第92話『俺、胃に将棋の駒を刺される』
いつも読んでくださって本当にありがとうございます!
なろうではコメント欄がちょっと静かめですが、
感想じゃなくても「日常のこと」「アニメの話」「つぶやき」など、
どんな話題でも気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。
いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)
一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
──菱岡重工・応接室。
深いブラウンのテーブル。無駄に高そうなソファ。
空気の密度が違う。なんだこの“老舗の威厳”って……!
吸う息が重い。肺が「ここ格式あるぞ」って圧かけてくるんだが。
そして──その空間の奥に座っていたのが、
「……社長の菱岡だ。話は、聞いている」
低い声、ピシッと伸びた背筋、鋭すぎる眼光。
──これが、“かつて清水さんと信頼関係を築いた男”か。
やばい、貫禄が“実家の柱”レベルだ……。
とりあえず魅力Lv.4を発動!
そして、俺は一瞬だけ深呼吸して、頭を下げ──
「は、葉山潤と申します。本日はお時間いただきありがとうございまひゅ!」
……噛んだ。安定の開幕事故。
菱岡社長は、一度だけ瞬きをして、じっと俺を見た。
その表情、不機嫌……というより、“常に眉間にシワが入ってる顔”っぽい。
ナチュラル圧だ。存在圧がすごい。
だが──菱岡社長は、ふいに口を開いた。
「清水がいた頃、君みたいな若造がうちに出入りしてたな……あいつも、“将棋は奥が深い”ってよく言ってたよ」
……乗ってきた?
菱岡社長は、俺が差し出した資料の一部を指で軽く叩く。
──“観葉植物・将棋・旧車”の備考欄。
「……懐かしいな。あの頃は、仕事の話より趣味の雑談の方が長かった」
「そ、そうでしたか……!」
必死で呼吸を整えて、用意してきた切り返しをぶっこむ。
「実は私も将棋、好きでして……最近だとの中飛車の形を勉強してまして……特にゴキゲン?中飛車とか──」
「中飛車か。いいね。居飛車相手に戦略の選択肢が増えるからな」
喋った!しかも将棋トーク広がった!
(……いやでも、これ魅力効いてるか?話が通ってる気はするけど、顔はずっと怒ってるし……なに、デフォルトでこの顔なの?)
落ち着け俺。何もとって食われるわけじゃない。
でも目が怖ぇぇぇぇぇ!!!
──そんな俺の思考をよそに、菱岡社長はふと視線を落として、呟いた。
「……清水がいた頃、君みたいな若造がよく来てたな」
……デジャヴ?
いや、違う。これは──“懐かしんでる”声だ。
「将棋の話が好きでね。あいつ、“歩にも礼を尽くすべきだ”とか、訳の分からんこと言ってた」
「……でも、今朝君の資料を見てな。話を聞いて、“また昔みたいに雑談できる相手がいるかもしれない”って思えたんだ。資料、ありがとうな」
その言葉に、俺の手のひらがじんわり汗ばむ。
──やばい。
今、確かに“心を拾った”感触があった。
その後、菱岡社長は静かに立ち上がり、こう締めた。
「改めて社内で検討する。……よろしく頼む」
面談は、それだけで終了した。
──外に出てから。
松久先輩が、タピオカをズズッと吸いながら言った。
「潤くん、すげぇ緊張してたっすね」
「うるせぇよ……! あれ、俺の人生で一番、胃に将棋の駒が突き刺さってた瞬間だぞ……!」
「でも、“刺さってた”からこそ、効いたんじゃないっすか?」
……うまいこと言うな、先輩。
でもな──それを笑って聞けるほど、俺はまだこの世界に慣れてない。
俺は、しめった手のひらをズボンでぬぐいながら、資料の手触りを確認して、小さく呟いた。
「……とりあえず帰りたい」
その言葉が、ビルの自動ドアに吸い込まれていった。
──翌日、電柱社。
営業2課では、朝イチからザワついていた。
「マジで契約、決まったらしいぞ」
「相手、菱岡社長が名指しで来いって言ったんだって」
「誰を?宇野さん? それとも……」
「──葉山潤、だってさ」
「誰だよそいつ!!」
その頃、俺は社食でトレー片手に唐揚げと白米を取りながら、何も知らずに呟いていた。
「……昨日の将棋トーク、夢じゃなかったんだよな……」
すると──スマホがブルブルッと震える。
【差出人:営業統括部 宇野】
《至急 第1会議室へ。資料持参。以上》
短い。怖い。刑事ドラマなら逮捕案件。
「……もう無理かもしれん」
俺はトレーを捨てて会議室へ向かう。
──そして第1会議室。
扉を開けると、そこには宇野課長と……なぜか営業部の数名、さらに人事の顔まで。
「よく来たな、葉山くん」
「え、これ何……会議っていうか、尋問室の間違いでは……?」
宇野が資料を机に叩く。
「昨日の件、正式に“契約復帰”が決まった」
「マジですか……!」
「しかも、“またああいう人間が担当してくれるなら”って菱岡社長から条件つきで」
「……いや、担当は勘弁して下さい……」
「だから言ってるだろ?お前を正式に推薦する」
宇野は深く息を吸って、続けた。
「──“日曜プロジェクト”へな」
場が静まり返る。
俺は思わず聞き返した。
「……プロジェクト、参加させてもらえるんですか?」
「もう“される”って段階だ。うちの副社長(電柱の)が言ってたよ──“使える駒が欲しい”、ってな。しかも、ご丁寧に君がご指名だった。……なんでお前みたいな間抜けそうな奴に、とは思うが」
「副社長が直々に!? ……っていうか、“駒”? てか俺、今“間抜け”って言われなかった!?」
「君はこの会社で、たった1枚の紙で状況を変えた」
宇野は資料を掲げる。
「──これが“今、数字より効く資料”だと証明された」
俺は、ようやく事の重大さに気づく。
(……ほんとに、1枚のメモで世界が動いたんだな)
「さて……葉山くん。これで君は晴れて──“プロジェクトメンバー”の一員だ」
宇野が満面の笑みで言った。
「──明日からは本社24階、特設室での業務になる」
「え? 本社? 24階? エレベーター……動くのそこまで!?」
「もちろんだ。あと、ついでに言っとくが──地調第3課からは異動扱いになる」
「マジで!? やった……やったぁぁ!!」
これであの……“いただきますポーズでコードを食う女”と別部署に!?
──でも。
そのタイミングで、背後のドアが「ギィ……」と開いた。
「異動って、マジっすか?」
そこには──松久先輩。タピオカ吸いながら、眉ひとつ動かさず立っていた。
「え、えっと……はい……?」
「じゃあ、こっちも異動しよっかなーと思って」
「はああああああああ!?!?」
「菱岡社長が“また将棋の話ができる奴を”って言ってたんで、“私も行きます”って返しといたっす」
嘘だろ!? 尾行スキルでも持ってんのかこの人!!
「俺……せっかく……自由になれると思ったのに……!」
「やっぱ共闘っすよ、葉山くん。二人なら、もっと“変な資料”作れるっすよ」
こっちは“真面目にやってたらなんか評価された”だけなのに!!
──こうして俺は、地調第3課を卒業し、新部署へ。
だけど──
「まさか“タピオカ引き連れてプロジェクト入り”とは……」
──“俺の営業人生”が、今ここから始まった(ような気がした)──。
【あとがき小話】
作者『口調シャッフルとか面白くない?たとえばミリーとノアの入れ替えとか!』
潤『ろくでもないけど……気にはなるな……』
作者『でしょ!? じゃあ、ミリー!まずはノア風に!』
ミリー『……ふ、ふふっ……わ、私だけを見て……くれないと……いけませんっ!』
潤『なにその、照れ笑いしながらの重ボイス……ミリー、途中から笑い堪えてただろ!』
ミリー『だ、だってぇぇ!ノアちゃんの真似、むずかしいんだもんっ!』
ノア『……それでは私も、やります……』
ノア(小声で)『えへへ〜、ねぇねぇ? ぎゅーしても……いいんですよぉ?』
潤『ノアさん!?なんか声がふるえて……!?』
ノア『な、慣れません……ですが……こういうのも……必要かと……』
作者『えぇ〜っ、なにこの新境地!? 激レアすぎるんだけど!?』
潤『新境地じゃねぇよ羞恥の極地だよ!!』
作者『次はカエデとリア!行ってみよ〜〜〜ッ!!』
潤『やめろっっ、人格が崩壊する未来しか見えねぇぇぇ!!!』
作者:pyoco(次回、リアが語尾に「~やん」とつけて沈黙する予定)