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遥か遠くに

「ん?」


「どうされました?」


 魔物の死体を森に落下させてから数秒後。魔物の血のせいか酷い腐卵臭がまだ漂っている。


 この匂いの広がっている範囲を調べようかと思い、僕自身の感覚をいじって鋭くした。


 それによって、ある気配を探知した。


「ブルーメ、さっきの魔物の特性を教えて」


 これがなんの気配か、なんとなく予想はできる。だが確証はないのでブルーメに問う。


「はい。先ほどの魔物はロットバードという名前の魔物で、特徴としては血に強い臭いがあることです」


「なるほど。で、その臭いに何か効果は?」


 強い臭いが血についている。風に乗って遠くまで飛んでいきそうなほどの強烈な匂いが。


 そして、その臭いを人が感じるのはどんな時か。


 そう、血が流れている時だ。では、そんな傷つけられるような時に、生物として取るであろう行動は?


「効果は……まさか!?」


 ブルーメが何かに気がついたようで、だんだん顔色が悪くなっていく。僕の予想は当たったようだ。


「つまりこの強い臭いが、仲間を呼び寄せ………」


「「キリリ!」」


 僕の声は、同時に届いた凄まじい鳴き声でかき消された。



 森から僕たちのいる高度に向かって、何十何百という数の真っ白な、ところどころ赤い鳥が突進してくる。


 予想通り、ロットバードの血は仲間を呼び寄せる効果があるようだ。もっと静かに殺すべきだったと反省した。







 地球でいうところのカラスの大合唱のように、大音量の甲高い鳴き声が響いている。


 僕の服を延長して刃物のように硬化させ、近くの鳥の首を飛ばしていく。


 辺りがより凄まじい悪臭に包まれる。温泉の匂いを100倍にしたような、ある種毒ガスのようにさえ感じるようなこの空気。


「っ!」


 小さな叫び声が聞こえた方を向くと、ブルーメが手から血を流していた。


 今まで殺してきたロットバードは優に20を超えるのだろう。持っている短剣には大量の血がこびりつき、元の輝きのかけらもない。


 それでも彼女は果敢に宙を舞い、的確に魔物の急所を突いて回っていた。僕にはできない無駄のない動き。これが隠密部隊なのか。


「ブルーメ! 離脱する!」


 このまま戦っていてはいずれ大怪我をする。そう思った僕はここからの脱出を決める。


「ご主人様! どのように!?」


「最高速で振り切る! 城の方向を教えて!」


 周囲に極小サイズで潜ませていた『星夜奏』を放出。そして一気に爆発的に膨張させる。


 止めは刺さない。周囲の魔物が黒い槍に貫かれ、血を流しながらもがいて落下していく。今はそれだけで十分。


「城の方角は!?」


 ロットバードからの攻撃が止んでいる隙に彼女に近寄り、同時にどうしても聞きたいことを聞く。


 いまいちそんなことを聞く理由がわかっていないといった顔だが、しっかりと教えてはくれた。


「城の方向はあちらですが……」


「わかった! つかまって!」


 彼女の指した方向を確認しつつ、左手を彼女へ伸ばす。


 しっかりと手を握られたのを確認。この飛行の魔法を最高速に切り替えるために魔力を込める。


「ちょっと苦しいけど離さないで! 『亡霊は迅速に(シュネール)』!」




 本来高速飛行向きの『亡霊は迅速に(シュネール)』。今こそその真価を発揮する時。






 一瞬で最高速度まで加速して、僕らは魔物の群れを突っ切っていくのだった。








「〜っ、はぁ………はぁ」


「ごめん、流石に急加速すぎた?」


 魔物の群れから遠く離れ、ここでは広大だった森の切れ目さえ見えてきた。


 もはや僕のいた場所からは遙か遠く離れている。そう思うと少し寂しく、そして未開のちを冒険しているような興奮を覚える。


 ここは地上から遙遠くの空、目下には薄い雲がかかっているような場所。


 魔物の群れから逃げるためとはいえ、使用者の僕すらきついと思う高速飛行にブルーメを付き合わせてしまった。

 

「ご主人様、はや、すぎます」


 涙目になって肩で息をしながら、僕を見上げてくる。その姿に少し罪悪感が込み上げてくる。


「離脱のために最高速で飛んだからね」


「……申し訳ございませんでした」


 ある程度息を整えられたのか、掴んでいた僕の手を離した。そしてそのまま謝罪をしてくる。


「しょうがないよ。まさかあんな魔物だとは思わなかったし」


「いえ、私がご主人様の足を引っ張ってしまったことは自覚しています」


 私がいなければ敵を殲滅できましたよね?と心底落ち込んだように聞いてきた。


 それは確かにそうだ。巻き込んでしまうのを恐れてやらなかったが、確かに殲滅自体はできる。


「気にしなくていいよ。別に敵を殺し尽くすのが正解じゃない。それが任務ならともかく、あれは仕事でもなんでもない」


 実際僕自身に被害は何も及んでいない。ならばそこに謝罪すべき理由はない。


 

 僕はむしろブルーメの怪我の方を気にしている。


 そう伝えると、一瞬嬉しそうな顔をした後、瞬時に表情を引き締め「ご主人さまのお役に立てるように日夜精進いたします」と言ってきた。


 なぜそんな表情の変化が起こるのだろうかと疑問に感じたものの特に言及するほどでもない。


 城の方角に飛んだのはいいものの、今僕たちはどこにいるんだろうと思い始めた。


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