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いってきます

「そういえば主さまの祝福に『金霊獣』ってついてるのはなんでですか?」


 僕がもらったものには、霊獣の祝福ではなく金の字が入っている。


 主さまはどちらかというと金ではなく青い。どこからその名称が来たのだろうか。


『一口に霊獣と言っても4体いる。それは正式な種族名のようなものだ』


「ん? それまえボク聞いた〜。確か4体の霊獣それぞれに、違う名称が割り当てられるんでしょ〜?」


「よく知ってるね」


 つまり主さまには金、の名前が入っている。だが他の霊獣はまた違う「〜霊獣」という名前があるのか。


「主さま〜。なんかアオイに渡すって言ってなかった?」


『そうだな。客人に渡すのはこれだ』


 そう言ってバサっと大きく翼をはためかせる。すると僕に向かって燃える何かが飛んできたのが見えた。


 幻世樹の内部の空洞であるここが燃えないかハラハラしているのは、きっと僕だけだろう。


「……これは?」


『我の羽だ。永遠に燃え続ける特殊な魔法をかけている』


 念の為『星夜奏』を使った手袋を作り出し、地面からそれを拾う。


 『独自技能(オリジナル)』になったことでさまざまな性能が上がっているのか、全く熱さを感じなかった。


 透き通るような美しい色の羽が、蒼い炎を纏って燃えている。


『霊獣に出会い、敵対しそうになればそれを使え。その羽と我が祝福の跡があれば、そうそう奴らも手は出してこないだろう』


「……ありがとうございます」


 つまりこれは、主さまの関係者であることを示すために使え、ということか。


 霊獣と敵対したら僕の命はないであろうから、この羽はとてもありがたい。結局最後まで世話になりっぱなしだ。

 

「ボクの生みの親と会ったらよろしくね〜」


「うん、わかっ…………た?」


 ボクの生みの親? ヘノーは霊獣の子、つまり親というのは霊獣のはず。


 ヘノーの親は主さまだと思っていたが、この口ぶりからすると……


 ヘノーの親って、主さまじゃなかったの!?


 いやでも確かに主さまは「ヘノーは霊獣の子」という言い回しを使っていた。一度も自身の子だとは言ってない。


 ヘノーもいつも「主さま」と呼んでいる。親をそう呼ぶかと言えば疑問がある。


『む……』


 主さまがおかしな声を出し、樹の壁の外を見つめる。


「あ……」


「ねえアオイ……これって」


 すぐに主さまが声を上げた理由がわかった。幻世樹の領域に、誰かが立ち入った。そしてそのまま無事にそこにいる。


 そんなのができるのは……


『魔王だな』


「……」


 主さまの発言ではっきりわかった。


 ついに返事を聞きに魔王がやって来た。本当にきっちり時間を守るんだな、というどうでもいい感想が浮かぶ。


「主さま、僕を一年間でここまで鍛えてくださり、本当にありがとうございました」


 ここは樹の中の閉鎖した空間。僕は空間転移を使ってでて行くので、挨拶をするのはここしかない。


 主さまに、蒼い霊獣に深く礼をする。


 そして次にヘノーをの方を見る。


「ヘノー、…………どうしようかな……言いたいことが多すぎるのも困りものだね」


 とてもじゃないが、短時間の別れの挨拶には向かない。このままでは絶対に終わらない。


「あははは! 困った顔してるね〜」


「ふふっ」


 ヘノーが笑うのに釣られて、僕も思わず笑ってしまう。


「……これを君に」


 空間収納の魔法でしまっていたものを、ヘノーに渡す。


「なにこれ? 木の首飾り?」


「前に僕が幻世樹の枝を主さまからもらって、それを削って作ったんだ」


『客人は木工職人の経験でもあるのか? この首にかける鎖状の部分。これは全て、一本の枝を精密に鎖のように削ったものだな?』


「木工職人の経験はないですよ。ただ、『技能(スキル)』の制御訓練の賜物です」


 前に極小化した『闇奏』を操る訓練をしていたときに身につけだ技だ。一本の枝を、決して途切れないように数ミリ単位の小さな小さな鎖にする。


「あとヘノー、僕も対になるのを持ってるんだ。そして、ほんの数回だけだけど、声のやり取りができる」


「え!?」


「どんなに離れていても。まあ、その分回数制限が強いんだけどね」


 これは『空断ちの呪い(シュナイデン)』と空間転移を組み合わせて、ネックレスに刻み込んだもの。


 声だけを異空間で繋げている、携帯電話の縮小版だ。


「ねえアオイ、もしかしてボクが寂しがってるのを……?」


「ふふっ……僕がヘノーと話したかったからだよ」


 ヘノーが寂しがってる、という話はあえて触れない。流石に一年一緒いれば、表情と感情くらい読み取れる。


 魔王軍に行くように言ってくれたその時から、ずっとヘノーの目が揺れていた。


 この木のネックレスは、それでも僕の背中を押してくれたことへの感謝。


「おっと、どうしたの?」


 ヘノーがこちら側に来たかと思うといきなり抱きついてきた。

 

「アオイ」


「ん!?」


 唇に何かが触れた。柔らかく温かみがある何か。


 すぐそこに、ヘノーの綺麗な瞳と紫の髪が。


「ボクからのお返し! 行ってらっしゃい、アオイ!」


 そう言って少し顔を赤くして唇を触りながら、僕に笑いかけてくる。


「ふふっ……ヘノー、行ってきます。___“旋風に溶けて”」


 全く、なんてことをしてくれるんだ。ずっとここに居たくなってしまう。


 そうなる前に、


「『空間転移(ライゼ)』」

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