金色の祝福を
「あとちょっとか……」
魔王がいなくなってから二日経つまで後一時間と少し。主さま曰く魔王は無駄に細かい。きっちり48時間経ったところで来るそうだ。
『客人、必要なものは全て収納したか?』
「はい。といっても大して多くありませんが」
今まで生活するのに使っていた物を『虚無ノ塔』に収納した。ものによっては魔法を使って空間収納に入れた。
こういう時に魔法や『技能』は便利だと思う。
『そういえば客人は最近ステータスを見ているか? どうだ、大きく変わったか?』
「いえ、ここ最近大きな変化はないです」
変わったことといえば、少しステータスの表記が変わったことくらいだ。
今までは『職業』と『技能』のに項目しかなかった。
だが『天骸』を手に入れてから、『中位技能』『独自技能』の項目が追加された。
『中位技能』は、屍の名前が入るもの。僕の場合は『屍ニ生キル』のみ。
『独自技能』は自分しか持っていない特別な『技能』。例えば『天骸』だ。
『天骸』は万能スキル。これのおかげで傷も病気も怖くない。
身体能力は上がるし、第六感のような感じで空間を認識することもできる。
とまあ表記は変わったが、内容は別に変化していない。
「そうですね……『技能』どちらかというと伸び悩んでいます」
『そうか……』
結局、今ある『技能』の使い方は上達しているが、『技能』自体は増えていない。
「急にどうしたんで……んん゛!」
全身が炎に包まれる。
癒しの炎とは違う、美しい金色の炎。
「主さま!?」
特に痛みや熱は感じない。だがずっしりと包まれていて身動きが取れない。
『騒ぐな……Bu gafeee ec ke oc nralve lo ve』
「いっ〜!」
主さまが聞いたことのない言葉で何かを言い始めると思うと、左手に鋭い痛みが走る。同時に全身に恐ろしい寒気と吐き気がかけめぐる。
身体中を殴られて尚且つ呼吸ができないような痛み。
『……汝に祝福は与えられた』
「〜っはぁっ、はぁ、はぁ」
ようやく炎が消え去り、身体中の痛みも引いてきた。呼吸を整えつつ、主さまに抗議する。
「……何事ですか!?」
「アオイに何してるの!?」
騒いでる空気を感じたのか、ヘノーも転移してきた。主さまが僕に何かをしたのかとかなり焦った様子だ。
『左手の甲を見ろ』
「え?」
「わっ、何この模様?」
左手の甲を改めて見ると細く細かな線で、金色の鳥の絵が描かれていた。
鳥の絵の周囲はさまざまな大きさの円が接しあっている模様がある。絶対に先ほどまではなかった。
『旅立つ客人に、我が祝福を与えた。祝福の効果は色々だがあらゆる技能の進化を促すことができる』
「進化……?」
『先ほど痛がっていたようだが、それは内部でありとあらゆる進化が行われたからだ』
「……それはわかりました。ですが、せめて事前に説明を」
「そうだよ主さま。アオイにも心構えがいるでしょ〜」
『それは済まなかった。それで、ステータスを見てみろ』
伸び悩んでいたのだろう?と言われる。それはそうだが説明が欲しかった。一瞬本気で殺されるかと思ったぞ。
「はあ……ステータス」
無駄に疲れたな、と思いながら言われた通りステータスを閲覧する。
____________
職業:『屍ニ生キル者』
『悪魔』
技能:『技能継承』『虚無ノ塔』『蜃気楼』『封ジラレタ鏡』『魔魔法』『亡霊ノ風』『光吸ノ毒牙』
中位技能:『屍ニ生キル』
独自技能:『天骸』『災厄ヲ呼ブ剣』『星夜奏』
祝福:『金霊獣ノ祝福』
____________
「は……?」
「どうだった〜?」
あまりにも、あまりにも予想外の方向にステータスが変化している。変わりすぎている。
『どうだ? 独自技能の一つでも増えたか?』
「祝福が一つ……『独自技能』は二つ、増えました」
『ほう、まさか二つ増えるとは。我にとっても少々予想外だ』
新たな『独自技能』の一つ、『星夜奏』は消えたものから考えて、『闇奏』の上位互換であるはずだ。
現在僕の着ている『闇奏』製の服が維持されていることから考えてもそれはほぼ確実。
「『厄災ヲ呼ブ剣』……」
「ん? どうしたの〜?」
『職業』の『悪魔』。どう考えてもこの『独自技能』のせいだ。
そしてこの『技能』の効果は。
祝福は『技能』に進化を促すもの。
僕が持っていた、剣の名前が入るものは一つしかない。
ただでさえ危険だった『忌ムベキ剣』が、さらに進化したとしたら。
果たしてこれは、どんな化け物なのだろうか。
それはまさしく『職業』どおり、『悪魔』の如きものかもしれない。
__とても、とても楽しみだ。
「主さま、祝福に感謝を」
『数百年に一度は顔を見せろ、愛しき我が弟子よ』




