第124話『俺、スライムを倒す』
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──霧が、地を這っていた。
風のない森。湿った空気に混ざって、土の匂いが鼻を刺す。
俺は“王”と名乗った存在に命じられるまま、山を登っていた。
目的は、頂上に眠るという“聖剣”。
そして、その近くには《何か》がいる──そう聞かされていた。
(……妙だ)
ここに来てから、時間の感覚があいまいだ。
空は曇天で、どこにも太陽が見えない。
光源のない空に、ぼんやりとした白だけが浮かぶ。
草は濡れていて、足音は吸い込まれたように響かない。
音が──ない。
ジャングルのように生い茂った木々の間を進むたび、足元に粘つく感触が増していく。
泥ではない。草でもない。もっと、ぬるりとした何か。
視界の端に、黒い影が動いた。
ズル……ズル……
(……なんだ?)
目の前に現れたのは──巨大な塊だった。
ぬめりを帯びた半透明の“何か”が、地を這っていた。
粘液の中で脈動する、赤黒い核。
(……スライム? あれが……?)
そう思った瞬間、空気が裂けた。
──ビュン。
目の前を、太い触手が薙いだ。
間一髪。
地に伏せる。触手が背後の木を破壊し、粉砕音とともに破片が飛び散った。
(逃げる……!)
身体が勝手に動いた。心臓が喉までせり上がる。
何度も足を取られながら、坂道を駆ける。
背後から、粘液を引きずる音がついてくる。
ジャングルが裂けた。
──開けた頂上。
霧の奥に、それはあった。
石の台座。
その中心に、一本の剣が突き刺さっている。
剣身は曇っていた。古びた銀のように鈍く光る。
柄には、どこか血管のような模様が走っていた。
俺は迷わず、それを掴んだ。
(これしか……ない)
──触れた瞬間、何かが流れ込んできた。
感情。記憶。誰かの叫び。
剣が、俺に“何か”を訴えかける。
そして、理解する。
こいつは“選ばせる”武器だ。
勇者になるか。あるいは、死ぬか。
俺は引き抜いた。
剣身が空を裂き、冷たい風が吹き抜ける。
「来いよ……ゼリー野郎」
その言葉に応じるように、スライムが突っ込んでくる。
──戦闘。
時間の感覚が消えた。
触手の軌道が読めない。地形が常に崩れる。
俺は剣で受け、跳び、躱す。
空間が歪むたび、スライムの核が一瞬だけむき出しになる。
(あそこしか……ねぇ!)
距離を詰める。触手が襲う。かわす。斬る。前進。
剣を構える。叫ぶ。
「くらえっ!!」
一閃。
剣が核を穿ち、断裂音が響く。
──爆砕。
スライムの身体が音もなく崩れた。
霧が晴れる。視界に光が射す。
俺は、ただ剣を握ったまま──その場に崩れ落ちた。
全身の力が抜けた。
指先が震えていた。呼吸が浅い。
“VRだ”という認識が、一瞬、どこかへ消えかけていた。
今ここにいるのが、現実なのかどうか。
俺には、もうわからなかった。
【現実視点】
──電柱社・地下モニター室。
『潤様が……歩き出しました』
ノアが神妙な声で告げた。
が、次の瞬間。
ガシャアアアン!!!
「うわぁぁぁ!?!?」
VRゴーグルをつけた潤が、久松先輩の最新鋭モニター群に正面から激突!
ラックが傾き、機材が崩れ、画面がバイオ風の警告音を最後に死亡。
「潤くん!?!?! うちの研究環境が!! Amazonのお気に入りリストが!!!」
しかし、潤は止まらない。
おもむろに足を前に出し──
ドガッ。
ミリーのぬいぐるみ、サッカーボールのように蹴飛ばす。
空中でスピンしながら回転して壁に激突、ぬいぐるみ2号(手足つき)が死亡。
バキッ!!
エンリの観葉植物、見事に枝ごとへし折られ──
ボトッ
鉢だけが無言で転がった。
『あかーん!!潤くんが道連れにしながら進軍してるー!!!』
カエデが爆笑しながら机をバンバン叩く。
「えーとですねぇ〜先輩は今、ジャングルを歩いてます〜。たぶん敵に見つかる前のステルス移動ですね〜♪」
『潤様……逞しいです……たとえ社内設備を全て破壊しても……』
ノア、完全に“贔屓の引き倒し”モード。
──と、そのとき。
潤が、突然ダッシュ。
「走った!!走ったで!! もう怖いってあれ!」
「今……スライムに追われてますね〜♪」
「見えへんから余計に怖いわ!!!」
「VR空間だと後ろから来てるんですけど、現実だとエントランス突っ切って表に出てます〜」
──潤、社内脱出。
そのまま表へと飛び出す。
久松先輩の悲鳴を背に、潤は駐車場を越えて、近くの雑木林の斜面へ。
──登ってる。
「やべぇってやべぇってやべぇって!!! これもう業務災害ってレベルちゃう!!」
草をかき分け、斜面を登り、潤がついに立ち止まる。
手には──
「棒持ったぁぁぁ!!!」
「抜きましたね、聖剣」
ユズハが冷静に実況。
「何が聖剣や!! それスーパーの裏に落ちてそうなただの木や!!」
──潤、天に掲げる。
ポーズ決めてる。完全に決めてる。背筋ピーン、ドヤ顔MAX。
勝手にファンファーレが聞こえてくる(脳内)。
「かっこええと思っとるぅぅぅ!!!」
──そして、敵。
その視線の先にあるのは──
「ちょっ、まさか……」
カエデが指を差す。
「……それ、“う●こ”やろ!!!」
潤、構える。
「やめろ!おい潤!やめとけって!!」
『くらええぇぇぇぇぇっ!!!』
──ズシャァッ!!!
棒が沈む。
「刺したあああああああああああああ!!!」
潤、ガッツポーズ。
腕を突き上げ、ドヤ顔1000%。
「うぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」←本気
──その様子を、ちょうど通りがかった小学生3人が見ていた。
『あの人……』
「う●こに棒刺して喜んでる〜〜〜!!」
『やっっっばー!!』
「ママ〜〜〜〜!!!」
ちびっこ逃走。社会的死、秒読み。
「潤様……やはり貫禄が……」
「貫禄の意味よノア!!!!」
こうして、勇者の旅路は、
道端のう●こを貫いて幕を閉じたのである──
あとがき小話
「午後四時、溶ける気配」──ノアとユズハ
──窓辺のレースがゆらりと揺れた。
外から吹き込んだ風は、期待したほど涼しくない。
だが、部屋の中にいた彼女たちは、
その“期待はずれの風”すらも、どこか甘く受け止めていた。
ノアはロングスカートの裾を指で持ち上げ、うっすらと汗を浮かべた足首を見せながら扇子を扇いでいた。
その姿勢は優雅なはずなのに──わずかに崩れたシャツの胸元が、彼女の“理性の限界”を語っていた。
ノア『……潤様も、きっと暑さに耐えていらっしゃるのでしょうか……』
いつもはきっちり結われている髪も、今はうなじに貼りつくように乱れ、
頬に沿って落ちた一房を、ゆっくりと払う指先が……色っぽすぎるほど、艶やかだった。
シャツの第一ボタンを外し、胸元をあおぎながら、
「……ほんの少しだけ、肌を見せても……許されますよね?」
と誰に言うでもなく呟いたその声は、
昼下がりの空気よりも、数度ほど高く、そして濡れていた。
その隣──床に寝転んだユズハがいた。
くたびれたように頬をソファに預け、タンクトップの裾がわずかにめくれて腹が見えているが……
本人はまるで気にしていない。いや、わざとか?
ユズハ『……ねぇ、潤くん……冷房のリモコン、あと1度だけ下げてよぉ……
じゃないと……服脱ぎますよ?ふふっ、冗談ですってば〜』
口調はふざけているが、その目はとろんと焦点が合っておらず、
頬に汗が伝ったのを「ん〜……」と舌で舐めて拭う仕草には、
本気と嘘の境界が──無かった。
扇風機の風を受けたシャツがふわりとめくれ、
露わになった太ももを無意識に掻いたその指の形が……やけに生々しい。
ユズハ『でも、潤くんが見てるってわかると……やっぱり、ドキドキしますよね〜……』
そう言って、彼女はちらりと目だけをこちらに向け──
──ドアの隙間で、その視線を受け止めた者がいた。
作者『…………(無言で鼻を押さえる)』
ノア『……そこまでにしておきましょうか、作者様』
作者『ぬぁあああああっ!?』
──背後からマフラーを締められる音がした。