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特別入城口

 湖畔から湖の中央に向かって長く延びている一本の橋。


 マーブル模様の石造りの橋には、城へ向かう人と出て行く人の二つの流れができていた。


 そして感知しづらかったが、橋には結界が張られていた。


 湖畔、橋の入り口には巨大な門のような建物。


 橋自体の幅はある程度広いものの、橋の入り口の門で検問のようなものをしているため大行列ができている。




 門状の検問、そこを通るしか城への道は存在しない。どうやらそこで身分確認を行なっているらしい。


 僕も橋に行くためゆっくりと上空から高度を下げてながら湖畔に向かう。


「おっと」


 少し勢いがあるまま着地してしまった。僕自身に問題はないが、もう少し周囲への注意を払いうべきだった。


 ざわざわと人の喧騒が耳につく。絶対に今までは見てこなかった種族の人だらけ。


 猫のような耳を持つ人や、腕に鱗がある人々、またある人は耳が非常に長い。


「この列に並べばいいのかな?」


「いえ、ご主人様はあちらから検問所の建物にお入りください」


 そういって指さされたところは、かなり強固な結界で覆われた柱。門の中央にある柱だった。



 その柱の両脇には入り口があり、他の人はそこに入るために並んでいる。


 しかし、ブルーメが指差しているのは入り口ではない。その中央にある、柱。


 この門の建物自体結界で覆われているが、その柱のところだけ異様に結界の数が多い。そして両端に警備員が構えている。


「柱?」


「あれは柱ではございません。特別入城口となっています。向かいましょう」


 そういって人混みを掻き分け、その柱に向かって進んでいく。


 ブルーメが先導しているので、かなり人がはけて進みやすくなっていた。だが僕らの行動は側から見たら順番抜かし。


 今まで長時間並んでいただろう人たちからかなり睨まれている。いや、どちらかというと困惑されている?


 こいつら何をしてるんだ、という顔だ。


「おいお前、列を飛ばす気か!? ぶっ飛ばすぞてめえ」


 案の定、僕らに対して注意をする人が現れた。しかも最悪なことに、ブルーメは僕らに向かって矢を射ってきたやつらのせいで怒りの限度が下がっているらしい。ものすごく剣呑な空気が流れて来ている。


 こんな人混みで喧嘩など始めないでくれと願うが、そんなもの願いでしかない。


 ぶっ飛ばすとか言ってるが、見たところこの男よりよっぽどブルーメのほうが強い。せめて言葉を選べばいいのに。


「なんだと?……ご主人様に向かって何様のつもりだ?」


「は? なにがご主人様だてめえ」


 ピリピリした空気が流れる。周囲の人はここから離れていくが、二人は睨み合いを続けている。


 もしこれで暴力沙汰にでもなったら僕が止めるのだが、今の状態を止めるのはどうにも難しい。正直僕が入っても悪化するとしか思えない。


「そこの3人! 何をしている!」


 どうやら誰かが知らせたらしく、警備員らしき人がこちらにやってきた。


「魔王陛下のおられる城前で喧嘩とは何事だ!」


「俺は悪くねえ! こいつら2人が割り込んできたから注意してやったんだ」


「……なるほど、そこの二人組。割り込み行為は当然禁止されている。今なら処罰されることはない。最後尾に並びなおせ」


 それができないのならば連行する、と警備員が厳しい顔をしていう。どうせそんな顔をするならもう少し魔力を高めるとかすればいいのに、と思ってしまう。


 しかし並びなおせ、か。そもそもブルーメに言われた柱はなんだったんだ? そこが入り口という話だったが。


「並ぶのは、一般入城者だ。ご主人様は特別入城口を使う。警備員とそこのお前、処罰されるのであればそれはお前らだ」


「は? 特別入場口? 何を言って「そ、それは本当でしょうか!?」


 最初に僕たちに文句を言ってきた奴の言葉は、警備員のかなり焦った声にかき消された。


「か、階級は? 伺ってもよろしいでしょうか」


「ご主人様は独立官だ。私はその専属である」


 ブルーメがそう言った瞬間に、警備員がかなり顔を青くし、文句を言ってきた男はギョッとした顔になった。


 なにかあり得ないものを見て恐れ慄く顔だ。今の会話のどこにそんな要素があったんだ。


「失礼しました! こ、こちらにどうぞ」


 そういって僕らを柱に向かって案内する。


 僕たちの会話が聞こえなかったであろう他の一般入城口に並んでいる人々が、なんだこいつという目で見ている。


「特別入城口をご利用される方をお連れした。特別入城口の対応を頼む。で、ではお二方、続きはこちら2人に」


 そういって先程の警備員は足早に立ち去って行った。


「お目に書かれて光栄にございます」


「特別入城口をご利用と伺いました。階級を示すものをお願いします」


 柱の両脇に控えていた、また別の警備員らしき魔人2人が僕に向かって跪く。


 階級を示す、ということだったので僕の銀の腕輪を見せる。


「銀環、確かに確認いたしました」


「そちらをこのの装飾部分にかざすと特別入城口となります」


 そう言って柱の一部の装飾部分を指差す。中央に真っ黒な板があって、周囲に金、銀、虹色に光る装飾が施されている。


 言われた通りに腕輪を近づけると、ガッ、という固いものが割れるような音が聞こえた。


 柱の中央に一瞬、細く光が走る。


「ん!?」


 柱を中心に結界が張られた。正確には、もとからあった結界の範囲が広がった。


 一瞬身構えたが、みたかぎり外から一切見えなくなる結界のようだった。


 側から見ると僕らがいきなり消えたように見えるだろう。


 一体なぜそんなものを、とおもった次の瞬間、ゴゴ、という軋むような音が響く。まるで観音開きのように縦真っ二つに柱が開き始めた。


 もとからそれが柱ではなく扉だったかのように、スムーズに開いてゆく。

 

 からくり仕掛けのようだが、一切そんなものは見当たらない。そしてどういう仕組みなのかわからないが、肩幅程度だった柱が開かれ、はば数メートルの通路の入り口が現れた。


 真っ暗で、ところどころ松明のようなものがある不気味な長い通路だ。


「こちらが、特別入城口となっております。ようこそいらっしゃいました」




 我らが魔人の城へ。


 そんなブルーメの声が薄暗い通路にこだまして、妖しく届いた。


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