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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

はじめまして、皇帝陛下

作者: 天姫実

 私は自分が住んでいる土地の領主であるミューク男爵のもとに訪れていた。


「はじめまして、ミューク男爵」


 男爵はこちらを見るだけで何も言わない。


「本日はご多忙の中お時間を用意してくださりありがとうございます。早速ですがミューク男爵にはお願いしたいことがあります」

「何だ?」


 男爵は面倒ごとを押しつけるなよと言わんばかりにこちらを見ている。


「友誼を結ばれている貴族の方で子爵位以上の方に私を紹介して頂けませんか?」

「なぜだ?」


 男爵は私を鋭い目線で睨み付けてきた。


「突然現れたよく分からない小娘をあなた様より爵位が上の貴族の方に紹介しろと言われて困っておられると思います。しかし、それは言うことが出来ません」


 男爵は話にならないと思ったのだろう。席を立って部屋を出ようとした。


「お待ちください、ミューク男爵」

「では、理由を延べよ。そうでなくては何もすることは出来ない」


 流石に相手を軽く見過ぎていた。私が上級貴族への接触を試みているのは、この国の皇帝にミューク男爵の統治のせいで領民が苦しんでいることを直訴しようとしているからだ。例えば、皇帝の政策である役人を家柄ではなく、能力で登用する政策に背き、役人を家柄だけで登用していること。また、領内の作物が不作なのに重税を課した。その挙げ句、税を下げるように求めた農民を不敬罪で処刑したこと。など話し出せば止まらないくらい出てくる。そして、それを上手く隠しているのがミューク男爵だ。だから、なんて返すかも決めてある。


「それでも理由は言えません。ですが、あなた様の領地が発展ことは間違いありません」


 私ははっきりそう言った。嘘は言っていないはずだ。


「そこまで言うならいいだろう。だが、もしも私の面目を潰すようなことがあったら君に責任をとってもらう。いいな?」

「ありがとうございます」


 そう言って後に私は男爵に一礼して退室した。


 男爵から呼び出されたのはその4日後だった。

 男爵に紹介された私はマセタ伯爵と面会することが出来た。


「はじめまして、マセタ伯爵」


 伯爵が席に座った。


「本日はご多忙の中お時間を頂きありがとうございます。本日はマセタ伯爵にお願いがあって参りました」

「申してみよ」

「私を皇帝陛下に謁見する機会を設けては頂けないでしょうか?」

「それは出来ない。皇帝陛下は平民が謁見していい方ではない。話は終わりだ。」


 そう言って伯爵は退出しようとしていた。


「お待ちください、マセタ伯爵」


 私は大声でそう言った。伯爵はそれが気に食わなかったのだろうか?私は不敬罪で投獄されてしまった。私は何ら不敬罪にあたることをした覚えはない。


「残念だったな、嬢ちゃん。今まで不敬罪で捕まった者は全員ひと月以内に処刑されている」


 そんなことを言っている看守は、私に哀れみの目を向けていた。


 投獄されてからもう1週間が経ち、私はもう何の気力もなかった。食事は1日2回で腐った物ばかり出されていた。その上、2週間後に処刑されることが決まっていた。それが大きな原因だろう。


 しかし、その方は突然やって来た。処刑の前日だった。はじめは誰かは分からなかったが、伯爵が「ここは陛下のような方が来られるべきところではございません」と言っていたことで、私はこの方が誰であるかを理解した。皇帝陛下だ。


「マセタ伯爵に不敬を行い投獄されたのは君か?」


 陛下は私を優しく見つめている。


「私は不敬罪で投獄されていますが、その様なことは行っておりません」


 はっきりと言い切ると、陛下は看守から鍵を受け取り、私を牢獄から出してくれた。なぜこうなっているかは分からないが、今はこれを利用させてもらおう。私は気力を取り戻していた。


「助けて頂き誠にありがとうございます」

「気にするな。私は才ある者が理不尽に処刑されることを止めただけだ」


 伯爵は何か言いたげだったが、陛下が手で制したことで、諦めたように見えた。そして、陛下は私と伯爵を連れて客間へ移動した。陛下は椅子に座られて話を始めた。


「私はアスク・サンクリネ。この国の皇帝だ」

「はじめまして、皇帝陛下。私はアンナと申します。」


 私は声を震わせながら言った。


「さっそくだが、アンナ。君は僕に謁見したかったようだね。それはなぜかな?」


 陛下はわたしを気遣ってくれたのだろう。威圧的な口調から、優しさを全面に押し出した口調に変わっていた。


「陛下に直訴したいことがあるからです」

「どういった内容の直訴かな?」


 私はそれからミューク男爵の悪事をありのまますべて陛下に訴えた。


 話し終えると陛下は側近の方に指示を出していた。


「君の話はこちらも調査をする。それよりも、なぜ今私がここにいるのかが気にならないのか?」


 たしかにどうしてこうなっているんだろう?この状況を利用しようとしか考えてなかったな。と、反省する。


「気になります。教えて頂けませんか?」

「そこの兵士に聞くといい」


 陛下が指を指した方向には投獄されたときにいた看守の方がいた。その方はセヨウさんという方で、セヨウさんによれば、その方はマセタ伯爵に私みたいに若い女性を処刑しても民の反感を買うだけだと諫言してくれたらしい。そのせいで解雇されてしまったので、王城にそのことを直訴しに言った。そうしてこうなったらしい。


「セヨウさんありがとうございます」

「いえ、俺は自分のために動いただけだから」


 そんな風にして話を終えて、陛下も帝都に戻っていかれた。


 後日帝都の中心にある王城に私とセヨウさんが呼びだされた。他にもマセタ伯爵を中心とした派閥の貴族が呼びだされていた。その中にミューク男爵もの姿もあった。


「此度の件はマセタ伯爵とそれを支持する貴族が我が政策に背いたり、平民の生活を顧みずに重税を課したたりしたことで農民に不満を持たせたことに起因する、国家の重大事件である」


 マセタ伯爵とその一派は顔を強張らせている。それを気にすることもなく陛下は話を続ける。


「処分を言い渡す。マセタ伯爵家とミューク男爵家は一族全員を処刑とし、家の取り潰しとする。他の者は当主のみの処刑とし、家の取り潰しとする」


 中には抗議しようとする者もいたが、その前に近衛兵によって、マセタ伯爵の派閥の貴族は全員捕らえられて退出させられた。


「では、次に此度の事件の功労者に報奨を与える」


 私とセヨウさんはまさかといった感じで驚きを隠せないでいた。


「はじめにアンナ、貴殿にはヒスクの姓を与え、子爵位を授ける」

「次にセヨウ、貴殿にはナレットの姓を与え、男爵位を授ける」


 こうして私はサンクリネ帝国初めての女性貴族になった。そしてこの1件は終わった。


 王城から出て最初に行ったことが偶然にもナレット男爵と同じことだった。婚約の申し込みだ。こうして私たちは夫婦となったのだった。








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