その頃、王と王国は
今回は別視点です
「これより、会議を始める」
豪奢な椅子に腰掛け気だるそうにしながら、王が会議の開始を告げる。
「「「はっ」」」
ぶくぶくと太った数人の貴族たち、そして大臣や宰相、その他国政に関わるものたちが立ち上がって礼をする。
「で、宰相。いつも通り進めよ」
「かしこまりました。本日の議題は異世界から召喚した者どもについて」
異世界から召喚したという言葉を聞き、貴族たちがヒソヒソ情報を共有するように語り始める。
「異世界の者というと……」
「ええ、あれは……」
「確か1年ほど前に多大なる犠牲を払って召喚した奴らですか」
「それは!」
様々な話し声が聞こえる中、たった一つの言葉に会議場が凍りつく。
召喚の犠牲。異世界から召喚を行うのは基本不可能。世界が遠すぎるのだ。
それでも、国王の権力により強引に召喚は行われた。
一体それにどれだけのエネルギーが必要か。決して王一人の魔力では足りない。
故に民間から、あくまで戦闘地域に影響が出ないように、そして秘密裏に、広い範囲から数多く人を集めた。
魔力が豊富なものを呼び出し、時に騙し時に攫ってまで王城に集めた。
そして数百数千という人間をある種の生贄として、ようやく行われた異世界からの召喚。
この王城内でこの単語は禁句とも言える。
誰も、あえて口に出さなかった。それを一人の貴族が口にしてしまった。
「も、申し訳ございません! 出過ぎたことを申しました! ど、どうかお許しを!」
自らの失言に気がついた貴族が、顔を真っ青にして王に謝罪する。
周囲の大臣や宰相は、馬鹿なことをしたものだと冷めた目でその貴族を見つめる。
「……10000だな」
「はい?」
必死に頭を下げる貴族に対し、徐に王が口を開いた。だがその内容を理解できず、その貴族は思わず首をかしげた。
「わからぬか? 私は寛大だ。故に金貨10000枚を明後日までに納めればその罪を赦そう」
「そんな!…………………御心に、感謝を……」
金貨10000枚。支配者側である貴族にとって払えない額ではない。だが、決して気軽に払える額ではない。
なんとか絞り出すような礼を述べ、別の意味で顔面を白くしていった。
「宰相、進めよ」
「はっ。では会議に戻りまして、異世界のものたちですが……」
すっかり失言をした貴族に関心を失った国王が、会議を続けるようにと指示する。
「………以上の理由から、異世界のものどもの戦地への投入を開始するものとする」
「おお! ついに!」
「これでようやくあの穀潰しどもが役に立ちますね」
「この一年で異世界のものどもを鍛えるためにどれだけ金がかかったことか」
「いやはや財務卿殿、これで我々の出費が減りますな」
会議場が打って変わって賑やかになる。だが会話の端々から異世界人を軽視していることが伝わってくる。
「では実際の配置はどうする?」
大臣の一人が声をかけた後、宰相が王に向かって発言をする。
「そのことについて、陛下にご報告がございます」
「なんだ」
「先日、聖樹教国より連絡がありました」
魔人は魔王の下、一つの巨大国家を形成している。だが人間は、巨大国家ではなくいくつかの国家にわかれている。そして常により大きな権力を握ろうとしている。
主な国は二つ。一つはアオイやクラスメイトが召喚されたここ、リーコバ王国。
そしてもう一つは、この世界の宗教の頂点、聖樹教国。宗教国家であり、いうまでもなくどこの国より権威を持つ。
主な国は二つだが、その中には埋められない差がある。圧倒的に聖樹教国の方が上位。経済も、文化も、軍事力も。
そんな国からの連絡に、会議場の空気が張り詰める。
「連絡の、内容は? 面倒な全部など必要ない。容姿を言え」
「はっ。内容としましては、『教えにおいて重要な『聖女』の『職業』を持つものを我が国に派遣して頂きたい』、と言うものでした」
「なんだと!?」
圧倒的上位の国相手に断ることも難しい。断れない、形だけのお願いだ。
これは実質、お前ら召喚したんだったら俺にもよこせ、という横取り宣言。
「続きがございます。陛下、続けてよろしいでしょうか」
「……いいだろう」
「『たった一人で異国に来るのも心細いであろう。故に、異世界の者をもう一人同行させることを許す』」
「ふざけるな!」
「一人では飽き足らず、二人よこせというのか!」
「だがあの国相手に反抗するのは……」
「それでも我らをなんだと思っているのだ!」
「鎮まれ! 陛下のお言葉だ!」
口々に文句や心配事を口にしていた貴族たちだったが、王の言葉と聞いて静かになる。
「良いか皆のもの。ようやく、ようやく異世界の者どもを使える! たかが二人くらいくれてやれ! 我ら王国の手によって世界を支配する日にまた近づいた! 卑しい魔人どもを退け、王国の名を最強の国の名とするのだ!」
「「「全て陛下の仰せのままに」」」




