第90話『俺、金脈を掘り当てる』
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一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!
──三日目の朝。
目覚ましより早く目が覚めるとか、
社長やってた頃の俺なら考えられなかった。
……いや、元社長、な。
今の俺は裏口入社の窓際野郎だ。
寝起きの頭で、スマホを手に取る。
通知──24件。全てLINE。
察しはついてる。開く。
──そこには、“地獄の朝刊”が並んでいた。
⸻
【ユズハ】
《せんぱ〜い☆ 昨日の“デスク埋没事件”、GIFにしましたよ〜!》
《タイトルは『社畜ダイブ2025』です♡ 第2弾も期待してますっ!》
(※どこに投稿してんだよ)
【ミリー】
《じゅんくんっ! 今日も会社行くの? えらい!》
《ミリーだったら3日目はお布団に引きこもってるよ〜》
《じゅんくんって……ドMなの?》
(※この圧で引きこもってるのはお前だけだ)
【カエデ】
《潤くんが脱出したなったらウチが爆速で迎えに行ったるで?》
《原付改造したやつやけど♡最高時速は……言えへんなぁ〜》
(※言って?警察に)
【ノア】
《潤様、非常口の配置図をお送りしました。念のためご確認ください》
《本日の退路は3パターンございます。GPS動作確認も済んでおります♡》
(※脱獄支援か!?)
【エンリ】
《……大丈夫。今日も、あなたなら大丈夫です》
《あなたが耐えている時間、私も同じ空を見ていますから──》
(※やめろ、詩的に励ますな。逆に辛いわ)
⸻
「うるせぇよ……!!!」
俺は枕にスマホぶん投げて、
10秒後に「あ、やべっ」と言いながら拾った。
──こうして俺は、今日も地調第3課へ出勤する。
⸻
エレベーターで9階へ。
誰もいないフロアの奥、封印された部屋みたいな地調第3課の扉。
ガコンと開けると──
「……誰もいねぇな。あれ?今日は先輩いないのか?」
空っぽの椅子。半分死んでる蛍光灯。
PCはスリープという名の昏睡状態。
昨日と変わらない。
“無音の戦場”、開幕である。
俺は黙ってデスクを通り過ぎ、倉庫へと足を向けた。
⸻
──再挑戦、である。
昨日、俺は金脈を掘るどころか、
ホコリとカビと割り箸に裏切られて終わった。
でも。
「なんか……昨日より目が慣れてきた気がするな……。
いや、“敗北で視力アップ”ってどんなRPGだよ……」
ブツブツ言いながら、最奥のゾーンへ。
昨日の時点では“目にすら入らなかった”棚の裏側。
「……このダンボール、埋まってて見えなかったな」
ズズッと引っ張り出す。
重い。嫌な予感がする。
「こいつ……重さの割に希望の香りがしない……!」
ダンッと机に置いた瞬間、
舞うホコリが視界を奪った。
「うっわ!目!目ぇぇ!! なんか……ちょっと味するんだけど!? カビって食べ物なの!?」
むせながら、俺は中を確認する。
──そこには、
分厚いファイルが一冊。
表紙に書かれた手書きの文字。
『営業見込みリスト(2017〜2019)』
「営業……? 見込み……?」
ページをめくった瞬間──俺は固まった。
びっしりと埋め尽くされた顧客リスト。
色分けされたステータス。
手書きで詳細に書き込まれたやりとりの記録。
ペンの筆跡、メモ欄の配置──
「……これ、誰だよ……どんな執念で書いたんだよ……」
資料としての精度が異常だった。
この会社、ここまでやってたのか?
いや、これを“ここ”に放置してたのか!?
最後のページ──
そこには、ポストイットが一枚、貼られていた。
『使うなら──命懸けで使え。』
「……なにこの煽り文句……ビジネスジャンプかよ」
でも、笑えなかった。
なぜなら──
そのファイルには、本物の熱量がこもってたからだ。
これは……実績になる。
いや、使い方次第じゃ、一発逆転の切り札になる──!
俺の脳裏に、昨日の“日曜プロジェクト”の情報が浮かんだ。
「……使う……?」
ファイルを抱えながら、俺は小さく呟いた。
──地調第3課・俺の机。
ファイルを開いたまま、思考が止まっていた。
「……実績には、なる。間違いなく」
このデータ群、マジでとんでもない。
もはや営業マニュアルにできるレベル。
過去の顧客履歴から見込み先の再起動まで、“一人で数課分の仕事を網羅してる”って言っても大袈裟じゃない。
「でも……これ、使えるか?」
問題はそこ。
俺の肩書きは──“ゲンジの推薦で裏口入社した新人”。
配属先は“社内島流し窓際部隊”。
そんな奴がいきなりこれ出したら、どう思われるか?
⸻
【脳内:俺が提出した場合の地獄シミュレーション】
人事部長(仮):「ふ〜ん、これ君がまとめたの?」
→ ニヤリと笑いながらファイルひったくられる。
経理女史(仮):「なんか……すごいね?(棒)」
→ 明らかに疑ってるし鼻で笑ってる。
隣の課長:「ってか、それ……昔の資料じゃない?」
→ 大声で言われて、空気が一瞬で冷える。
社員A:「裏から持ってきたんじゃね?パクった系?」
→ そっとSlackで裏で晒されてる。
社員B:「推薦で入ったやつってやっぱ……」
→ 俺の後ろで言われてる。
⸻
「うおおお……想像だけで精神が死ぬ!!」
勢いよく椅子にのけぞった。
思わず声出た。
誰もいないのに恥ずかしい。
「使いたい……使いたいけど……この肩書きじゃ使えねぇぇ……!」
ファイルの中身をスキャンしようかと思ったが、
途中で手が止まった。
「……ってか、これ全部、“誰か”が書いたんだよな」
ページの端にある小さな走り書き──
『取引先の受付が変わってた(9/4)』
『ここの社長、昔ジャズ好きだった気がする?』
『週末の連絡は×、絶対にNG(教訓)』
どれも、“数字”じゃない。
“人間”として向き合った痕跡だ。
「──これ、俺が使っていいもんかよ……」
指先が、手帳の紙の隅をなぞる。
誰かが、ここで、静かに仕事をしていた。
誰にも気づかれず、成果にならず、
でも──手を抜かず、誇りだけは捨てずに。
「……うわ、急に重い。
なんか……墓暴きみたいな気分……」
ファイルを閉じる。
「ダメだ。やっぱり、俺には……」
背もたれに沈み込み、天井を仰ぐ。
──沈黙。
──蛍光灯の「ジ……」という音。
そしてその静けさの中で、
隣の席から──
「……それ、使うの?」
不意に、松久先輩の声が落ちてきた。
パソコンのファンがかすかに唸っている音の中で──
その声だけが、やけにクリアに聞こえた。
俺はゆっくり顔を上げた。
「……松久先輩」
先輩は、椅子に深く沈みながら、
モニター越しに俺を見ていた。
その表情は変わらない。
まるで、カップ麺の湯戻しを見守るかのような目だ。
「それ、けっこうなファイルでしょ」
「……まぁ。営業資料としては、バケモンっすね」
「じゃあ、出せば?」
「いや……」
俺は言いかけて、口を閉じた。
出したら、間違いなくバズる。
けど、今の俺の立場で目立つのは──地雷の踏み抜きだ。
「……俺が出したら、潰されるかもしれない」
「ふーん」
松久先輩は、パキッと割り箸を折った。
今日2回目だ。何かの儀式か?
「使わないなら、それもありなんじゃない?」
「いや、だからそれができりゃ苦労しねぇって……!」
口をついて出た言葉が、情けなかった。
出したい。でも怖い。でもこのままも嫌だ。
先輩は、一度だけ目を伏せて──
そして、ぽつりと言った。
「火種は、消すより……投げた方が面白いっすよ」
「…………」
俺の思考が、止まった。
「……は?」
何その言い回し。
詩人? いや、哲学者?
いや、カップ麺カルト教祖!?
「いやいや、意味わかんねぇよ!? なんだよ“火種は投げた方が”って!!」
そう言いながらも──
胸の奥に、火が点いた気がした。
背中を押されたというより、
導火線に火を付けられた感じだ。
「いいだろう……火種、投げてやるよ」
俺は再びファイルを開き、
スキャンソフトを起動する。
「誰が作ったかは知らないけど──使わせてもらうぜ、地底の遺産!!」
カタカタと打ち込む指。
“実績を叩きつけて、あの“日曜プロジェクト”に乗り込む──!”
その先に、社長がいる。
電柱社の裏を暴くために、俺は、掘り返す!
「営業リスト、改造開始だぁぁぁぁあ!!」
第3課の空気が、少しだけ動いた気がした。
カップ麺の香りと一緒に。
あとがき小話
作者『世にも奇妙な物語で俺が一番好きな回ってさ……』
潤『また急だな』
作者『あの“電車でお弁当食べるやつ”な。ご飯とおかずの割合間違えたら地獄になるやつ。』
潤『あー、わかるわ。最後ご飯だけとか、最悪だもんな』
リア『比率を計算して食べる……それは極めて合理的な戦略です』
作者『あれ見てから、ご飯とおかずの配分ミスると罪悪感がすごいのよ……』
潤『どんだけ引きずってんだよ。おかず三連続で食ってもいいだろ別に』
作者『それと似た感じでさ、映画館のポップコーンも“クライマックス手前までに7割消費”が理想なのよ』
潤『もはやライフハックじゃねぇか……』
リア『理に適っています。クライマックス中に手を動かすのは集中力低下の要因になります』
作者『あと、炊き立てご飯の湯気吸う時、**“あと3秒で香り消える”**って思いながら深呼吸する』
潤『なんだよその一人制限時間……』
リア『香りの立ち上がり時間には限りがあります。嗅覚重視の作法として妥当です』
作者『コンビニスイーツのフィルム剥がす時も、**“どこまで芸術的に剥けるか”**が勝負だと思ってる』
潤『絶対一緒に食事したくないタイプだな、お前』
リア『私はむしろ、その集中力に敬意を表したいです』
潤『いや今のは引けよ!?引くとこだろ普通!!』
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作者:食べる時も全力で生きてるタイプの人間です。
リア:むしろ全ての行動に戦略性があって好ましいです。
潤:早く食え。




