よくわからない謎生物の襲撃
次の実験は『霞喰』。危険なものではないことを願おう。
「『霞喰』」
何も起こらない。不発か? いや、違う。
「空気に味がある!?」
なんか甘い味がする。たまに辛い味もあるし、塩辛いのもある。
あ、ここはなんか紅茶みたいな味の空気だ。
こっちは逆にゴボウみたいな味。その隣は、うえぇ。これは濃縮しまくったカカオの味だ。苦すぎ。
こっちはどら焼きみたいな風味だ。こっちは………激辛ソース! なんでそんな味がするんだ!
「結構お腹いっぱいになったな」
って結局これどういう『技能』なんだ?
空気を食べる、と言うより空気を食料にする、っていう効果かな?
微妙だ。嬉しいけど嬉しくない。
次は『心魔力』だけど………多分これは意味がない。だって『魔力』。
魔法を使えないのに『魔力』があってもしょうがない気がする。
やっぱり次に試すなら『氷酷』か。これだけチートがあるんだからこれも結構有用な『技能』なのでは?
「『氷酷』」
一気に冷静になった。
単純に考えろ。そんなに何回もチート『技能』が当たるわけないだろ。
期待を持ちすぎだ。そんなに期待を持ってどうする。当てが外れた時に絶望が増えるだけだ。
そんなんで『英雄』を殺せるのか? 国王を殺せるのか?
どうせ殺すためにはこんなのんびり考える時間なんて無駄でしかない。
まず『英雄』は……
…………停止だ停止。
やばい『技能』だこれ。
ひたすら思考を冷たく、鋭く、他者への希望を排除して、最悪の事態を想定して、自分すらも疑う。そんな効果だ。
精神に関与する効果。危険すぎる。人としての最低限の感情すら排除されてしまう。
まあ、僕はもう魔人だから人ではないか。
しかし攻撃に使えるのが『爪撃』しかない。
最悪『忌ムベキ剣』を使えば攻撃になりそうだがそれは本当の最悪だ。
これからどうするか。この村は森の中の集落といった感じ。とにかく森の中を進むか。
「メエェェ!」
「『爪撃』!」
僕に襲い掛かろうとしていた羊っぽいもが切り刻まれる。
どうやら『職業』が変わったことによって威力が上がっているようだ。
さっきからずっとこんな感じに謎の生物が襲ってくる。
今死体になったこれは、羊っぽいが目が三つあった。どうなってるんだか。
「危なっ!」
何か嫌な予感がする、と思ってその場から飛び退く。
するとそこには、真っ赤な目を持った、鳥がいた。カラスのようだ。
「カァ! カカッ!」
「っ!」
なんとか『危険察知』のおかげで逃げられた。だが、その鳥は水の塊を放出してきた。
周囲の木には鋭い傷が入っている。こんなもの僕に当たったらひとたまりもないだろう。
まさか、水を高圧力で圧縮でもしたのか!?
「カアァ!」
「『爪撃』!」
ダメか! 水の攻撃に当たると『爪撃』も相殺されてしまう。
だが、相手以上の速さで大量に攻撃すればいいだけ!
「『爪撃』、3回!」
3回の連続発動。あたりの木は切り裂かれて粉々になり、鳥はもはや原型を留めていない。
地面にもいくつかの亀裂が走っている。