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忠誠? 信仰? それとも狂気?


 森が完全に見えなくなったものの、まだずっと雄大な自然が広がっている。


 目下には大草原。そして中央には大きな川が流れていた。


 草原といっても草木の高さは1メートルを超しているように思える。


「のどかだねぇ」


 上空からだと、青と黄色の模様の羊のような魔物が狩をしてるのがよく見える。草むらに隠れている獲物を見失ったようだ。

 

 川に目を向ければ、時々流れが不規則にゆれ、そこから魔物が飛び出してくるのがわかる。水陸両方で生活しているのだろうか。


「のどか、でございますか。おそらくそれはご主人様であるからでしょう」


 私もそうありたい、というよくわからない返事が返ってきた。非常に長閑で危険の少なそうな光景だと思うのだが。


「ところであとどれくらいで城に到着する?」


「もうしばらくかと思われます。少しするとあちら側に街が見えてきます。それが魔王都です」


「ん? ああ、塀みたいなのが見えるね」


 この高度で飛行していて、ようやく街の端が見える程度だからもう少し到着にはかかりそうだ。


 それにしても、本当に久しぶりに「都市」といったものを見た。それだけでももう懐かしい。


 魔王都はあの塀の感じからして、外部から攻められることを想定してるようだ。城壁とでも言おうか。


 今更元の世界に執着するするつもりはないが、それでも圧倒的に違う世界であるのがわかる。


「この距離から目視でわかるのですか?」


「わかるよ。ほら、今誰かが城壁の上から飛び立ったでしょ?」


「……とても私には捉えられません。ですが、ご主人様の今おっしゃったのは魔王都の上空警備部隊だと思います」


「上空警備なんているんだ」


 この世界では魔法がある。『技能(スキル)』がある。


 空中飛行なんてやろうと思えば誰でもできるようなとても簡単なこと。


 だからこそ空中での戦闘のプロがしっかりと警備しているんだろう。部分的にだが地球より発展している文明とも言える。


「……」


 奇妙な沈黙。


 先ほどからブルーメが何かこちらをみては何かを話そうとし、そして辞めるということを繰り返している。


 視線の先にあるのは大自然。もしくは、僕。より限定的にすると、僕の手を見ている?


「何か見てるみたいだけど気になることでもあった?」


「失礼しました。不快でしたか?」


 なんとなく聞いただけなのだが、どうやら遠回しな苦情だと受け取ったようだ。


 ブルーメの顔色が変わり、目に見えて慌て始める。なんなら精霊魔法すら微妙に揺らいでいる。


「落ち着いて。この高さから落ちたら流石に危険だよ」


「多少の傷なら私には自己回復能力がありますので。こんなことでご心配をおかけしてしまい……」


 焦っているのかさらに謝罪しようとしてくる。そこまでされるとむしろこちら側が困惑してしまう。


 しかし自己回復能力か。少し前に受けた魔物からの傷が塞がってるのは何故だろうと思っていたがそういう理由だったとは。


「僕は別に怒ってないから。それで、気になることでもあった?」


「いえ、お聞きしていいものかと……」


「いいよ。別に僕に対して発言の許可を取る必要なはい」


 許可なく喋ったな?クビだ!、とかいうクソ上司になる気は毛頭ない。


 しかも軍にいた長さでいうとブルーメの方が先輩だ。先人を軽視するような真似はしたくない。


「……大したことではないのですが、ご主人様の手にある模様が気になりまして」


「ん? 左のこれ?」


 一応聞くが、僕の手にある模様など主様からの祝福以外にはない。


「はい。あまりみたことのない意匠の彫り物で、つい気になって」


「まあ、かなり目立つかもね」


 この金色の鳥をデザインした祝福はかなり目立つ。まずそもそも、金色なのだ。うっすらと光っているような気さえする神々しい線で描かれている。


 そして第二に、とても模様が細かい。普通の技術では平面に描くことすらできないような複雑な模様。


 僕にとっては主さまという恩人がくれた大切な祝福だが、側から疑問に思われても全く不思議ではない。


「繊細かつ豪奢で素晴らしい意匠だと思います。ご主人様の故郷の風習か何かでしょうか。それともご自身で?」


「いや、少なくともそんな風習はないし、自分で考案したものでもないよ。これは主さま……ある霊獣からの祝福の印」


 その単語を言った瞬間、ブルーメの動きがフリーズした。


「…………祝福、でございますか? 祝福とは、あの祝福? つまりご主人様は祝福を!?」


「お、落ち着いて……」


 驚愕に堪えないといった顔をしたあと、彼女の目に妖しい光が灯ったように見えた。


 上をみても雲以外は何もない。だが何かとても重いものを感じような気がした。


「ご主人様、伝説の不死鳥の使者とは知らず、とんだご無礼を。平にご容赦ください」


「ん?」


 空中で止まりながら、まるで地上にいるように跪くという器用なことをしている。


 そして僕は全くついて行けてない。どこからそうなったのだろうか。


「私は変わらず全てを捧げる思いで仕えさせていただきます」


 ……果たして彼女には、僕の困惑が伝わっているだろうか。いや、いないのだろう。


 色々言いたいことはあるが、変わらずとはどういう意味だ。気にしてはいけない領域に踏み込んでいるのだろうか。


「どうぞ私を好きにお使いください。どのような命令でも喜んで受け入れます」


「……とりあえず、顔を上げて」


 何か危険なことを言い始めたので、とりあえず話を打ち切る。


 しかも冗談で言っているわけでもなく、その顔は真剣そのものだった。いや、どちらかというと狂気すら感じる。




 ______ああ、これどうしよう。


 思わず僕は天を仰いだ。

 

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