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人狼の専属


「そしてお主には前も言ったように、隠密部隊から専属がつく。詳しい説明はこやつにきけ」


 そういって魔王が先ほどから跪いている1人の魔人を指差す。


「すまないが私はやるべきことがある。あとは任せた」


 そう言って魔王は一人、転移して消えていった。以前見た時と全く変わらない完璧な魔法だ。


「俺は、いえ私は、隠密部隊の副隊長を務めております。まずは新たな独立官の誕生に心からの祝福を」


 残された魔人が僕に向かって跪いたまま話し始める。この様子を見るにどうやらこの人より僕は偉いらしい。


 あまり慣れない状況に少し戸惑う。この状況にいつか慣れるのだろうか。


「魔王軍において一定以上の地位を持つものには、隠密部隊より専属で仕えるものがつきます。本日は貴方さまの専属を紹介いたします。そちらの腕輪に魔力を込めて下さい」


 魔力を込める? 果たしてどれくらいの量を込めればいいのだろうか。


「どれくらいの魔力をそそげば? 転移に必要な量ほど?」


「転移に!? そんな量……失礼しました。破壊されてしまいますので、ごく少量をこめてください」


 『空間転移(ライゼ)』に使用する魔力は比較的少ない方なのだが、それでも多いのか。


 言われた通り魔力を注くと、ほんのりと腕輪が光った。


 同時に目の前の空間がグラグラと揺れ始める。


「これは?」

 

「これ、とはなんでしょうか」


 魔力を注ぐと同時にかなり空間が揺れ始めた。


 この状況は明らかに魔力を注いだせいなので、そうするように指示した隠密部隊副隊長に聞いた。だが逆に首を傾げられる。


「この空間の揺れ。何があるんだ?」


「は……? まさか貴方様は、空間を観測できるのですか!?」


「ん? このひどい揺れ。見ればすぐにわかる」


「それは……さすが独立官。おそらく貴方様のいう揺れ、は専属が転移でこちらに向かっているからだと思われます」


 曰く、先ほど魔力を腕輪に込めたのは呼び鈴のようなものだそうだ。


 いくら専属といえども、四六時中張り付いているわけにはいかない。普段は別の場所で待機している。


 故に特殊な道具が与えられ、その主人から呼ばれた時だけその場へ転移してくるらしい。


「そろそろかと」

 

 そう言われた直後、誰かがここへ転移してきた。


「……初めまして、ご主人様」


 そう言って深々とお辞儀をしてくる。ついてすぐお辞儀をされたので顔をよく見ていないが、どうやら女性らしい。


 僕より小柄で茶髪。よく通るよ声だと思う。メイド服を極限まで機能性に傾けたような服を着ている。


 おそらくこれが制服なのだろう。僕の銀色の腕輪にあるのと同じデザインのマークが入っている。


「こちらが貴方様の専属となるブルーメです。今後の説明はブルーメに引き継ぎます。俺自身も仕事があるので失礼致します」


 そう言って手元の謎の器具に触れ、どこかに消えていった。随分と空間の揺れが酷い転移だが、あれは戦闘面で大丈夫なのだろうか。


 さっきから隠密部隊と言っているがあまり転移の隠密性には優れていないようだ。


「……私は、ブルーメと申します。この心と体、そして命全てを以て仕えさせていただきます」


 非常に重い。少なくとも初対面の相手に挨拶として述べることではない。


 しかもなぜか嘘をつかれているという感覚がない。ある意味での恐怖を感じる。


 だがその熱意は歓迎しよう。魔王軍としての活動の勝手はわからない。揺るがぬ地位を築き上げるために、円滑な軍生活のために必要な人材だ。


「急だったので連絡が不十分したが、ご主人様のお名前は?」


「僕はアオイだよ。ブルーメさん」


「私などに敬語は不要です。ご主人様は私にとって圧倒的上位。隠密部隊に属してはいますが、私への命令権はご主人様と魔王陛下のみに属します」


「へえ」


 命令系統など考えたことがなかった。専属に対する指示はこちらが出せるのか。


「私の主な仕事は魔王陛下からの命令伝達、ご主人様の日々の世話、そしてご主人様の命令した任務の遂行となっています。ご命令とあらば潜入捜査なども」


「隠密部隊というだけのことはあるのか」


「はい。ここまでで何か質問はございますか?」


「いや、特に」


「では少し私からの質問を宜しいでしょうか」


 少し遠慮がちに僕に尋ねてくる。何か聞き辛いことでもあるのだろうか。


「どうした?」


「ご主人様の種族はなんでしょうか」


「……僕の見た目はおかしいかな?」


「いえ! 全くそんなことはありません。むしろ至上の美すら劣るような完璧な外見ですし、私は思わず一目惚れしそうになるほどの外見とその空気感、そして美しいその瞳の……」


「ん?」


 途中からどんどん加速していってほぼほぼ最後が聞き取れなかった。特に重要事項ではなかったようで、話はそのまま進む。


「申し訳ありません、私の不勉強でわざわざお聞きするようなことになってしまって」


 気にしなくていい、と言いつつなんと返そうか少し考える。僕の種族問題は何回か考えたが結局わからない。


 昔は人間だった。魔人に転生して、今は『鏡』で造った人工の肉体。


「……ない」


「ナイ? それはどういった種族なのでしょうか」


「僕自身の種族はわからない。多分誰にもわからない。逆にブルーメは?」


「……私自身は人狼です。通常はこのように人間とほぼ変わらない姿ですか、変身可能です」


 全く予想していない答えだった。ご命令とあらば変身しますよ?と聞かれたので特にその必要はないと返す。


 一口に魔人と言われているが、そこには全く人間と同じ見た目という者も存在するのか。


「ご主人様、続きは城に向かいながらでいかがでしょう」


 城か。まずは魔王の棲家、いわゆる魔王城に行くということ。


 しかし異世界から召喚された僕が魔王城に、魔王の味方として入るとは。


 運命とは悪戯なものだ。

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