第121話『俺、なら行ってみろよ!って言う』
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一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
リアは確実に怒ってる。
いや、正確には──鬼神の如くガチギレ寸前ってやつだ。
というのも。
「せんぱ〜い♡ お化け怖いんですかぁ〜? ぷぷぷっ、まさかユズハちゃんがいないと寝られないんですかぁ〜?」
「お化けとか幽霊とかよーわからんもん、怖がりすぎやで? ほぉんま肝っ玉ちっさ〜!」
目の前で笑い転げるのは、テンションで墓場に突っ込む小悪魔と、脳筋な関西弁の甘えん坊である。
俺とリアが、前回の“あの宿”でどれほど恐怖を味わったかをまるで伝える気がない。
「怖くなんか、ありません……っ! や、やめなさい……頬をむにゅむにゅとするのは……!」
必死で反論しながらも、頬をぐにゃらせたままのリア。
いっそホラーよりホラーな顔面だが、可哀想なので黙っておく。
(……てか、俺も同じくらいトラウマなんだけど?)
そう、俺たちは理不尽なほど怖い宿を体験済みなのだ。
あの鏡、あの天井、あの“何か”。
忘れようとしても忘れられない恐怖が、フラッシュバックでぶん殴ってくるレベル。
「じゃあもう、あそこにお前ら二人で泊まってみろよ! どれだけ怖かったか、体験してこい!」
思わず叫んだ。
こっちは人生をかけて逃げ帰ったのに、こいつらは地獄のディズニーランドだとでも思ってんのか。
「ええけど? うちらだけやとビビってたかどうか、確かめようがあらへんしなぁ〜」
「そうですよね〜? やっぱり比較対象がないと☆」
──ちょ、まてまてまて。
「せやから〜潤くんとリアちゃんも一緒に行ったらええんちゃう?」
「再現実験って大事ですもんね〜! あ〜科学的ぃ〜♪」
勝手に拡大される地獄旅行。
こっちは記憶消してでも逃げたいトラウマを、ホイホイ引っ張り出してくるんじゃねぇ!!
「わ……私はっ、べっ、別にその……っ! 行きたいとかは……っ!」
リアの顔が、クレヨンしんちゃんのブルブル顔芸みたいになってる。
(いやいや、俺も同じだから!?)
「お、おれも嫌だ! 絶対に行かないからな! 誰が行くかあんなとこ!!」
──そのとき。
「あら? どうしたんですか? 楽しそうですね」
ちょうど通りかかったのは、我らが癒し担当にして天然災害級の包容力お姉さん──エンリだった。
(きたっ……! このタイミングで現れるって、もはや天啓……!!)
前回はへっぽこ合理少女リアと二人っきりだった。
でも今回は!
「いいところに来たエンリ! 今から4人でお泊まり行くぞ!!」
「ふふっ、いいですね。それではお夜食の準備をしておきますね♪」
これで勝ち確!
さぁユズハとカエデ!
お前らのビビり散らかす悲鳴を堪能してやる!
こうして俺ら4人はあの宿に再び泊まりに行くのだった……
そして、問題の宿の前。
やっぱり……何度見ても──
風通しが異常に良さそうな古民家。
かなり好意的に言って、レトロ。
冷静に言うと──廃屋。
(いや、ツタ絡んでるし……玄関、ちょっと傾いてない?てか、「ようこそ」って文字の札が逆さなんだけど……!!)
「せんぱ〜い? シャンプーハット持参って、子供すぎませんかぁ〜?」
「違うわッ!お前らわかってない!あの宿のシャワー、の恐ろしさ知らないだろ!?
泣きついてきても貸さねぇからな!これは命の装備なんだよ!!」
「ウチら、いらへんもーん♪なー、ユズハ〜?」
「ですです〜♡ せんぱい、それ被ってるところ、ちょっと写真撮っていいですかぁ〜? “夜の戦士”みたいでウケる〜☆」
(こいつら……!絶対に後悔させてやる……!)
(この中で**唯一の“生還準備済み”が俺だということを思い知らせてやるからな!!)
「それより、ユズハ?」
「はいは〜い?」
「何で……そんなパーティー会場みたいな格好してんの?」
「え〜? お泊まり会といえば、こういうラメ入りパーカーとカチューシャと──」
「お前、映画の女子会シーンだけ切り取って来たのかよ!?」
(誰か“泊まりに来た”じゃなくて“映えに来た”って言ってくれ……)
チラリと隣を見ると、エンリが微笑みながら頷いた。
喋らずとも伝わる、包容力の極み。
癒しの女神。全てを受け入れる余裕の塊──
(……で? 何でその手に手作りハーブピロー持ってるの?)
(完全に、リラクゼーションに来てるじゃん……!?)
そんなこんなで、満場一致で泊まる気満々なヒロインズとともに──
俺たちは、ついに宿の中へと足を踏み入れた。
(……生きて帰れる気が、まるでしない……!!)
あとがき小話
リアの部屋にて(夜11:52)
──作者、足音を殺し、そっとドアを開けた。
室内は──ほとんど物音もなく、空気まで研ぎ澄まされている。
観葉植物と香りの薄いアロマ。
棚には整然と並んだ書籍、技術書、心理学、詩集、そして──ひときわ目を引くのは『演出心理の逆転理論』。
リア『……これは、“あえて言葉にしない選択”の有効性か……』
(ペンをくるくると回しながら、ソファで脚を組んで本を読んでいた)
リア『“黙ることは、最も強力な言葉になりうる”──ふふ、面白いですね』
──テーブルには湯気の消えかけたハーブティー。
付箋だらけのノートの一角に、“潤”という名がちらっと見える。
リア『……葉山潤。』
(その名前を呟いて、すぐに目を閉じる)
リア『あれだけ騒がしい日々なのに……気づけば、思考の中心にはいつもあなたがいる。』
(かすかに、唇の端が緩む)
リア『……少し、腹立たしいくらいに。』
──ページを閉じ、本を抱えながら立ち上がる。
静かにカーテンを開け、夜空を見上げたリアの横顔は、いつもよりずっと──柔らかかった。
リア『次に会った時は、……少しだけ甘くしてみましょうか』
──作者、扉をそっと閉めた。