第86話『俺、値札を守る』
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「せんぱ〜い♪ お買い物デートですかぁ?」
スーパーの入り口で、満面の笑顔を浮かべたユズハが俺の腕に絡んできた。
「……いや、会社の備品の補充だっつってんだろ。ほら、コピー用紙とインスタントコーヒーな」
「え〜? でもでも、ユズハ的にはもう完全にデート気分なんですけど〜?」
テンションが高い。
でもまぁ、付き合いの長い俺としては慣れたものだ。
店内は昼下がりでほどよく混んでいた。
シニア層、主婦、学生、サラリーマン……その中に、妙に気配の濃い女性がひとり。
「……ん?」
棚の影で、派手めなおばさんがティッシュの値札をいじっている。
「……おい、あれ……」
「せんぱい? どうかしました〜?」
「あのおばさん、値札……貼り替えてるぞ」
目の前の商品、ティッシュは元々298円のはず。
だが、おばさんの手によって“100円”と書かれた別商品の値札が上から重ねられていた。
しかも──
「あ、今度はシャンプー……!」
「連続犯ですねぇ、これは……」
俺とユズハは、目が合った瞬間、黙って頷いた。
「よし。貼るか」
「……は? 貼るって……なにを?」
「元の値札。おばさんの背中に」
「せんぱい、天才っ!」
俺はそっと近づき、剥がされた元の“298円”シールを手に取り、すれ違いざまに──
ペタッと、おばさんの背中に貼り付けた。
「……よし、これで“真実”は逃げない」
ユズハも、手際よく別のシールを拾ってきていた。
「次は“定価1320円”のヘアオイルですね〜。は〜い、ぺたっ♪」
俺たちは淡々と作業を続けた。
背中には、続々と正規値札が貼られていく。
「この人、完全に“人間POP”だな……」
「うふふ、目立ってますね〜♪」
やがておばさんは、カゴいっぱいの商品を抱えてレジへと向かった。
──その瞬間。
「すみません、それ……値札、元のと違ってますよ」
俺がそう言うと、おばさんはぎょっとしたような顔で振り返った。
「な、なによ、何のこと……」
「背中です」
「は?」
ユズハがそっと指をさす。
「“元の価格”、ちゃんと貼ってありますよ〜?」
店員が困惑しながらおばさんの背中を見ると──
そこにはびっしりと並ぶ正規価格の値札シール。
一瞬、空気が凍った。
「……あの……これ、どういう……?」
周囲の客たちも立ち止まり、ざわつき始める。
「え、なにあれ……背中に……」
「こっわ……」
「え、値札泥棒……?」
おばさんは慌てて商品をカゴから抜き取り、戻そうとする──
「……っ、べ、別に! これ、間違えただけでっ」
──だが、その手を店員が制する。
「お客様。
申し訳ありませんが、こちら一度、バックヤードでご説明をお願いできますか?」
「な……!?」
「会計前とはいえ、貼り替え行為は偽計購入の可能性がありますので」
静かに、しかし確実に。
店員が“正しい対処”を促す声で、その場は締められていった。
おばさんは何も言い返せず、俯いたまま連れていかれる。
その背中にはまだ──
びっしりと貼られた“真実の値札”が、ペタペタと揺れていた。
潤は静かに、周囲のざわめきの中で、ひとことだけ呟いた。
「──お値段以上、プライスレス。」
……よくわからないが、
なぜかカッコよく決まった気がする俺であった。
──そして翌日。
俺がデスクで仕事をしていると、背中に何か違和感を感じた。
「……ん? なんかくすぐったい……」
すると、背後から聞こえる馴染みの声。
「せんぱぁ〜い♪」
「……ユズハ?」
「昨日のお礼、ちゃ〜んと貼っておきましたよ〜?」
何のことかと思って背中に手をやると──
【“お値段以上です♡”】
【“非売品”】
【“ユズハチェック済”】
【“返品不可!”】
付箋が、5枚。
しっかりと、愛とネタのバランスが取れていた。
「おい、ふざけんな……! なんでこんなに……!」
「うふふ〜。昨日の正義の値札、すっごく素敵だったので〜。
ユズハ的にも、先輩の“正しい価値”を貼っとかなきゃって♪」
「貼るな!!」
「え〜? じゃあユズハが買い取ってあげますからぁ?」
「それはそれでめっちゃ恥ずいわ!!」
ユズハはニッコリと笑った。
「せんぱいって……ほんと、値札以上ですね?」
──貼られた付箋は、その日一日、誰にも見せずにそっとデスクの中にしまった。
【あとがき小話:作者、投稿欲が爆発】
作者『俺もさぁ、おはようツイートとかおやすみツイートしたいんだよね……』
リア『……止めた方がいいと思います。フォロワー、減りますから。』
作者『えぇぇぇ!?なんで!?可愛い系いける気がするじゃん!?』
リア『その発言がすでに終わってます。』
作者『じゃあさ!例えばこういうのは?
“おやちゅミチュみ☆ みんな、俺のこと考えて寝るんだぞ~♡”』
リア『……はぁ。』
作者『……今、溜息に“感情の全て”が詰まってたよね?』
リア『……寝言よりも寒いです。あと、投稿した瞬間に通報される可能性もありますね。』
作者『えっ、通報……!? うそでしょ……!?俺、ヒロインより乙女なのに!?』
リア『そうですね、“乙女な黒歴史”という名目で封印するのが最適かと。』
作者『ぎゃあああああああああああ!!!!』
──こうしてまた一つ、作者の投稿案が葬られた。
作者:pyoco(でもほんとは、みんなのこと考えて寝たいよ?)
今ゾワっとしたやつ手を挙げろ〜
潤『寝れんくなるわ……』




