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気を引き締めて


「実際に『光吸ノ毒牙』を使う時の注意事項はありますか?」


 念の為これは聞いておきたい。副作用のわからないものほど危険なものはない。


『魂毒はもちろん相手に使えば強力な武器となる。しかし、それは使用者にとっても負担となることを留意せよ』


「負担?」


『具体的には……そうだな、その技能は長時間使えないはずだ。仮に長時間使用しようと思うと、客人自身の魂が傷つく』


「僕自身の……」


『中位の魂は貧弱だ。その毒を完全に扱うにはあまりにも未熟と言ってもいい』


「今なら使っても大丈夫と前言ったのはどういうことですか?」


『光吸ノ毒牙を使っても良いだろう、というのはあくまで相手からやってくる魂に耐えられる、と言う話だ。この毒を長時間使うのは今でもだめだ』


「長時間使うとどうなるんですか?」


『それで死ぬことはないだろうが、二度と回復しない後遺症はのこる。そして魂の傷は基本治らぬ。傷がついたらそれまでだ』


 つまりこの『技能(スキル)』は恐ろしい諸刃の剣なのか。


 相手に癒えない傷をつけるが、あまりに長く使っていると自分自身にも永遠の傷がつく。転生しても何をしても治らない傷が。


 いいギャンブルだ。素晴らしいハイリスクハイリターンの。


 まあ短時間に絞って使えば何も問題はないが。


「じゃあこれは………ん?」


 主さまに話しかけようとして、ふと異変に気がつく。


 僕の少し上の空間が揺れている。自然に空間がここまで揺れることはあり得ない。


 となるとこれは人為的なもの。


 そしてさらにここは幻世樹の領域、即ち霊獣の住処。そこに立ち入るものとすれば……


『アオイ〜!』


「おっと」


 僕の頭に、元気に紫色のスライムが落下してくる。予想通り転移してきたのはヘノーだった。


『ヘノー、転移するときはもう少し静かにしなさい』


「そうですね。ヘノーの転移は結構わかりやすかったし」


 今話しているのは決して音を立てずに、といったような話ではない。




 空間系の何かの魔法を使って転移するときは、術者によっては転移先の空間が揺れることがある。


 馬鹿みたいに空間が震えていたら、これからここに来ますよ〜と敵に知らせているようなものだ。


 そうなると迎撃されたり、妨害されたりする恐れがある。故に静かに、なるべく空間を揺らさずに転移するのが重要なのだ。


 いかに空間を揺らさずに転移するか、それが空間転移の腕の見せどころだ。


『静かにか〜。アオイはうまいよね〜』


『たしかに客人は静かだ。まるで初めの頃が嘘のようだ』




 僕の空間転移を初めてつかった頃は空間の揺れがひどいとか言うレベルじゃなくひどかった。


 空間が揺れるどころか転移先に暴風が吹き荒れ、そこらじゅうの木が折れていく。


 さらにはプチブラックホールが出来上がってしまい、その頃のぼくは対処ができなかった。なので主さまが緊急で空間を調整する羽目になった。


『あれは本当にひどかった。それを思うと、いかに客人が成長したかがわかるな』


「……」


 なぜか燃え盛る鳥の主さまが遠くを見つめているようにみえる。


「そういえばへノーは今日は人型じゃないんだね」


『そうだね〜』


 ここ最近は人型でいることの方が多かった気がするから新鮮な気分だ。


「何か理由はあるの?」


『うん。アオイの頭にのりたいから』


 よくわからない理由が、僕の上に乗ってなにかおもしろいのだろうか。


 まあへノーがそうしたいのなら僕は止めない。見守る、というか頭の上に置いておくだけだ。




 頭の上のヘノーは、ある程度重量感があって思ったよりもずっしりとしている。


 よく体重を減らすにはこれを使用すれば、みたいな話を地球では聞いた。スライムの場合体重を気にするのだろうか。


『ん? なんか変なこと考えてない?』


「いや別に。ただ成長したな、って」


 この一年でヘノーも僕と同じように鍛えている。


 なので今のへノーはは僕からみて同格くらいの強さだ。果たしてこれが強いのか弱いのか。


 主さまクラスになるとイマイチ強さが計りきれなくなる。遥遠く、雲の上のような気がするし、もはやどうやっても辿り着けない領域のような気もする。


 さっきの訓練で主さまに傷を負わせれれたが、実際戦闘でそれはなんの意味もない。


 まず第一に、あの訓練は完全に手加減されている。例えば僕の腕を一瞬で消し飛ばした技一つとってもそうだ。


 本気で戦うなら、あれを連発すれば終わり。しかもあれ以上の攻撃だって当然持っているはずだ。僕はおそらく瞬殺。


 そして第二に、主さまは不老不死だ、と言うこと。いくら傷を負わせても意味がない。


 おそらくだが、あのクラスになるとやろうと思えば傷を僕が認識する前に回復すらできるはずだ。


 ではなぜさっきの訓練で僕は主さまに傷を負わせられたのか。


 おそらく、主さまの気遣いだ。


 攻撃が届いたことを明示的にして、僕に達成感を与えるための。


 わかりにくいかもしれないが事実、僕は今かなり喜んでいる。


『……どうした?』


「主さま、ありがとうございます」


『ん?』

 

僕の当面の目標は力を得て、『英雄』に復讐をしようとも文句を言われない地位を得ることだ。


 気を引き締めていこう。

面白い、続きが気になる、そう思っている方へ!


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