次は、ないよ
「ま、誠に、申し訳ございませんでした!」
その言葉と同時に一斉に僕らを襲ってきた5人が膝を地につけて謝罪する。
周囲を気にする余裕が全くないのか、周囲には鎧の破片が飛び散っているのも気にせず、勢いよく跪いていた。
「ど、どうか、お許しを!」
皆一様に真っ青な顔をしながら必死に頭を下げている。
その中でも、僕に向かって必死に謝罪する隊長らしき人は今にも気絶してしまいそうなほど顔色が悪い。
冷や汗を流し、呼吸が不安定で、ガタガタと震えている。
これではまるで処刑を待つ子羊だ。
それを眺めるブルーメが、凄まじく不機嫌そうな顔をしている。どうやらいきなり攻撃されたことでかなりおいかりのようだ。
「ご主人様、この無礼者どもを痛めつけましょうか」
「ヒッ!」
さらっとなんということもないように提案してくる。
その言葉を聞いた一人はまに受けたのか叫び声を上げる始末。別の隊員は足元に水溜りが……流石に言及するのは可哀想だ。
今にも行動を開始しそうなブルーメを寸前でとめ、僕はこいつらをどうしようか考える。
僕が叩き落としたあと、好戦的だった隊長はやけに素直になった。そこでお話を聞いたところ、決して悪意があったわけではないらしい。
実直で評判のいい彼は最近上空警備部隊の隊長になったばかりだったらしい。
そして就任式の際に、虫一つ、上空から潜入されないようになって一人前、という話をされたそうだ。
それを言葉通り実行できるようにしようと決意した彼は、かなり厳しく上空を監視するようになった。
だが魔王都に上空から侵入するほど自信家な不審者などそうそうおらず、暇を持て余していた。しかも隊長になったことにより、事務仕事が増えていった。
そんな時に、就任から数えても最初に見つけた人影が僕らだった。
元から上空から入ろうとするまともな人はほぼいない。故に彼は僕らを不審者と決めつけた。
真面目で行動力が高いことが強みの隊長は、その力を持って早速行動を開始した。
侵入者を見つけた!、迎撃だ!、と。
その結果がこれ。
軽く攻撃されただけで撃沈し、あげく不審者だと思った対象は実は上官だった。
そう、僕はどうやらこいつらの上官らしい。
直接の上司というわけではないが、立場的には僕の方が上だった。さすが魔王の保証する高待遇。
「ぎ、銀環の君、どうか……」
「黙れ。許可なくご主人様に話しかけるな」
「……いいよブルーメ。許可する」
僕が許可したのならば口を挟まないと言わんばかりにブルーメがおじぎをしてくる。
それと同時に、さらっといつでもこいつら5人を狙える位置に移動していた。
「……私は、我々の犯した失態が許されざるものであるとわかっています。そ、その上で一つ願いがございます」
「なんだ」
どこか悟ったような、何かを決意したような顔をして僕に話してくる。
極度の緊張からか滑舌が悪いように思えるが、それだけ真剣に話したいことがあるのだと理解できる。
「私の首は捧げます。ですから、どうか部下の命だけは!」
「隊長!?」
「お前は黙れ! 銀環の君、どうか、どうか私の願いを聞き届けて頂けませんか」
叫ぶ部下を黙らせ、最後まで言い切った。
私の首一つで許せ、か。なかなか部下思いの隊長のようだ。
僕の目に魔力を通して確認したところ、ここにいるのは全員下位魂。肉体の死=完全な死となる状況で、その言葉はななかな言えるものではない。
しかし、だからといって本当に隊長1人殺す気はない。例え相手が軍の末端であろうと殺すというはとてもめんどくさい。
様々な後始末が待ち受けている。後任をどうするかといった問題もある。そんな面倒なことをどうして僕がしなくてはならないのだ。
「……ブルーメ、流石にお咎めなしは不味いよね? 感情を入れずに答えて」
「はっ。ご主人様への無礼はおいておき、独立官に襲いかかったという点だけ考えても、かなり重い罪です。ただし罰は独立官本人に委ねられておりますが」
「そうか」
果たしてどうしたものか。僕がこいつらを叩き落とした時点でストレスは解消されているし、僕が実際に傷つけられたわけでもない。
僕としては処分などなくて良いのだが。
「うん、決めた」
「……はっ。覚悟はできております」
僕が決めたと口にした瞬間、ピクッと肩が震えたのが見えた。
「ん? 別に今回処分はしないよ?」
「……は?」
「ご主人様、それでよろしいのですか?」
「うん。ただし………『星夜奏』」
あらかじめ圧縮してそこら中にばら撒いていた『星夜奏』を、爆発的に膨張させる。
「ヒッ!」
そこら中を針地獄にかえ、真っ黒なトゲだらけの空間を作り出す。
先程まで跪いていた上空警備部隊の面々は全く対処できずにいた。
急所をつかないようにしたが、かすり傷程度にはなるように棘を調整。
人によっては棘の先端に鎧が絡まり、数メートル持ち上げられている。ジタバタ暴れているが、そのままだと落下しそうだ。
いい具合に恐怖が蔓延した頃に、真っ黒な鎌を作り出す。
そして回転して飛ばしながらそれぞれの首スレスレに近づける。
「いい? 次は、ないよ?」
わかった?と聞くと、元気よく首を取れそうなくらい振って返事をしてくれた。
人も死なずに丸くおさまって、とてもよかったと思う。




