第114話『俺、葉山トムクルーズ』
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どんな話題でも気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。
いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)
一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
遂に──
俺はDVDショップに辿り着いた。
(ここまでの道のり……長かった……)
だが、気を抜くな。
本当の地獄はここからだ。
寧ろ、ここが最大の難関とすら言える。
なぜなら──
このショップには、“B級ホラーの墓守”ことユズハが出没する。
「ちょっと血が出るだけでR18指定とか、あれ偏見ですよね~」とか言いながら、爆笑しながらスプラッター漁ってるあの小悪魔が!
だが俺は、既に奴の行動範囲を割り出してある!
ユズハのX(旧Twitter)のポスト──
3日前のコンビニおでん投稿、2日前の「今日もお家映画です」ポスト。
現在、奴は**“在宅モード”**に入っている!!
──つまり!奴は現れないッ!
今日の俺、冴えてる。
もう怖い。
自分の知略に鳥肌すら立ってきた。
俺は颯爽と店に入ると、背後を確認して──
そのまま逃げるように「18」の数字が輝く聖域コーナーへ駆け込んだ。
ここは──夢を追い求める者たちの聖地。
己の欲望とロマン、羞恥と覚悟を一つにして──
真剣に、ただ真剣に、“最高の一本”を探し続ける者たちの戦場。
本来なら俺も、じっくりと作品の背表紙を読み比べ、演出家の意図を汲み取りながら“ひとつなぎの秘宝”を選び抜きたいところだが……
今日は時間がない!
危険が伴う以上、最速で“目当ての一本”を掴み取る!
──だが、ここで慌てるのは素人のすること。
俺は違う。
ベテランは違う。
DVDをそのまま持っていくなど愚の骨頂。
俺はすかさず適当な雑誌を2冊手に取り──
その間にDVDを挟むという鉄壁の布陣を展開。
これぞ──
パーフェクト・ツイン・ミスディレクション!!
鮮やかな手捌きに、思わず笑みがこぼれる。
あまりの美技に、誰かが拍手してる気がした(※幻聴)。
『ふっふっふ……』
──その時だった。
『あれ〜、せんぱーい? こんなとこで会うなんて〜♡』
(……嘘だろ)
振り向きたくない。
視線を上げたら負けだ。あそこに“情報災害”がいる──!!
『まるで運命ですね〜?』
(違う……それは断じて違う……)
『あれれ〜? もしかして〜休日にユズハちゃんとバッタリで、緊張しちゃってますぅ?』
──いや、別の意味でな!!
(もはや鼓動が尋常じゃない。心臓に悪すぎるだろこの現場……)
仕方なく話を合わせる。
『お、おぉ〜奇遇だなーユズハ?』
『せんぱい、何か隠してます?』
クソッ……やっぱり勘がいい!!
油断した──!
下手に否定すれば、面白がってさらに食いついてくる!
俺が返答に詰まっていると、ユズハの目が鋭くなった。
『手に持ってるのわ〜──』
──やめろ!やめろおおおお!!
『──あーーーーー!!』
(あぁぁぁもうダメだおしまいだぁぁぁ!!)
『それノアちゃんの写真が載ってるやつですよね〜?』
………………え?
『えっ、そうなの?』
『えへへ〜やっぱり先輩、ノアちゃんのこと気になるんですねぇ?』
(こ、これ……生き残れるかもしれないッ!?)
『あ、あ、当たり前だろ?』
(ありがとうノア……今だけはお前が人気女優でよかった……!)
『でもでも〜ユズハ、ちょびーっとだけ寂しいんですけどぉー?』
やばい、こっちのフラグが立ち始めた!
このままでは【ノア推しの変態潤先輩】が拡散される!!
活路を探せ!活路を探せ俺!!
『そ、そうだ!ゲンジが若手女優探しててさ!』
『なんかこう、断られてもゴリゴリアピールしてくるタイプの子がいいとか言ってて──』
その瞬間、ユズハの表情が変わった。
スッ──と真顔になるユズハ。
『……先輩、私、大事な用事ができたのでっ!!』
風のように走り去っていくユズハ。
(すまんゲンジ……犠牲になってくれ……)
俺はようやく、レジへと歩みを進めた。
手には雑誌2冊、そしてその間に隠された秘宝。
レジの店員がその構造を目にした瞬間、
口元がぴくりと動いたのを俺は見逃さなかった。
──笑った……!?
いや、笑ってなどいない。気のせいだ。
むしろあれは……敬意の表情だった。
店員(たぶん同士)が俺に微笑んだ。
(……この戦場を、君も越えてきたのか……)
──全てはこの後のために。
俺は、すべての羞恥に打ち勝ち、すべての障害を切り抜けた。
そして今、俺は……ロマンの最前線に立っている。
たとえこの道が間違っていたとしても──
この瞬間だけは、誰にも止められない。
俺は急いで家路を進む。
途中、リアに話しかけられたような気がしたが──
気のせいだ。
今の俺に必要なのは“冷静な判断”ではなく、情熱と速度!
とにかく──
一刻も早く、帰って、楽しみたい!!
まるでゲームを買ってもらった子供が、帰りの電車で説明書を読み始めるような……
いや違う!
そんな可愛いレベルじゃない!
この袋の中身は、堂々と持ち歩いていいブツじゃねぇ!!
説明書なんて読んでる場合じゃねぇ!!!
玄関に辿り着いた俺は、秒で家に飛び込む。
バタン!!
──カチッ。
まずはドアの鍵を二重にロック。
──カーテンを閉め、窓の戸を重ねて施錠。
──壁の時計を外して、秒針の音までシャットアウト。
完璧な密閉空間が完成する。
ここは、“俺だけの劇場”。
そして、部屋の中央にどっしりと構えるのは──
壁一面の50インチ超大型モニター。
──そう、これだ。
これを手に入れるまでに、俺はどれだけの犠牲を払ってきた?
あのテレビをぶっ壊したミリー、
監視してきたノア、
盗聴疑惑までかけてきたリア、
張り込みを仕掛けてきたカエデ、
ホラー映画のフリして現れるユズハ。
全てをくぐり抜けて、俺は今ここに立っている!!!
エル・プサイ・コングルゥ
……ふぅ。
まずは、スピーカーのボリュームを──最小に。
これは“基本中の基本”だ。命を守る最重要処置。
そして、DVDを──
そっと、慎重に、両手で持ってプレイヤーにIN。
思えば、ヒロインズと出会ってからというもの、
俺はずっと、ずっと、ずーーーーーっと──
我慢してきたッ!!!
今日はその解放の日だ!!
俺の欲望よ、解き放たれろォォォ!!!
ディスクが回転を始める──
画面に浮かぶメニュー画面──
選ぶのは、最速で、目的のシーン。
“導入”とか“ストーリー”とかは今日いらない。
俺が観たいのは、魂のぶつかり合いだ!!(意味深)
そして──
クリック。
\ああーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!/
…………。
部屋の空気が、揺れた。
カーテンが“ビクッ”と跳ねた。
窓が、“ガガッ”と鳴った。
照明が、一瞬フラッシュのように光を跳ね返した。
スピーカーが、吠えていた。
鼓膜が、震える。
魂が、揺さぶられる。
心臓が、“ぎゅっ”って縮んだ。
置いてあったコップが倒れ、
リモコンがスピーカーの震動で床に落ち、
猫型加湿器のスイッチが勝手に切れた(※うちに猫はいない)。
──俺は、気を失いかけた。
(最小音量じゃなかったんかあああああああああああ!!!!!!)
※出荷時設定が「MAX」になっていた可能性があります
俺は即座にボリュームを下げる。
指が震える。
目が泳ぐ。
画面の中ではまだ、喘ぎ声が響いていた。
(黙れ!今は黙ってくれ!)
(この声に“命の危機”感じてるの俺だけなんだよ!!)
その時だった。
ピンポーーーーーン!!
……来た。
“それ”が来た。
人類にとってもっとも恐るべき音が、玄関越しに鳴り響く。
(……いや、まだだ。まだ“宅配便”かもしれない)
(なにかの……通報じゃない、はず……)
──インターホン越しに映ったのは。
……大家だった。
目が笑っていない。
表情が怖い。
手には【管理組合規約】が握られてる。
そして口が、ゆっくりと開いた。
『葉山さん……』
『お隣から、“断末魔のような女性の悲鳴がする”と通報がありまして……』
俺の人生、終わった。
完全に、終わった。
DVD、返却期限前に燃やすことになりそうだ。
(俺はただ……静かに夢を見たかっただけなのに……)
──今日の教訓。
スピーカーの初期設定は、確認しろ。
あとがき小話
作者『作者は今──**9Lanaさんの「プロポーズ」**って曲にドハマリしているのですッ!!!』
潤『急にどうした。何その発表。あと語尾うるさい。』
ユズハ『もしかして〜? “独占欲強い系女子”に……憧れちゃってます〜?』
作者『サイコーだろ!?!?!? あの感情の重たさと真っ直ぐさと「他の女と話すな」感!重たい愛こそ正義!!!』
ノア『……よろしいですね。作者様の感性、やっと正常になってきたようです』
カエデ『んふふ〜? そんなん、ウチが一番やんね?
潤くんが他の子と仲良くしてたら、そっこーで奪い返すで?』
ユズハ『あはは〜カエデちゃん、それ独占っていうか略奪では〜?』
エンリ『ふふ。私は見守るだけですよ? でも……その子の記憶は、丁寧に消させていただきますね』
潤『待て待て待て待て!? それ独占じゃなくてホラーだろ!?』
リア『感情に支配されるのは愚かですが……“誰にも渡さない”という考え方は、ある意味、合理的です』
潤『あっちもこっちも正気じゃねぇ!!』
ミリー『えへへ、みんなそんなこと考えてたんだね!ミリーはただ、ぎゅーってしてたいだけだもん!……でもね? 誰にも潤くん、貸さないけどっ♪』
潤『最後にピュアっぽくぶっこんでくるのやめろ!』
作者『ふふふ……ヒロイン達の愛が暴走していく様、これこそ「プロポーズ」の精神!』
潤『お前が一番危険人物だろ!俺を巻き込むな!』
作者:pyoco(独占されるのも、悪くないよね……他人事なら)




