第123話『俺、VRの世界でも不憫だった』
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いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)
一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
──電柱社、地下研究室。
「テストプレイ? あの……俺じゃなくてもいいんじゃ……」
「いえ、潤様……社員の安全を守るのも、上に立つ人間の役目です」
冷ややかな笑みと共に、ノアが淡々とヘッドセットを差し出す。
いや、まだ何も許可してないのに、なんで俺が“危険容認前提”で扱われてんの?
「久松先輩、まさかこのVR……爆破とかしないよね?」
「心配しすぎっすよ!せいぜい、意識だけ飛ぶ程度で済みます」
「それが一番やべーやつなんだよ!!」
──というわけで。
どうしてこうなったかというと、電柱社の久松先輩が資料室で発掘した“謎の設計図”を元に、うちの開発部(という名のヒロインズ)と共同で作り上げた新作VRゲームのテストプレイが今日行われることになったからだ。
「原案はどこから来たのか不明っすけど、なんかダンケキって文字が書いてたっす」
「何そのネーミングのゲーム!?」
だが、最大の問題は“誰がプレイするのか”。
社員を巻き込めない。ヒロインズは危険すぎる。ユズハは……最初から遊ぶ気しかない。
社長だからと意味のわからん名目のもとに、“消去法”で俺に決まった。
(こんなデスゲームのような空気で、VRゲームって言われてもな……)
目の前には、見るからにヤバそうなゴーグル。
背面には謎の魔法陣みたいな回路と、鳴り止まぬウィーンウィーンという駆動音。
「ユズハ、これほんとに大丈夫?」
「大丈夫ですって〜♪ リアちゃんもちゃんとチェックしたし〜、私も3回くらい“たぶん動く!”って言いましたから〜」
「“たぶん”が三回あってもゼロ点だろ!? てかリア!? 本当に見たの!?」
リアは本を読みながら、あくび混じりに答えた。
「理論上は作動します。安全性は……祈るしかありませんね」
「せめて祈らせる前に止めてくれぇぇぇぇぇ!!」
──が、断る権利など俺にあるはずもなく。
恐る恐るゴーグルを装着し、電源を入れると──
【起動音】
ポワァァァン♪ という気の抜けたファンファーレと共に、意識が暗転していった。
【潤視点/VR世界】
──視界が、一変した。
ヘッドセットを装着した瞬間、脳内に直接響くような起動音と、ファンファーレじみたBGMが流れ込んできた。
【──Welcome to “ウル⭐︎フロンティア”──】
(……ウル星? フロンティア? なんだそのセンス……)
言いたいことは山ほどある。けど、それより目の前の光景だ。
空が広く、雲がゆっくり流れている。大地は柔らかな草原で、遠くには城壁に囲まれた王都が見える。
(……これ、VRだよな?)
なのに──風の温度、草の匂い、太陽の眩しさ……全てが“本物”だと思わされるほど、リアルだった。
『おぉ……』
思わず声が漏れる。手を広げてみると、体が妙に軽い。思い通りに動くどころか、疲労感や重さが一切ない。
(これが……次世代VR……!?)
──と、そのとき。
『キャアアアアア!!』
甲高い悲鳴が、城の中庭の方から響いた。
(今の……女の子の声か!?)
迷う間もなく走り出す。重力の縛りが薄いのか、地面を蹴るたびに体が浮くような感覚だった。
石造りの廊下を駆け抜け、見渡せる回廊へ出ると、そこには──
──金髪のエルフ少女。ドレス姿で、魔物に追い詰められていた。
(……テンプレか!? いや違う! これは事件だ!!)
目を凝らせば、魔物の肌は灰色にくすみ、牙が滴るほど鋭い。リアルすぎて目を背けたくなる……が、
そんなこと言ってる場合じゃねぇ!
(武器……武器……どこだ!?)
周囲を見渡す。壁に飾られた剣──装飾がきらびやかすぎてどう見ても“展示品”だったが、
今はそれが唯一の選択肢だった。
(文句言うのは助けてからにしろ!)
──ガシッ。
柄を握り、鞘ごと引き抜く。想像より軽い。けど──
『うおおおおおおおおおおおっ!!』
叫びと共に魔物へと突撃。
少女に気を取られていた魔物の背後に斬撃を叩き込む──
──ズシャッ!!
手応えと共に、魔物が崩れ落ちた。
(よし──あと一体!!)
次の魔物がこちらに気づき、振り向く。目が合った。
(──間に合わねぇっ!!)
即興の判断だった。俺は手にした剣を振りかぶり、思い切り投げた。
『せいっ!!』
──カシュンッ!!
刃が空を切り──
──グサッ!!
魔物の胸を貫いた。
しばらくの沈黙。そして、バタリと音を立てて倒れる魔物。
(……やった……?)
放心する俺の前で、エルフ少女が駆け寄ってきた。潤んだ目をこちらに向け──
『あ、ありがとうございますっ! お名前を、お名前を教えてくださいっ!』
『……スーパー潤です』
気がつけばキリッとポーズまで決めていた。
俺の中の中二病が、つい顔を出してしまったのかもしれない。
でも、彼女はキラキラとした瞳で言った。
『きゃ〜〜っ! スーパー潤様!! 助けていただいた私に、何か──何か望みはありますかっ!?』
(……いや、なんだこの展開……)
でも、なんか──テンション上がってきた。
(VR、最高かよ……)
──潤の冒険は、始まったばかりである。
【現実世界】
「おおっ! 始まったでぇっ!」
「私たちはモニターでチェックチェック〜♪」
「音声は骨伝導で脳に直接。プレイヤーの声はこっちには聞こえない仕様です」
「さっすがや……あっ、魔物あらわれたで?」
「うーん、なんか武器探してますね〜、先輩……」
VRヘッドセットをかぶった潤が、ゆらりと立ち上がる。
……そして、何の迷いもなくモップを掴んだ。
「えっ、えっ、それ武器扱いなん!?」
次の瞬間──
バゴォォォォン!!!
潤、床に叩きつける。自分のスマホを。
机ごと破壊。
「「あっっっっ!!??」」
パリンッ。画面がヒビを入れながら、回転しつつ床へダイブ。
「と、止めな──」
──が、止まらない。潤はそのままモップを逆手に持ち、全力投擲!
ブォンッ!
「えっ、そっち!? いや投げるんかい!!」
──ドゴォッ。
着弾先は──久松先輩のデスク。
「──私の……あ、愛しい……ぱ、ぱそこんがあああああっっっ!!」
久松先輩、スローモーションで崩れ落ちる。
倒れたモニターの破片を撫でながら、涙の床這いずり。
「おおおぉぉぉ……がんばってくれてたのにぃ……昨日まで一緒に……アマプラ見たのにぃ……!」
「っていうか何してんねん潤くん!?」
カエデが画面を指差す。
「いや、これは……名前決めるシーンですね」
……画面内、キャラが決めた名は──
【スーパー潤】
「「スーパー潤!?」」
ピンと伸びた背筋で自信満々に表示される名前。
「ダッッッッッッッサぁぁぁああ!!!」
カエデが爆笑で机バンバン叩く。
「潤くん何それ!? ストゼロ時代のハンドルネーム!?」
「潤様……お名前、かっこいいです……っ」
「ノア!? 君だけ時代が昭和なんよ!!」
しばらく爆笑したあと、ふと現実の潤を見ると……
もふ……もふ……。
「あれ……なにしてるん?」
両手で、ぬいぐるみの胸元あたりを──揉んでいる。
もふ……もふもふ……
「ねぇ、あれなにしてんの潤くん!?」
「ご褒美……聞かれて揉んでますね。控えめに言って……キモいです」
「ご褒美って何!?」
「たぶん、スライム倒した直後に“褒美を取らす”みたいな選択肢が出たんだと思います」
「いやいやいやいや、そんなモード入ってたの!?」
ノアが立ち上がる。
「──あの人形、後で処分致します」
「えっ、ノア様それは穏便にっ……」
「穏便など、潤様がぬいぐるみの胸を揉んだ時点で消えまし
「──あの人形、後で処分致します」
「えっ、ノア?それは穏便にっ……」
「穏便など、潤様がぬいぐるみの胸を揉んだ時点で消えました
こうして新作の試験が始まったのである……
あとがき小話
X当番、犯人はお前だ編
作者『今日のX当番、サボりが発覚しましたー!』
(部屋の中央、ホワイトボードの前で腕組みする作者。後ろにはでかでかと「当番表(再掲)」と書かれた紙)
ノア『誰ですか?ちゃんとこの間役割当番決めましたよね?私、月曜・火曜・水曜・木曜・土曜・日曜、担当したいと言ったのに……泣く泣く諦めて、土曜だけにしたのに……』
ユズハ『サボったのって金曜ですよね〜?』
ミリー『えっ!?ミリーじゃないよ!?ミリー、ちゃんと木曜日つぶやいたもんっ!ほらっ、ウサ耳の写真アップしたやつ!』
リア『木曜はこちらで確認済み。写真フォルダのタイムスタンプも一致してる。潔白でしょう』
カエデ『ほな金曜って……ユズハちゃんちゃうの?』
ユズハ『えっ!?いや〜……そ、それは……っ! た、たぶん……電波障害的な……宇宙の乱れ的な……』
ノア『つまり、**“投稿が宇宙に吸い込まれた”**と?』
作者『言い訳がアニメ第23話くらいで急にシリアス展開始まったみたいな匂いしてるぞ……』
ユズハ『うぅ……ちょっと香水のせいかもしれません……♡』
カエデ『出たー!逃げ切れへん時の小悪魔ムーブや〜っ!』
エンリ(ふふっと微笑みながら)『では、今夜はユズハさんが投稿して反省の気持ちを伝える……ということで、よろしいですね?』
ユズハ『ちょっ……あ、え? 今夜って……もうあと15分で日付変わるんですけど!?!?』
ノア(きっちりメモを取りながら)『それと、来週の金曜は私が代理で担当します。ユズハさんの信用が回復するまで、当番表からは外しておきますね?』
ユズハ『ノアちゃん容赦なさすぎじゃない!?会社なら左遷レベルだよ!?』
作者『──では、決まりだな。再発防止のため、全員で“真面目にやると決めた時のユズハ”の顔真似10秒間いきまーす』
潤(なぜか横で巻き込まれながら)『だから俺、関係ねぇって……!』
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X当番──それは戦い。
ヒロインたちの“人間味”が垣間見える、ちょっとした事件でした。




