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いきなり模擬戦 〜始まるきっかけ〜

 ゆっくりと目の前の倒れた敵に刀を振り下ろす。速度はなくとも、相手の腕は落とせる位置に振り下ろしている。


 相手の目はしっかりとこっちを見て僕の黒い刀を捉えていた。



 彼女が『技能(スキル)』を使って防御しているようにも思えない。


 首を狙ってるわけではない。死にはしないだろうが、腕を落とされるという致命的な隙ができるのに、なぜ反撃しようと、避けようとしないのだろうか。


 先ほどから彼女はみじろぎ一つしていない。倒れているとは言え、ここから立ち上がって反撃などしようと思えばできるだろうに。


 『天骸』によって加速した思考の中、僕は罠の可能性すら疑い始めた。もしや腕を切断されるのがキーになる『技能(スキル)』でもあるのだろうかと。


 僕はあくびの出るほどのんびりと刀を振っている。


 むしろ攻撃しているこちらが不安になってきたところで、遠くから大きな声が訓練場に響いた。


「止めろ!」


 まるで悲鳴のような声。第一護衛部隊の隊長としての落ち着いた第一印象からは考えられない声だった。


 止めろ、つまり模擬戦の中止命令。


 この模擬戦は、僕とこの相手とで行なっている。それに口を出すのかと一瞬不快にも思ったが、この場での監督は彼女が行なっている。


 僕は言われた通り、相手に振り下ろしていた刀を止めた。


 真っ黒な、『星夜奏』で作られたそれは、対戦相手の彼女の皮膚に僅かに食い込もうとしていた。


「え……いつの、まに……」


 僕の対戦相手は、自分の腕を後少しで斬りそうな刀をみて、顔を真っ青にしている。


 それの姿を見て僕は首を傾げる。


「先輩? どうかしました?」







 ことの発端は約20分前に遡る。






 隊長に連れられ、場内を歩くこと約10分。第一護衛部隊の面々がいるという訓練場にやってきた。


 そこには木製の切り付ける的や、体術訓練用の人形らしきものなど色々あった。


 第一護衛部隊はパッと見たかぎり40人、いや45人はいる。その中でも女性の比率が高いように見える。また、数少ない男性は側から見てもわかる凄まじい筋肉を持っていた。


 皆それぞれの武器を持ち、素振りや模擬戦などをして訓練に励んでいるようだ。


 中には結界の貼ってあるスペースもあり、そこでは魔法の練習をしている人もいる。


「集合!」


 前を歩いていた隊長が大きな声を上げる。それを聞いた隊員たちは、すぐに訓練をやめこちらに集まってきた。


 この様子を見るとかなりの迫力がある。側から見れば僕はかなり弱々しいはずだ。


 特に対格的な面では僕はかなりこの隊員たちに劣っている。もちろん僕自身かなりの力はあると思う。『|技能《スキル

》』、魔法といったものを一切使わない物理戦闘も主さまやヘノーと鍛えた。


 ただし、いくらそれをやっても僕のこれは造られた肉体。訓練に応じて筋肉がついて外見がムキムキに、ということはなのだ。


「今年の研修生だ。新兵ということを考慮して接するように」


「ア、アラートです! 今日から1ヶ月間、よろしくお願いします!」


「……アオイです」


 厳しい視線が飛んでくる。見定めようとしているのか、それとも別の意図があるのか。


 どちらにせよ気にする程度でもないが。ただアラートの方は緊張してか、少々声が上擦っていた。


「では、今日は訓練だ。自らを鍛え上げるように。研修生も参加せよ。以上」


 それを言ったっきり、隊長自身が訓練をしに行った。そして何人かを残して他の隊員も元の訓練に残っていった。


 で、僕らは訓練に参加しろ、と。訓練とは何をするものなんだ? 剣の素振りでもするのか?


「君ら今年の研修生なんでしょ? 私たちのことは先輩ってよんでね」


「はあ……」


「わかりました先輩!」

 

 何人かここに残っていた隊員のうちの一人が話しかけてくる。


 先輩とよべ、という謎の指令に素直にアラートは返事をしている。偉いなあとある種の関心を覚えた。


「二人とも、戦闘スタイルは? 得物は何?」


「俺は普通に、一般的な剣を使っています」


「ふ〜ん。そっちの色白の君は? 得物は? そもそも運動してる?」


 アラートの返答には特に興味を示さず、今度は僕の方を向いてくる。

 

 しかも運動している、とはどういう意図を持って問われたのだろう。戦闘任務のために魔王軍に入っているのに運動をしていないとはどういう状況だ。ないだろ。


 まあそちらは無視してもいいとして、得物か。


「特定の武器は使っていません。強いていうなら刀です。あとは『技能(スキル)』を使うか、魔法を使うかです」


 基本は『星夜奏』によって黒い物体を生み出し、攻撃にしている。なんなら今着ているこの服もそれで作っているし、左手の手袋もだ。


 この服の『星夜奏』は攻撃というより固めて鎧のように使うことが多い。


 魔法に関しては『亡霊ノ風』か『魔魔法』を使う。


 最近手に入れた『精霊魔法:風』もいつか戦闘で使えるほどになりたいと思っている。あとでブルーメに聞くのもいいかもしれない。


 さらに『独自技能(オリジナル)』である『天骸』を使って身体能力を向上させる。時には『蜃気楼』で攻撃を避ける。


 改めて考えると僕の戦闘スタイルはかなりぐちゃぐちゃかもしれない。


「面白いねえ、君。でも個人の『技能(スキル)』を使った戦いと、魔法を使った戦い方を両立するなんて無理だよ。軍には向かない。『技能(スキル)』か魔法、もしくは武器戦闘。絞った方がいいんじゃない?」


「はい? いや、普通組み合わせると思うんですが」


 何をいきなり言ってきてるんだ? どれか一つだけなんて効率が悪すぎるだろう。


 それに魔法と『技能(スキル)』なんて魔力を使うかどうか程度の差しかないんだから、混ぜて使うに決まってる。


「へえ〜、じゃあ君はそれら全てを使いこなせると?」


 嫌な笑いを浮かべながら僕に問いかけてきた。


「完璧とは言わずとも、使いこなすことくらいは」


「じゃあ戦おう」


「は?」


 一体どこから戦おうという話になったんだろうか。僕の聞き間違いか?


 まさかこいつはいきなり新兵相手に模擬戦をしようと言っているのか? 隣のアラートは大丈夫なの、というふうにオロオロしている。


「これ決定ね。私も準備するから、君もさっさと準備して」


「は?」


 そう言って彼女は武器を取りにかどこかに行ってしまった 周りの隊員から、あいつの悪い癖が出たな、という声が聞こえてくる。


 じゃあ誰か止めろよ! そう叫ぶのを寸前でやめた。


 取り残された僕は、ただただ困惑しているだけだった。


まだ冒頭シーンの時間軸には戻りません。


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