結論
「……」
「どうしたのアオイ〜?」
魔王が去ってから既に1日経過。返事の期限まで残り1日になってしまった。
「……どっちにするかな。魔王の軍に入るか否か。どっちにしろ利点はあるし」
どちらにするべきか、いまだに決めかねている。
僕は絶対に『英雄』に復讐する。そしてそのためにどうしても欲しいのが、戦闘力と権力。
魔王の軍に入ればいうまでもなく権力、公式的な立場は手に入る。そもそも人間と敵対している勢力だ。
仕事として、堂々と『英雄』を狩れる。復讐に大きく近づける。
魔王の話を信じるならば、僕は十分強いらしい。つまり戦闘力の面では問題がない、はず。
ならば魔王の軍に入って権力を手に入れることを優先するべきだ。ただ懸念もある。
もし『英雄』が、主様のいう聖域を構築できるほどの実力を持っていたとしたら。僕に勝ち目はない。
もっともっと僕が鍛えていくしかない。だがそれは現時点で確実なことではない。
「ん〜アオイは魔王軍に行きたいの? どっちも利点があるなら、したいようにすればいい」
自分の気持ちを重視すればいい。そうやってヘノーは言ってくる。
さっきまで考えていたのは、全て『英雄』に復讐をするなら、の利点と欠点だ。それ以外のことは?。
「……行きたいか、か」
正直言って非常に興味がある。魔王の軍に入るなんて絶対に地球じゃ体験できなかったことだ。それにこの世界の人との交流ができる。
「行ってみたいと思う。だけど、」
「だけど〜?」
「なんだかんだ言って、ここを離れるのもな……」
「ボクも一緒に行けたらいいのにね〜」
「……ふふっ。そうだね」
僕を気遣ったのか、ヘノーが一緒に行けたらいいという。僕も心からそう思える。一緒にいたい。
「そうできたらいいのにな……」
ないものを強請っても仕方がない。軍に入るか否か、決めてしまわないと。いつまでも考えていられるわけじゃない。
「そうだね〜。うん、そうしよう!」
「ん? 何が?」
しばらく考えているとヘノーが何の脈絡もなく「そうしよう」と声を上げた。
その顔は何かを決意したように見える。
「アオイ、行きなよ」
「……え?」
まさかヘノーがそれを言い出すとは思わず、冗談かと聞き返しそうになった。だがその表情は真剣そのもの。
ふざけているのではないことはよく伝わってきた。
「ここから出ていくかで迷っているんでしょ? でも、ここに戻ってくるならいつでもできる。逆にいうと行くのは今しかない」
「……戻ってくるのは、いつでもか」
「うん。二度と戻ってくるな〜なんて誰も言わないよ。ね、主さま?」
ヘノーが僕の少し奥を見たかと思うと、真後ろから主さまの声が聞こえた。
『そうだな。客人に戻ってくるなとは言わぬ』
「ね? アオイは行ってみたいんでしょ? 戻るのはいつでもできるけど、行けるのは今だけだよ」
行けるのは今だけか。確かにこんな勧誘が二度も三度もやってくるわけはない。今が最高の機会といえばそうだ。
戻ってくるのはいつでもできる。いつでも迎えてくれる。
『魔王は非常に腹立たしいことに王として有能かつ実力主義。客人が彼方にいくのは気に食わぬが、悪い扱いはされないはずだ』
「そうか……………………決めました」
魔王の軍に行けば地位が手に入る。ここに残れば力がもっと伸ばせる。
魔王の軍には非常に興味をそそられる。だがここから離れることになる。
色々考えた。その末に出た僕の結論は、
「……僕は、魔王の配下になる」
『そうか、客人は行くのか』
「………頑張ってね、アオイ!」
主さまは相変わらず表情がわからない。少し寂しそうにヘノーは笑う。少し寂しそうなそぶりをしてくれるのがなぜか嬉しい。
これで無表情に行ってらっしゃいとかなったら悲しすぎる。
「ヘノー、僕は結構戻ってくると思うよ。だって、空間転移を使えば一瞬だから」
「ん! そういえばそうだね!」
「おっと」
ぽすっという音とともにヘノーが抱きついてくる。
「へへっ。ボク、待ってるからね〜!」
『そうだな。数百年に一度くらいは戻ってくるといい』
「数百年……長すぎるよ〜」
さすが霊獣というべきか、感覚が違いすぎる。ヘノーも霊獣の子とはいえその感覚にはついていけないらしい。
____僕はここにいつでも戻って来れる。この暖かい場所に。
だから、今は魔王の配下になろうじゃないか。
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