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謎のカノジョは上級幹部

「ん〜」


 なんとなく自分の部屋にあったベッドに寝転ぶ。スプリングが効いているのか、僕が寝転ぶ衝撃がほぼ全て吸収されたようだ。

 

 明日から実際に戦場までの護送任務につく。


 そのために必要なものの説明を先輩方からされたが、みな自分の準備で忙しいのか投げやりな説明だった。


 終いにはマニュアルを見ろときた。魔王軍に入った時に配られたものに書いてあるとおり、遠征準備をすればいいらしい。


 そんなものは僕は貰っていない。どこに行けばそれがもらえるのかも知らない。


 どうするべきかと少し悩み、ベッドから起き上がる。


 

 少し服の裾を捲ると銀色の腕輪が現れる。そこに触れながら、ほんの少し魔力を流す。


「……お呼びでしょうか、ご主人様」


 少し髪を揺らしながらブルーメが僕の部屋に現れる。しっかりと呼び出しの合図を送ることができたようだ。


「急な呼び出し失礼。少し聞きたいことがあって」


「謝罪など必要ありません。もっと会いた……仕事を下さっても全く問題ありません」


 毎度のことながら彼女からは仕事への熱い思いを感じる。そういう部下がいると非常にいい。


 そして早速だが先ほどから気になっていたことについて聞く。


「明日からの任務なんだけど」


「はい、確かアドヴェント大草原付近までの護衛任務だったと記憶しています」


「そう。それで、マニュアル通り必要なものを揃えるように言われたんだけど、僕はそれを持っていない。マニュアルには何が書いてある?」


「マニュアルですか……」


 そう聞くと何やらブルーメは少し考える素振りを見せた。何やら小声で呟いた後僕に向かって説明を始めた。


「ご主人様に必要なもの……特にないかと思われます」


「ない?」


「はい。最低限戦闘に必要なものを用意すれば他はないかと。転移魔法を使える方にとって、準備などほぼ意味をなさないと思われます」


「なるほど……まあ最悪戻ればいいだけだしね」


 僕自身の戦闘スタイル的に、武器はいらない。身体的に、食料、水もいらない。睡眠のための道具も、そもそも睡眠がいらない。


 必要なものは全て『虚無ノ塔』に入れるか、空間収納の魔法を使えばいい。


 ブルーメの言っていたように、そもそも転移魔法で戻ればいい。


 そう思うと、そもそもなぜ軍として準備が必要になるのだろうか。全て魔法や『技能(スキル)』で解決できてしまう。


 いや違うか。それだと特定の人にしか使えない。汎用性がない。だからこそ準備の手順を等しくマニュアル化しているのか。


「どうされました?」


「特に。じゃあ……」


 戻っていいよ、と言おうとしてふと思い出す。今夜は人と会う約束があるのだった。


 約束と言ってもかなり一方的なものだが、それでも一応指定された場所に向かうべきだろう。


「ねえ、この紙に書かれている場所ってどこ?」


 あの名前も知らない同類の人から渡された紙を見せる。どこかへの招待状になっているものの、その指定された場所がどこにあるのかがわからない。


 書かれているのはただ一つ。


「『美食の間』!?」


「ん? どうかした?」

 

 この渡された紙には確かに『美食の間』に、ということが書かれている。それがどこにあるのかがわからないから聞きたかったのだが。


 存在しない場所の名前でも書かれているのだろうか。


「し、失礼しました。この招待状はどなたから頂いたのですか?」


「……誰だろう。僕も知りたい。今日会った人」


 唯一知っているのは、技術部隊のおさ、ということ。つまり技術部隊の部隊長なのだろうということのみ。


 とてもじゃないが、知り合いとも言えない。


「……『美食の間』とは、一種の食事処です。ただし、単なる食事どころではありません。魔王城にある中で最も、いえ魔人全ての中で素晴らしい食を提供すると言われています。そのなかには伝統的で正統派なものもあれば、独創的でもはや一種の芸術とまで呼べるものまで。提供できない料理はないとまで言われています」


「へえ」


 つまり高級料亭のようなものなのか。そんなところの招待状をポイっと渡してきた彼女はなんなのだろう。


 そもそも食事場所という説明すらなかった。そんなことを思っていたら、まだまだブルーメによる解説が続いていた。


「『美食の間』には別の呼び方もあります。それは、『七色の集会場』というものです」


「集会場?」


「はい。まずご主人様は、七色という単語がこの魔王軍内で何を指すかご存知ですか?」


「七色……知らないね」


 特に今までの中で思い当たるものはない。七色といったら虹を刺しているような印象を持つが、だからと言って特別な意味にまでは辿り着かない。


「陸軍の頂点、海軍の頂点、空軍の頂点、魔王都守護軍の頂点、政務の長、隠密部隊の隊長、そして技術部隊の隊長」


「……」


「七色とは虹。そして先ほど挙げた7人の腕輪の色、それが虹色」


 七色は虹、そして7人の腕輪の色は虹色……先ほど言われた言葉を反芻する。先ほど挙げられた7つの役職は、どれもこれも絶大な権力を持つものだった。


 そこから導かれる、七色という単語の意味。それは……


「七色、それは魔王軍全てを統括する、7人の上級幹部(・・・・)のことを指します」


「……」


 絶句する。


 つまり、『七色の集会場』という言葉の意味。それはつまり、上級幹部の集まる場所、ということになる。


「『美食の間』の扉は決して開かれていません。その7人かそれ以上の権力を持つ方、もしくはその招待を受けた方のみに、その芸術の如き食は提供されます」


 あの同類の彼女は、そこで会おうというのか?

 

 なんという場所を指定してくるんだ。


 そして彼女が技術部隊の隊長ということは認識していた。魔王軍にたった二つしかない特殊部隊の責任者だということは。

 

 まさかあれが上級幹部。やはり、『侮るな、警戒しろ』といった僕の本能は間違っていなかった。




 これから訪れるであろう彼女と僕の食事会が、穏やかであることをどこかで祈っていよう。




 そしてまたどこかで、新たな同類との出会いに喜びを。

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