第93話『俺、鳩とは平和の象徴なのか疑う』
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一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
──俺、葉山潤。
まさか、こんなことで祝われる日が来るとは思ってなかった。
「潤さん、お疲れさまです」
出社前の静かな朝。なのに──
「おっはよーーーっっ!!!」
ドアが勢いよく開いた。
「じゅんくーん!おめでとーっ!! よくわからないけどおめでとーーーーっ!!!」
ミリーが元気よく突撃してきた。
ぴょんぴょん跳ねながら、全力の笑顔。もう跳ねてるだけで部屋が明るくなるレベル。
「……いや、お前わかってないんかーい」
「あはっ!でも、じゅんくんが褒められてるのは嬉しいのー!」
そのまま飛びつかれて、抱きつかれる。いや、柔らかさの前にこのテンションの高さでちょっと酔う。
「潤様。改めて、おめでとうございます」
ノアがそっと歩み寄ってくる。落ち着いた声、凛とした仕草。……けど、手に持ってる紙が気になる。
「本日、プロジェクト抜擢ということで──お祝いに“ふたりきりでのお出かけ”などいかがでしょうか?」
「いや、普通に嬉しいけどさ、そんな目を潤ませながら誘わなくても……」
「もしくは、これなど──届け出書類になります。ここに印鑑さえいただければ、晴れて私たちは……ふふ」
「なんの届けだよ!!」
しれっと婚姻届っぽいの差し出してくんな!! 字がもう“届け出る”ってなってるし!
「せんぱ~い、会えなくてユズハちゃん成分足りてなかったんじゃないですかぁ~?」
ヒョコッと顔を出したのはユズハ。小悪魔ポニテ。Vネックにスカート。ピースしながらくねっと身体を傾けて──絶対計算してるだろそれ。
「いますよ~ユズハちゃんが~? 愛でてくれても、いいんですよ~? キャッ☆」
「うん、わかった。落ち着こうな?」
「えー? せんぱい冷たいですぅ~。ユズハちゃん、今日の主役のはずなんですけど~?」
いや違うわ俺や俺! 今日ばかりは譲らんぞ!
「潤くん……」
どこからかしっとりとした声が降ってくる。
「うち……ほんま、もうあかんかと思ってたわ。潤くんの実力が分かる人、おらへんのやないかって」
そう言いながら、カエデがそっと俺の腕に抱きついてきた。
至近距離。距離感ゼロ。顔近い。
「けどな? 潤くんはやっぱりすごいんよ。うちの誇りなんやから」
「いや……うん、ありがとう。……でも」
「でも?」
「無理だと思ってたんかーーーい!!」
ちょっとは信じてくれてもええやん!? なんで泣きそうな顔して褒めてからのそれ!?
「……潤さん」
一際静かな声が、全体を包み込む。
「お疲れでしょう? 少し、膝枕でも……」
振り向くと、エンリが穏やかに微笑んでいた。
まるで“全てを許してくれる世界”みたいな顔してる。座布団出てきそうな勢いで。
「今日ぐらいは、甘えていいんですよ? 疲れたときは、誰かに預けるのも大切です」
いやもう、すごいな……清涼感が。
何かの香りするんじゃないかってレベルで癒される。なのにこの場がカオスになってるのも事実。
「……まったく。騒がしいですね、皆さん」
冷静なトーンで入ってきたのはリア。
腕を組んで、全体を分析するように眺めてる。
「でも……面白い。あなたたち、誰一人として譲る気がないのね」
その口元が、ふっと緩んだ。
「私も、別に譲る気はないけれど。ね、潤?」
全員が俺を見る。
──こ、これは……。
「いや、だから! これはお祝いじゃなくて、俺の取り合いの場になってるだろ!!」
助けてくれ誰か!!
いや、エンリの膝はたしかに気になるけど! でも今は落ち着かせて!!
(……なんかもう、出社前なのに疲れたわ)
時計の針は、まだ朝の8時前だった。
* * *
出社する。
エレベーターは28階──
今日から俺が所属する、“日曜プロジェクトチーム”のフロア。
「ふー……」
さすがに緊張する。
なんせ、電柱社の中でも“超選抜”と噂される部署だ。
……そして隣には、
「おはようっす。がんばるっすよ、応援してるっす」
──やる気ゼロの松久先輩がいた。
タピオカの紙パック片手に、目は眠そう、背筋もまるで伸びてない。
「いや、先輩もがんばってくださいよ……」
「がんばるっすよ。心の中で」
「出してくれそのまま表に……!」
エレベーターが静かに上昇していく。
「ところで先輩、プロジェクトチームって……どんな人たちなんですか?」
俺の問いかけに、松久先輩はモニターの数字をぼんやり見つめながら答える。
「……鳩っすね」
「鳩?」
「うん、鳩。平和の象徴。ちゅんちゅんっすよ」
「それスズメじゃないですか!?」
ちゅんちゅんて……
でもたしかに、優秀な人たちが集まってるなら、自然と協調も生まれるのかもしれない。
和気あいあいとして、意見を尊重し合って、高め合って──
そんな理想のチーム像が、頭に浮かんできた──
──チン。
到着音。
エレベーターの扉が、音もなく開く。
「──って、うおい!!!」
「オメェおせぇえよ!!! コピー用紙は出してから2秒で取りに行けって言ったろが!!」
「こっちの書類、ハンコねぇぞ!? 指詰めるか!? おい!!」
「どうしようどうしようもうおしまいだァ……!」
怒号。罵声。悲鳴。
遠くで机を叩く音。
フロアの空気が、明らかに“常軌を逸している”。
「……あっぶね」
俺はそっと、エレベーターの「閉」ボタンを押す。
静かに、そして確実に、扉が閉まっていく。
──ガタン。
扉が完全に閉まった。
(ちょっと待って……何これ!?)
目が血走った連中。
書類に怒鳴る人間。
デスクで震えるOL。
もう“鳩”どころじゃない。
平和どころか、あれはもう戦場の最前線じゃないか……!
「……先輩。いまの、見ました?」
「見たっす。鳩じゃなかったっすね」
「いやそれどころか、毒くちばしで襲ってくるタイプでしたよねあれ!」
「うん、たぶん軍用に品種改良された方の鳩っすね」
「だからそんな鳩いらねぇんだよ……!!」
心の準備ができてなかったとか、そういう次元じゃない。
あそこに入ったら──確実にHPごとMPまで削られる。
「……行くしかないっすよ、潤くん。
ここで逃げたら、“ちゅんちゅん勢”ってバレるっす」
「バレてもよくないっすか……?」
「だめっすよ。“荒野で羽ばたけるか”が、選抜の分かれ目っすから」
「その選抜、地獄への片道切符じゃないですか……」
でも、松久先輩がこんなテンションでも出社してるってことは、
少なくとも“全滅するほどではない”──のかもしれない。
(……たぶん)
俺は最後にもう一度深呼吸して──再び「開」ボタンを押した。
【あとがき小話】
作者『さてさて、お待たせしましたぁぁぁぁ!!今回はこの企画っ!──“口調シャッフル選手権〜ッ!”』
潤『……言っとくけど誰も待ってないからな。あと選手権ってなに勝負だよ』
作者『次のチャレンジャーは〜!冷静知性の女神・リア!そしてふんわり距離ゼロの関西娘・カエデ!』
潤『ああああやばい、絶対ろくなことにならないやつぅぅぅ……』
作者『ではまず!リアさん、カエデ風でお願いしますッ!』
リア(やや沈黙しつつ)『んふふ〜……うちのこと、ちゃんと見てくれてるぅ? ふわっと包んだるさかい、離れたら……あかんよ?』
潤『誰ッ!?!?誰だよ今の!!!』
リア『……声帯と脳が拒否してます……が、感情の模倣は有効な学習手段です』
カエデ『んふっ、真面目すぎるやろ〜!でもちょっと似てたで?“ふわっと”のとこは!』
作者『続いて〜!カエデちゃん、リアモードでお願いします!』
カエデ(姿勢を正し、超低テンションで)『……感情を排し、冷静に判断するべきやな。でなきゃ、論理が迷子になるで』
潤『おい、カエデ……お前まで誰やねん状態やぞ!?』
カエデ(真顔)『私の中の知性が目覚めてしもたんや……潤、お前、もう逃げられへんで』
リア『その使い方はおかしいです』
カエデ『あ、やっぱり?』
潤『もうやめろぉぉぉ!!俺の知ってるヒロインが遠ざかっていくううう!!!』
作者『あ、じゃあ次は“エンリ×ユズハ編”やりまーす!』
潤『やめろおおおおお!!!』
作者:pyoco(次回は“エンリの小悪魔化”により全員崩壊の予定)