第117話『俺、食卓で命をかける羽目になった』
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どんな話題でも気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。
いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)
一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
ある日のこと──
ヒロインズは潤を抜きにして、ノア宅で女子会を開催していた。
(なおその頃、俺は別の事件に巻き込まれていたのだが……それはまた別のお話)
ノア邸のリビングには華やかな香りと、割と重めの気配が漂っていた。
「ふふっ、では私はキッシュを焼いてきますね。潤様、お好きでしたから」
「エンリは筑前煮が完成です〜、優しい味になってるといいなぁ……」
「うちは唐揚げ揚げたで〜。油多め、味濃いめ、関西風やっ♪」
カエデが台所で軽く腰を振っている。
包丁を持ったまま。
「ねーねー見てっ!ミリーね、ユズハちゃんと『プリンおばけ』作ったのーっ!」
「おばけじゃなくてプリンの亡霊ですってば〜、怖がって♡」
ミリーとユズハが、顔にプリンを塗りたくった何かを手に持って爆笑していた。
すでに料理ではない。
「……あまりに騒がしいと本が読めません。注意してください」
リアが本のページをめくりながら、モナカをかじる。
それは明らかに「つまみ食いしながら読書」という冷静な愚行だった。
⸻
料理がテーブルに並び、女子会が始まる。
品数は膨大。
キッシュ、唐揚げ、煮物、彩りサラダ、謎のプリンオブジェ──カオスと家庭料理の融合だ。
「うわーいっ!ミリーこれ食べるーっ!」
「ミリーちゃん、落ち着いてくださいね?そんなに慌てなくても、料理は逃げませんから」
エンリが優しく諭すが──
「はぁ〜いっ♡ ……でも先に食べちゃうのっ!」
ミリーが手を伸ばした瞬間──
「それ♪いっただき〜⭐︎」
ユズハが横からフォークで強奪。
「甘いで〜、それうちの狙っとった唐揚げやぁ〜!」
カエデが腕ごと抱きつく形でフォークを阻止。
「……皆さん、食事は平和にしましょう」
リアが微妙な表情でキッシュを口に運ぶ。
場はにぎやかというより、軽度の騒乱である。
⸻
だが次の瞬間──
「それにしても……料理、全部美味しいですね」
リアが自然と漏らしたその一言で、場が一瞬しん……と静まり返る。
エンリが微笑み、カエデが「やろ〜?」と笑い、ユズハがドヤ顔し──
そして──
「当然です。潤様の正妻たる者、最高の料理を提供できなくてはなりませんから」
ノアの静かな一言が、場に爆弾を投げた。
──ピシィ。
場の空気が音を立てて割れた。
⸻
ユズハの動きが止まる。プリンのフォークを持ったまま、氷のように。
カエデがキッチンペーパーで手を拭きながら、ゆっくりと振り返る。
エンリがほほ笑んだまま、「お茶を淹れますね」と席を立ち──戻ってこない。
ミリーがプリンおばけをもったまま、こてんと首を傾げる。
リアが「……あ」と言ってから、口を閉じる。
──全員の視線が、ノアに向けられた。
「え、えっとぉ〜……いまのって……どゆ意味〜?♡」
ユズハが笑顔を貼り付けたまま、目が笑っていない。
「うちは正妻じゃないとでも言いたいんか?」
カエデが唐揚げを持ったまま、すでに利き手がグー。
「ふふ、潤様が好むのは、優しさですよ?……強調しますけれど、“優しさ”ですからね?」
エンリが戻ってきた。お茶ではなく菜箸を持っていた。
「……ノアさん、事実確認のためにお聞きしてもいいですか」
リアが冷静にナイフを手に取る。食事中ではない。
ミリーが両手でプリンを握りしめ──
「じゃあ、ミリーは潤くんの……なんなのっ!?」
⸻
ノアは微笑んだまま、ティーカップを口に運び、
「皆さん、落ち着いてください。潤様が誰を選ぶかなど、決まっていることです。」
一瞬の沈黙ののち──
女子会、修羅場化した
ユズハが、にんまりと口元をゆがめる。
「でもぉ〜……ただ“美味しい”って、誰でもできちゃうことですし〜」
その口ぶりは、完全に煽りスイッチが入っている。
「先輩ほどの人ならぁ〜、先輩らしく、他じゃ絶対真似できないような!
“唯一無二の料理”とか出せないと〜、正妻名乗るにはちょっとぉ〜……♡」
その場の空気がピリッと走った。
ノアが、ティーカップをソーサーにそっと戻しながら──少しだけ、口元を歪めた。
「……もちろん、私が一番“変わった料理”を提供できますけど?」
エンリが小さく「あらあら」と微笑むが、視線は鋭くなる。
「変わった料理、ですか……ふふ、それは楽しそうですね♪」
カエデが唐揚げをくるくる回しながら、
「ほんまかぁ〜? 見た目の綺麗さは、そりゃ認めるけどな。
でも“変わった”ってなら、うち、ちょ〜っと自信あるでぇ?」
「ミリーも!ミリーもー!ミリーの“プリンおばけパンケーキ”で勝負するーっ!」
「……私も、一応は“分子調理”の参考文献ぐらいは読みました」
リアがさらっと恐ろしいワードを口にしていた。もはや理系。
──火花、散る。
リビングの空気が一転し、ただの女子会だったはずの空間が、
突如として“料理アリーナ”へと変貌を遂げた。
「では、ルールは簡単。“もっとも変わった料理”を提供した者が正妻に一歩近づく」
ノアが当然のように言い切った。
「そんなルールいつ決まったんですかぁ〜?」
「今です」
──誰も止めない。
むしろ全員、ノっている。
かくして、潤がいないまま始まってしまった。
『変わった料理選手権〜in ノア邸〜』
あとがき小話
〜そっと扉を閉めるシリーズ・ミリーの部屋〜
作者『……えっと……どんな様子かなって思って、ちょっとだけ。うん、ちょっとだけ……。』
(そっ……)
きぃ……
──静かな空間。
ほんのり甘い香りが漂う中で、ミリーが毛布にもぐりながら、何かを抱きしめていた。
ミリー『……じゅんくん、今日もね、いっぱいがんばってたんだよ……』
(ミリーの腕の中には、手作りらしき“じゅんくんクッション”)
ミリー『だからね?ミリーがぎゅーってして、元気わけてあげるの……えへへ……ミリー、ぎゅーするの得意だから……♡』
(嬉しそうに頬をすりすりしながら)
ミリー『んー、でも、もしかしたら今日はちょっと疲れてたかな……ご飯食べたかな……』
(小さく眉を寄せながら、ぬいぐるみにそっと布団をかけてあげる)
ミリー『ミリーね、もっともっとがんばるの。明日はじゅんくんに“ミリーのこと、もっとすき!”って言ってもらえるように……ふふっ、えへへっ♡』
(毛布の中でもぞもぞ動いて、クッションにちゅっ)
ミリー『おやすみなさい、じゅんくん……ミリー、ずーっとだいすきだよ……♡』
──その寝顔は、あまりに幸せそうで。
作者(そっと扉を閉めながら)『……見なかったことにしよう……尊すぎて耐えられん……』