいましたよ〜んっ♪」
早速、ユズハが腰をくねらせながら甘ったるい笑顔を浮かべ、両手を後ろに組んで小首を傾けながら擦り寄ってくる。
「先輩ってぇ、ユズハのこと……どう思ってるんですかぁ?」
ピッ。
微かに鳴ったが……落ち着け俺。このくらいなら許容範囲だ。
「ねぇねぇ、先輩? 私、実は寂しがり屋なんですよぉ〜?」
ぐいぐいと腕に抱きついてくるユズハ。やわらかさが危険すぎるが、今はまだ耐えられる。
ピッ。
また鳴ったが問題ない。むしろ自然な反応だ。
俺はここで切り札を使った。
「ユズハ?」
「はぁい♡」
「そういえばさっき、ゲンジが新しいプロジェクトで『逸材』を探してるって言ってたぞ?」
瞬間──ユズハの瞳が完全に切り替わった。
「……えっ!? それは一大事じゃないですか!? 世界が……ユズハを求めていますよね!」
俺の腕を即座に離すと、風のように駆け去っていった。
ユズハ、不戦敗。
そして束の間の静寂。
「潤、見直しました」
背後から静かな声。リアが近づいてきた。
「本当にドキドキしないんですね。正直、見くびっていました」
「あったりめーよ。『紳士潤』とは俺のことだぜ?」
「では、最終試験に移行します」
リアは眼鏡を外し、わざわざ髪をほどき始めた。さらりと揺れる長い髪、いつも以上に真剣な瞳。
「……なにしてんの?」
「理性の化身として、あえてフェロモン的演出を検証します」
「いや、だからってお前がやる必要ある!?」
リアが静かに接近し、俺のネクタイに手をかけた。
「潤、理性の限界を見せてください」
ピ……。
小さく鳴ったが、すぐに静かになった。
「……鳴りませんね」
リアは珍しく唇を尖らせ、小さく息を吐く。
その表情にはわずかな困惑と、プライドをくすぐられたような微かな苛立ちが滲んでいた。
「潤、あなたは本当に難攻不落ですね」
「お前らが極端すぎるだけだよ!」
そのときだった。
バンッ!!
ドアが勢いよく開き、白銀の髪が翻った。
「潤様に……何をしているのですか?」
──ラスボス、ノア登場。
ノアは静かな足取りでこちらに歩み寄り、リアと俺の間に割り込んできた。
「潤様、今からは私の時間です。ご覚悟を」
(……怖い、怖すぎる!)
だが、ノアの真剣な攻撃にも波形は静かに揺れるだけで、大きな反応を示さなかった。
「なぜ、鳴らないのですか?潤様……私では、不十分なのですか?」
ノアが哀しげに潤んだ瞳で見つめてくる。
(ちょっと待って、逆に罪悪感が!!)
しかしその時だった。
窓際で日向ぼっこをしていた猫が──
ゴローン。
──ピィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーッ!!!!
脳波測定装置が今日一番の爆音を響かせた。
「ええええええええええええええええええええ!?」
その場にいた全員が絶叫した。
「潤くん……猫!? 猫で最大反応!?」
「潤様……説明してください!」
「いや待て、誤解だ! 俺は変態じゃない!」
「いいえ、潤。あなたは立派な変態です。データが証明しています」
「俺の紳士キャラがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
──こうして俺の『欲情してない』という紳士伝説は、猫一匹のゴローンで儚くも崩壊したのだった。
あとがき小話
ピコンピコン……ピコンピコン……
潤『……おい、何か聞こえるぞ。』
ユズハ『あ、それポケモンのHPが残り1桁になると鳴るやつですね〜』
潤『おい……まさか……!?』
(部屋の隅──そこには、汗と涙で床にめり込んだ謎の生命体がいた)
リア『あれは……構ってくれない日々に絶望し、さらに連日の湿気で感情と理性が腐敗し、ついにはキノコを生やした“作者”です』
潤『メンヘラ通り越してキノコ栽培家かよ!?』
作者『だってぇ……だってぇぇ……ノアのパンツの色とか、もっと語り合ってもよくない……?淡いレースとか、透け感とか……“白”だと信じてたけど、案外黒だったりしたらどうする?──って読たんと議論したい……したいのぉぉ……』
ピコンピコンピコン
潤『やめろぉぉぉぉおおお!!変態の勧誘するな!読たんは更生の余地があるんだ!巻き込むな!』
ノア『……潤様、失礼ですが、私の下着について他人と語り合おうとした時点で“死刑”だと思います』
潤『ちょ、おまっ、お前の怒りどこ向いてるの!?なぜか俺!?』
作者『……パンツって大事だよね……(ぽつり)』
リア『……体温34.9度。そろそろ“幽体離脱”の予兆です』
潤『勝手に幽霊になるな!!』
(その日、読たんの脳裏には「作者=パンツ=ピコンピコン」が深く刻まれたという──)