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人狼の喜び

今回はアオイの専属、ブルーメ視点です

 私_ブルーメ_は幼い頃から、魔力を使うのが上手だったらしい。朧げだが、3歳の時にはすでに体外に魔力を放出でしていた記憶がある。


 私と相性が良かったのだろう。ずっと子供の頃から魔力を放出して遊んできた。


 私にとっては10年以上続けている遊びだった。だからこそ、普通は覚えるのに数十年かかる精霊魔法を13の時から使えていた。


 当然というべきか、魔王軍から私に勧誘が来た。


 隠密部隊は非常に特殊な部隊だ。魔王軍の中でも高待遇。地位的にも高く、隊長クラスになると幹部としての待遇を得られる。


 人狼という少し変わった種族の私にはなんとなく合いそう、そう思って隠密部隊を選んだ。


 これが最高のご主人様との出会いに繋がるなど、夢にも思っていなかった。




 


 震えるほど美しい。

 




 ご主人様の第一印象は、これに尽きる。


 おそらく私はご主人様に認識されてはいないだろうが、以前私はご主人様に会ったことがある。正確には、みたことがある。


 隠密部隊の訓練で、不死鳥の森、に魔物の討伐に行った時のことだ。

 

 訓練内容は簡単で、一度出会った魔物の棲家を特定せよ、というもの。私は遠くから相手を監視する魔法を使っていた。


 ひたすら魔物は遠くに走り続けた。


 このままだと森の最深部にいくのではないかと思ったその時、いきなり監視対象の魔物の首が飛んだ。

 

 なんの兆候もなかった。隠密部隊の一員として訓練をして来たはずの私がなんの感知もできないうちに、魔物が殺された。


 明らかに人為的なもの。


 人がいるわけがない。そう思って監視魔法の範囲を広げた。


 


 魔法が伝えて来たその場の光景に、私は思わず息を呑んだ。


 大量の魔物の死骸があった。緑色の木々全てを血が染め上げた、凄まじい惨状。



 不死鳥の森の魔物は、基本的に非常に強い。


 それなのにあるものは足が、あるものは首が飛び、巨人のような魔物すら体に大きな穴が空いていた。


 死んだ直後のせいか、魔物の亡骸からは血が流れ続け、その上内臓が飛び出している。




 だが、そんなグロテスクな光景など、その時の私にはどうでもよかった。


 血だらけの森において、異質としか言いようがない真っ白な髪。その手に握られた闇のような剣。


 幾重もの死骸の中央に佇む人型のナニカ。


 どこまでも見通しているような、金紫の瞳。周囲の情景に関心がないのか、その顔は全く感情を映していなかった。


 どこからみても、私なんかとは完全に次元の違うナニカ。


 全てが神の意思に沿って作られているかのような、現世と隔絶した美しさ。そして何より、魔法越しにも伝わってくるその空気感が私の心を鷲掴みにした。


 

 しばらくして、目が合った気がした。絶対に私を見える距離ではないのにも関わらず、だ。





 これが人でも、魔物でも構わない。いっそ地獄の使者でも悪魔でもいい。ただその目を永遠に見ていたい。



 そう思っても叶うはずがなく、気がついた時には魔法が消えていた。





 

 その時のことがずっと忘れられず、いつか不死鳥の森の最奥に行こうと心に決めた。


 それを実行するためにひたすら一層自分を鍛え続け、ついに隠密部隊の中でも上位に食い込む力を手に入れた。


 そんな時、新たな独立官の専属にならないか、という話が舞い込んできた。


 隠密部隊所属のものとしては最上の名誉のはずだが、正直私は魅力を感じなかった。

 

 私にとって最優先事項は、あそこに直接いくことだった。


 だがそれはこれまで私が非常にお世話になった上司からの命令だった。断ってくれてもいいと言われたが、結局は承諾した。


 


 承諾した次の日、早速顔合わせとなった。


 副隊長にその場所を問い合わせたところ、「場所は不死鳥の森、最新部だ」と言われた。

 

 思わず私は叫び声をあげそうになった。専属になって森から遠ざかったしまったと思ったら、森に行くように命令されたのだから。


 期待を抱かずにはいられなかった。もしかしたら、またあの神々しい瞳を見れるかもしれない、と。

 


 


 顔合わせの時になり、指示に従って転移のための道具を使った。

 

「……初めまして、ご主人様」


 実際、私の期待通りのことは起こった。直接あの方に会えたのだ。だがそこから期待以上のことが起こった。


 会いたい、そう思ってはいたが流石に私が仕えることになるのは予想外だった。


 顔に動揺が出て失礼となってはならない。そう思って顔を見られないように深く頭を下げる。


「……私は、ブルーメと申します」


 実際に近くで見ると、それはもう段違いにご主人様が輝いて見えた。


 正直、少しでも気を緩めると泣いてしまいそうなほど神聖に思える。



「この心と体、そして命全てを以て仕えさせていただきます」


 ご主人様と出逢えた自分の幸運を噛み締めながら、全てを捧げることを誓った。


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