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過剰な攻撃は控えよう

 ……とても大変だった。ということだけは述べておこう。


 どうやら霊獣の祝福を得たものはその代理人であり、崇めるべきものであるという思想が一般だそうだ。


 そもそも魔人の判断基準で言うと力のあるものが崇められる傾向が強い。


 だからこそ魔王に従い、霊獣を尊み、その祝福を得たものも同様に敬意を向けるらしい。 



 僕が祝福を受けていることは事実だが、不死鳥の使者という大層な地位にいるわけではない。


 それをなんとか懇切丁寧に説明してわかってもらえた。説明、というか僕の権限の濫用というか………そこは気にしないことにする。



 ちなみに強者を崇めるというのは単なる気質のようなもので、宗教ではない。正確には魔人の社会において宗教団体はない。


 神への信仰心を持っているが、それは宗教としてではなく各々信じているだけだそうだ。


 逆に人間の住むところではある一つの巨大宗教があり、一つの大規模な国家にまでなっている。



 ブルーメ曰く、隠密部隊の一員として人間社会のことは文化から戦闘手段まで一通り頭に入れているらしい。


 この世界のことについての情報が全くない僕からすると、素直にすごいと思う。


「ご主人様、もうそろそろ高度を下げてもいいかと。領空に差し掛かるので速度も落としましょう」


「ああ、大分街並みが見えてきたね」


 今までの思考を打ち切り、景色を観察する。地平線の遙遠くに小さく見えていた魔王都は、もう目と鼻の先だ。


 ここから見える街は、活気に満ち溢れている。そして、非常に広い。


 すぐ真下の街並みに目を向けると、みたことのない種族の人が行き交い、人口の多さと多様さが窺えた。


 家は煉瓦造りだが、時々全く想像のできない材質と色をした家もある。


「……これが魔王都か」


「ここは魔王陛下が『魔人』として国家を形成する宣言をしたといわれています。なのでかなり長い歴史を持ちます」


 厳格に統制されているというより、まさに自由といった感じの街並み。人間との戦争中にも関わらず街ゆく人の顔には笑顔が見えた。


 第一印象としてだが、いい街だ。少なくとも圧政に怯えたり戦争への恐怖に慄くといった様子はない。


 魔王の統治がうまく行っている証拠だろうか。

 

「ここから城まではそのまま飛行を続ける予定です。観光などをご希望でしたら後ほど私が案内いたしますが」

 

「観光か。それもいいかも…「何者だ!」


 これから行く城に想いを馳せながら、ぜひ観光してみようと思った矢先。僕の言葉は怒鳴り声に遮られた。


 よく見ると街の城壁に、いかにも兵士といった武装をした人たちが集まっていた。


「不審者発見! 上空警備部隊、詠唱開始! 放て!」


 指揮官らしき者が声をかけると同時に、何人もが弓をギリギリと引き絞り始める。


 なぜいきなり攻撃を仕掛けてくるのかと困惑しているうちに、放たれた矢がすぐ近くまで近づいて来ていた。


 こうなっては、僕ができることはない。


「……ご主人様、どういたしますか?」


 完全に無表情のブルーメが、手元の矢を握りつぶしながら聞いてくる。


 バキ、という鈍い音がよく聞こえる。よくその本数の矢を一気に折れるものだ、という無駄な関心を覚えた。


 そう、僕がすることはない。


 僕が対処をする間もなく、ブルーメが全ての矢を掴み取ったから。かなりの反射神経がないとできない技。


「矢の対処ありがとう……ねえ、なぜ彼らは僕らに攻撃をしてくるんだろう。もしや僕は何か手続きが必要?」


 あまりに酷い出迎えだ。もしや街に入るのには何らかの手続きが必要で、それをしていないから攻撃されているのかと思った。


 しかしそれにしては、手続きをしたかの確認すら取られなかった。一体どういうことだろうか。


「いえ、そんなはずはありません。独立官の行動を妨げるような権限は下の愚か者どもにはないはずです」

 

 そう言いながらバキバキに折った矢の破片を放り投げていた。


 下に投げ入れられたものを見た兵士らしきものたちが大騒ぎしているのが見える。


 攻撃した側がたかが破片で騒いでどうするんだ、と少し呆れた気分になる。


「上空警備部隊の名にかけて、怯むな! 続けぇ!」


「「「「おお!」」」」


 指揮官らしき魔人の掛け声と共に、何人かがこちらに向かって飛翔する。それぞれの手には大きな槍が握られていた。


「……ねえブルーメ」


「なんでしょう、ご主人様」


 僕らの周りを円形に取りむ様に兵士、もとい上空警備部隊とやらが動く。重そうな甲冑を着て飛んでいる姿はどこかアンバランスな感じだ。


 このまま放置してもいいのだが、少々鬱陶しい。


 さりげなく短剣を構えて臨戦体制のブルーメだが、僕は確認したいことがあった。


「これ、叩いて何か問題はある?」


「問題ありません。むしろこの無礼者どもを殺したところで、ご主人様にお咎めはないかと」


 なんともぞんざいな扱いだ。いくらなんでも殺すような真似はしたくない。


 喧嘩を売ってきたのは相手だが、何か事情があるかもしれない。それをしっかりと聞くつもりだ。


「そこの二人組! 魔王都への侵入は我らが許さん! 諦めて降参を……「君、うるさいよ?」


 のんびりと口上を述べている指揮官らしきものとの距離を、一瞬で詰める。


 あ、鎧越しに目が合った。


「なっ、止め……がぁぁ゛!」


 軽く鎧を掴んで、加速度をつけながら地面に叩きつける。途中で叫びを上げた気がしたが羽虫の音程度にしか思えない。


 なるべく城壁を傷つけないように、街から少し離れたところに叩き落とす。


 ドン!という音と共に土煙がまう。視界が塞がれてどうにも鬱陶しい。


「『精霊魔法:風』」


 詠唱もない簡単な風の操作を使い、土煙を収める。そして彼を追求するため、僕も地面に降りた。


 何気に数時間ぶりの大地が懐かしい。大地は安定していい。


「隊長!?」

 

 今ここで倒れているこれはどうやらこれは隊長だったらしく、上空の隊員が叫び声を上げる。


 それにしても役に立たない装備だ。たったこれだけの衝撃で、全身の鎧が歪み、一部は割れてしまっている。


「そもそもなぜ防御しない?」


 軽く叩きつけただけだ。やろうと思えば簡単に防げたはず。


 それにもし防げなかったとしても、なぜ魔法なり『技能(スキル)』なりで受け身を取らないんだ。あの高さから落ちたら痛いに決まっているのに。


「……さて、君」


「ヒッ! や、くるな!」


 先ほどの衝撃で動けないのか、ジタバタはするものの逃げようとはしなかった。


 これで矢をいられた仕返し程度にはなった。上空に残っている別の隊員はブルーメに任せてある。


 これ以上の攻撃は正当防衛ではない。いたぶるだけになってしまうので、社交的にいこうと気持ちを切り替える。




「さあ、僕を襲った理由を、聞かせて?」


 未だ地面に寝そべる彼に、にっこりと微笑みかけた。


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