第109話『俺、宿を探す』
いつも読んでくださって本当にありがとうございます!
なろうではコメント欄がちょっと静かめですが、
感想じゃなくても「日常のこと」「アニメの話」「つぶやき」など、
どんな話題でも気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。
いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)
一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
『潤……何故私もこの様な事に巻き込まれているのか理解できません……』
『いや、お前のせいだよ間違いなく!』
俺とリアは公園の隅で体育座りしていた。
街灯の下、鳩すら近づいてこないベンチの片隅。俺たち二人は、世界から孤立していた。
──思い返せば、あの後。
血相を変えたヒロインズの襲撃を受け──
ただただ逃げるので精一杯だった……
リアが淡々と呟く。
「……時間、15時43分。カエデ氏、玄関の扉を“笑顔で”蹴破り突入。
リア:初撃で“お菓子を置いた棚”を的確に粉砕したことを確認」
『お前どんなメモ取ってたんだよ!?つーか“氏”呼び!?』
続けてリアは冷静に回想を紡ぐ。
「15時45分。ノア氏、正面からトンファーを抜刀。
“潤様を傷つける空間を排除します”と宣言し、リアに向かって投擲」
『お前ほんとに投げられてたのかよ!?てかトンファー投げるなノアァァ!!』
「15時47分。ユズハ氏、ベランダから侵入。
“あっ、リアさんに拉致されてるって拡散しまーす”と叫びながら、謎の生配信開始」
『あの時点で俺のTwitterの通知、100件超えてたからな!?やめろ社会的抹殺!!』
「15時49分。エンリ氏、扉の破壊を見て“これは危険ですね”と判断し、
“全員が落ち着ける空間の確保”のため、潤の冷蔵庫を丸ごと持ち出そうと試み──」
『あれだけは絶対に許さない。俺のプリン返せ。』
最後の──あの声だけが、今も耳に残っている。
『じゅんくーーん!! ミリーをみすてないでぇーー!! みんなの目が怖いよぉ〜〜〜!!!』
走り去る背中に投げかけられた、涙声の絶叫。
ミリーの叫びが、耳に残る……胸を刺す……そして何より罪悪感が重い。
──すまんミリー……君のことは……忘れない!!
そうして今に至る。
『で?潤……どうするんですか?このまま体育座りは合理的ではありません』
『いや……わかってるけど……あそこに今戻ったら……』
なんか、わからないけど……奥歯がカタカタ鳴った気がする。
(ノアの「確認のため一撃です」ってセリフ……脳裏でリピートされてる……)
リアはため息をつきながら、すっと立ち上がる。
「ひとまず今晩寝る宿を探しましょう。ホテルも空き部屋の一つや二つはあるはずですから」
『あぁ……そうだな……一晩立てば皆の気持ちも落ち着く……はず……』
(頼むから“落ち着く”の意味が“消毒完了”とかじゃないことを祈る……)
俺とリアは、静かに立ち上がった。
目指すは今宵の宿。せめて、人として眠れる空間を──!
リアはスマホを片手に宿を検索していた。
その眼差しは鋭く、指先の動きはスムーズ。
さながら情報戦のプロ──いや、現実逃避のプロか。
「……ここです。見つけました」
案内された先──そこには見るからに格式高いホテルが建っていた。
白亜の外壁に絨毯の階段。自動ドアの先に覗くシャンデリア。
『おおお……マジか……!』
思わず俺の中の“ちょっとテンション上がる庶民”が顔を出す。
リアは、そんな俺に勝ち誇ったようなドヤ顔を向ける。
(ほぅ……なかなかやるじゃねーか)
俺もナイスゥー!って感じでサムズアップ。
──沈黙。
──数秒後、重たすぎる疑問が脳内をかすめた。
『……ところで、リア?』
「はい? なんでしょう?」
『ここ、一泊……いくら?』
「フロントの方が言ってました。──“一泊七万円のスイートルームでしたら、ご案内可能です”と」
ドヤ顔、継続中。
眼鏡の奥の瞳が、勝者のそれになっている。
『……リア……それ、二部屋で十四万ってことになるけど……その、お金って……?』
リアはほんの一瞬、表情を固めた。
そして──口角をほんのり上げて、言った。
「ありがとうございます」
『待て待て待て!? 誰にお礼言った!?!?』
襟元を掴んでホテルの外に引きずり出す。
高級感あふれるエントランスに、俺の怒声が反響する。
『お前、いくら持ってるんだよ!?』
「……そんな、公務員……しかも辞職して飛び出してきた私に、あるわけがないでしょう?」
『だったらなぜスイートに突撃した!?お前“知性の化身”みたいな顔しといて“破産の女神”じゃねーか!!』
リアは服を直しながら、落ち着いた声で言う。
「……まぁ、確かに。少々……上を見すぎましたね」
『“少々”のレベルがブルジョアだったわ!!』
リアはスマホを閉じ、くるりと俺の方を向く。
「では、潤。聞きましょう。今晩に使える予算は?」
『あー……俺の全財産が……』
ポケットから財布を取り出し──覗き込む。
『……三千二百六十八円……』
「…………」
リアは黙って、スマホをしまった。
『で、リアは?』
「…………スマホのバッテリーが……残り2%です」
『金の話をしろぉぉぉおおおお!!!』
次のホテルへと向かう。
……が──
『……満室だってさ……』
リアが淡々と振り返る。
その目に映るのは、空室という名の幻想だった。
──そりゃそうだ。
夕方、無計画に逃亡してきた男女が当日に宿なんて──取れるわけがない。
その後も──
行けども行けども、満室、満室、満室。
「空いてません」
「団体予約で……」
「今夜はイベントがありまして……」
『なんでこんな日に限って全国的に盛り上がってんだよ……!』
そして、歩き続けること数十分──
その時だった。
リアが、スマホを掲げてピタリと足を止めた。
「見つけました……」
『マジか!?』
「二部屋──三千円ポッキリ。しかも、トイレ・風呂付きの宿です」
『リア……! やっぱり頼りになるな!!』
神か。やっぱ知性って世界を救うんだな。
俺は心底安堵しながら、リアの後を追った。
──が。
たどり着いたその建物を見た瞬間、
俺の脳が、全力で“逃げろ”と叫んだ。
そこには──
・色褪せた看板に「迎魂荘」の文字
・破れたのれんが風に揺れ
・建物全体が“風通しが良すぎる”構造
──すごーく、めちゃくちゃグレートに盛って、
昔ながらの、えらく風情のある……というか……
『リア? これ、アトラクションかなんか?』
リアは一歩後ろに下がり、俺と並んだ。
「……その問いは、非常に合理的です……私も、同じことを考えていました……」
リアが同意したことで逆に怖い。
あのリアが“合理的ではない”と認めるレベルってなに。
恐る恐る、俺たちは入口の引き戸に手をかけた。
──ギィィィィィ……
重たく軋む音と共に開いた扉の先には、
仄暗い廊下が、奥へと奥へと続いていた。
──照明は豆球一つ。
──壁のシミは年輪のように深く、
──空気は湿り気を帯びて、重い。
まるで、全てを飲み込む“奈落”。
『……リア? ここ? この建物? この世?』
「……はい、住所と一致しています」
住所が問題じゃない。存在がホラーだ。
しかも──
奥の方から、うめき声のようなものが……聞こえなくも、ない。
『絶対なんかいるよね!? “お客さん”じゃなくて“それ以外”の何かが!!』
リアはポーカーフェイスを保ったまま、言った。
「一応……“風呂・トイレ付き”です」
……いや、その“風呂”に俺、沈められそうなんだけど。
ともかく、受付に向かう。
カウンターの前に立ち、備え付けのベルを──
──チンッ!
音が響いた次の瞬間、
ガタガタと廊下の奥から現れたのは……
『いっらぁしゃいせぇ〜〜〜〜』
──足腰ガッタガタの老人。
いや、もはや“逝きかけてる”レベル。
片目は白く濁り、口元は虚ろに開いたまま、
呼吸の合間に“あの世の風”みたいなのが漏れてる。
『ふ……ふた部屋、泊まりたいんですけど……』
俺が喉を震わせながら言うと、
老人はカウンターの下から帳簿を取り出し──
「ふぁふぇあ……ありますよ〜〜……え〜と……」
ページをめくると、老人は静かに呟いた。
「……“懺悔の間”と……“さんずのわ”」
『間違いなく死者側の部屋ァァァァァ!!!!』
あとがき小話
作者『ちょっと冷静に振り返ってみたんだけどさ……俺、投稿開始から今、129話目書いてるんだよね』
潤『……うん』
作者『で、日数で割ったらさ……だいたい1ヶ月60話書いてる計算なんだけど……バグってない?』
潤『完全にバグってるよ!?どう考えても“人間のやること”じゃねぇよ!!』
作者『いやー、最初は1日1話とか2話とかのつもりだったのに、気づいたら「書かないと死ぬ病」になってて』
潤『お前どこの種族だよ!?“ヒロインに追われてる俺”よりお前の方がやべーよ!!』
作者『でもさー……読み返すと……ぜんぶ暴走してて……どれも真面目に見えないんだよね……』
潤『そりゃそうだよ!!!全話どこかしらで俺爆発してんだよ!?真面目な回なんか存在してねぇんだよ!!』
作者『しかもこれ、読者が読み終える前に次の話が出てるペースだからさ……』
潤『それ、もはや“読む側の負荷テスト”だからな!?完全に連載型の形をした体力測定だぞ!?』
作者『まぁ、そんなこんなで──今後も、爆走します』
潤『するんかい!!』
作者pyoco(でも……まだいける気がしてる)