表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/116

その頃、出発前日のクラスメイトは

 豪華なシャンデリアに、歴史を感じる重厚そうな机。


 壁に描かれた四角形の謎のマークは、この世界で最も権威ある宗教の象徴だそうだ。


 その下の小さな大理石には「四木にある霊とうえにある神に」と刻まれている。


 もはやこれは決まり文句だ。祈りの言葉とういう名前だが、というよりはもはやこれも宗教の象徴だと俺は思っている。


 



 この世の全て、生物、自然、魔力、そして職業、それらを神は司る。


 決して姿を見せず、神は代わりにこの世に4体の完璧なものを送り込んだ。


 それが霊獣であり、神の使いである霊獣は神木に宿っている。


 我らはそれらを崇め、讃え、敬い、人々にそれを広める。


 対してそれを阻害する魔人は滅ぼさなければならない。






 これが以前伝えられた教会の理念とやらだ。


 正直そんなことを言われてもピンとこないが、この世界では当然のことらしい。


 それを完全に反映させたのが先ほどの祈りの言葉。「四木」=神木、「霊」=霊獣、ということだそう。


 この祈りが刻まれた大理石を部屋に置くのはある種名誉なことで、それなりに格式高い場所であることを示している。


 救国の勇者となるであろう異世界人にはそれ相応の待遇が用意されているそうだ。


 ちなみに赤城シンは俺らより遥かに強い『英雄』であるから、より豪華な部屋が与えられているらしい。


 悔しいが、全てのものを切り裂く聖剣を創り出せる彼奴が強いのは事実だ。


 



 だが今それを考えている暇はない。


 自分に与えられた部屋に戻りまず最初にすること。


 これがいつもだったら訓練の疲れでベッドに倒れ込んだり、はたまたメイドの人に頼んで飲み物を頼んだり。まったりと、疲れを癒すための時間だった。


 だが今日は違う。まずは自分の武器類を置いている棚に近寄り、そして傷やヒビがないかを確認しなければならない。


「あぶねっ!」


 手が震えて、俺の短剣を落としてしまった。危うく足に刺さって『聖女』のお世話になるところだったことに冷や汗をかく。



 色々な意味で感情がぐちゃぐちゃな今は武器を触らない方がい。そう思って近くの机に置き、自分自身の動揺がおさまるまでしばらく深呼吸をする。


 緊張しても仕方がない。そう思ってもどうしても手が震える。




 先ほど王に俺ら全員が呼び出された。


 そして俺らを「実践に投入する」ということを告げられた。それぞれ何人かでバラバラの戦地に投入されるらしい。


 『聖女』と、『黄土魔道士』の清水さんだけは別の国に行くらしい。どうやら『聖女』は戦闘特化というよりは癒しの側面が強い。


 だからこそ『聖女』には他国でその技術を学び、また1人では不安だろうからもう1人同行させる、と国王が言っていた。


 胡散臭いことこの上ないが、とにかくその2人が戦地に行かないのはよかったと思う。



 対して、俺の出発は明日。本当に急いで準備をしなければいけない。


 魔人がどんな強さなのか、本当に俺が殺せるのか。そもそも俺が、殺されてしまわないか。


 全てが不安だ。



 コンコンコンコンとノック音が響く。誰かが俺の部屋にやってきたらしい。この時間帯に来そうなのといえば。


「お〜い、濁川? いるか?」


 どこか陽気な感じの声を聞き、やはりこいついか、と俺は思う。流石に部屋の中に迎え入れるかと思ったので扉の方へ向かう。


「なんだ、橘」


「何だとは酷いじゃないか。俺とお前の仲だろう?」


「……とりあえず、入れ」


 これから戦場に向かうというのに全くいつもと変わらない調子の橘に呆れつつ、立ち話も何なので中にいれる。


「ああ、ありがとう」


 そう言いながら、許可してもいないのにこの部屋で最も豪華な机の椅子に座り込む。


 俺の座る場所がないじゃないかと思いながら、小さな椅子を引っ張り出して腰掛ける。


「お前は剣の点検でもしてたのか?」


「そうだ」


 机の上に置いたままだった短剣を見ながら、何気なく問いかけてくる。


「昨日もしていただろう。お前は何というか、心配性だな。赤城の奴に賛同するわけじゃないが、俺らはこの一年でかなり強くなったと思うぞ?」


「……リスクには、備えるべきだ」


 短く返す。俺がここまで点検しているのには理由がある。第一に、武器には命を預けることになるから。


 そして第二に、アオイの存在がある。どこかよくわからないところもあったが、親友と言って差し支えなかった。


 だが、殺された。もう一年前になる。『職業(ジョブ)』という力を手にして、赤城はもうおかしくなってしまったんだと思う。


 重要なのは、いつでも殺されうるということだ。だから俺は昨日点検した剣を、念には念を入れてもう一度今日点検する。


「……お前は、あいつと仲が良かったな」


「あん?」


「何でもない。濁川、俺とお前は同じ戦地に行くんだ」


 確かにそうだ。俺と橘、この二人組で明日から戦地に向かう。


 今その話をするということは、こいつはもしや、何か重大な伝えるべきとこがあってきたのか?


「いうまでもないが、これからもよろしくな」


 そういって橘は帰って行った。




「なにしにきたんだ……」




 俺の呟きは、空中に溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ