『虚無ノ塔』での破壊劇
あ! また何かステータスが……逃げろ!
ステータスの変化の時以上の悪寒がした。慌てて上を見ると、さっきと同じような鳥に囲まれている。
「嘘だろ!?」
流石にこの数はどうにもならない。
「仕方がないが、僕は逃げる! 『虚無ノ塔』!」
僕の視界は切り替わり、『虚無ノ塔』に入ったのだった。
うん、やっぱチートだ。
どんな状況でも逃げ込める避難部屋。いや、避難空間。素晴らしい。
『虚無ノ塔』を使うまもなく殺されない限りは絶対に安全な空間に行ける。
唯一の問題は元の場所に戻ることだ。
例えば敵がこの『技能』の性質を知っていて、僕が元いた場所を罠だらけにされたら、もうどうしようもない。
あんまり人前では使わない方がいい最終手段だ。
だがチートなのには変わりない。
やろうと思えばプールとかの施設だって作れる。家だろうがビルだろうが思いのままだ。
もう今日はのんびりと休もう。とりあえず風呂をつくろう。誰もいないのになんとなくだが脱衣所も作っておく。
そうだ、どうせならデザインもこだわって作ろう。
ここに螺旋階段をつくって、そこから水が流れるように……どうせなら滝っぽくしておこうか。
空中に透明なパイプを作ってそこに水が流れるようにすると……おお、なかなかいい感じだ。
なんとなく流しそうめんっぽいのはどうしようもない。
ついでに石像も作るか。昔美術館で見た大理石の彫刻を模して………
「あ、やり過ぎた」
気がついた時には、辺り一面が浴場になっていた。
風呂を作るはずだったのに大浴場ができている。いや、プールの方が近いかもしれない。
「まあいっか。どうせいくらで作れるんだし」
気にしないことにして早速この大浴場を使う。
「あぁ〜」
やっぱのんびりできるっていいな。
今日は人生の中でトップクラスの激動の数時間を送った。
いきなり召喚、そして殺されるなんて誰が思うだろうか。本当に許せない。
誘拐もどきのことをして、無能だとかいうふざけたことを叫び、簡単に僕を殺す。
『英雄』赤木シンもだ。僕に与えたのと同等以上の苦しみを与えてやる。あの腕を切られた時の衝撃、激痛、血のなくなる感覚………
次はお前の番だ。復讐、今僕の生きている理由はそれに尽きる。
何よりも力をつけないと………そういえばさっきの戦闘で何かステータスが変わったような。
「ステータス」
__________
職業:『屍ニ生キル者』
『血染メノ行者』
技能:『屍ニ生キル』『技能継承』『爪撃』『危険察知』『虚無ノ塔』『霞喰』『鉄血魔法』『心魔力』『氷酷』『忌ムベキ剣』『滅流』
__________
『滅流』が新しく増えた『技能』か。これはあのカラスもどきが使っていた攻撃かな?
「『滅流』!」
………何も起こらない?
いや、心なしか浴場の水が減っているような。
「ん?」
目の前に水の塊が現れた。なんだろうこれは………
「っ!」
直後に『危険察知』が警鐘を鳴らし始めた。なんだ!? 『虚無ノ塔』のなかで攻撃!?
考えている暇はない。なんとか安全な場所へ………
ドガァン! バキッ! ドッガン!
「………」
うそ、だろ?
目の前の水の塊が弾けたかと思うと、そこから弾丸かというような速度であらゆる方向に水が飛んでいった。
そして、まあまあな時間をかけて作った浴場は全て破壊された。
「………」