お墨付き
とりあえず今日の礼を述べる。たしか一年前の今日くらいに戦った時は、一方的にボコボコにされて終わった。
それから一年、『技能』を完全に扱えるように訓練してきた。
それを考えるとかなり今回は良かったと思える。
『この惨状を見て何が良いと思うのだ』
「今回は主さまに傷をつけられたので良かったかと」
『それ以前に考えることがあろう。なんだ最後の攻撃は。周囲の森は焼けこげ、客人の体に至っては明らかに足と腕が消えていたぞ』
確かに僕の身体にも攻撃の余波が来たが、何を気にしているのだろうか。
「器として割り切れって言ったのは主さまでは? 痛み自体は来ると分かれば耐えられます」
『……割り切れと言ったが、そうではない……』
何か言われたような気がしたが気のせいか? 特に話すことがあるわけでもなさそうだし。
「それに森への損害は幻世樹の領域に収めました。結界があるので他への影響は大丈夫でしょう。幻世樹の領域内に関しては……すいません、癒しの炎で修復お願いします」
『……そうか』
バッと蒼い炎の揺れる翼をはためかせる。
見渡す限り全ての大地が蒼い炎に包まれていく。そして急速に木々が育ち、何事もなかったかのような美しい森林が戻ってきた。
「……何度見てもすごい能力ですね」
毎回森を壊しては修復を主さまに任してしまうのは心苦しい。
しかし僕は破壊手段はあっても他者を癒したり植物を戻したりする能力がないのだ。
僕自身だったら毒だろうが怪我だろうが治癒できるんだが。
人間の傷でも森の傷でもなんでも治せる『癒しの炎』。それをこの広い範囲に、予備動作もほぼなく発動させている。
流石霊獣、上位魂を持つ主さまだ。
「僕的に、今回の反省点は最後の魔法ですね。もう少しコントロールできたはずです」
最後の魔法は、二段階に分かれている。まず『万物を呑め』で空間を一部崩壊させて、あらゆるものを引き寄せる。
そして次に『共に沈め』で、これまで引き寄せたすべてのものをエネルギーに変えて放出する。
第一段階までは良かったが、第二段階で周囲の被害がさらに拡大したのは残念だった。
今後はもう少し制御に余力を残すべきか。
『それもそうだがなぜ魔を作らなかった?』
主さまが言っているのは『魔魔法』のことだろうか。
確かにあれはガーゴイルやゴーレムなどを生み出せる。しかし、僕が使わなかったのはしっかりと考えてのうえだ。
「多分ですけどあれを主さま相手に使っても効果ありませんよね?」
『そう思うか。なぜだ?』
わざわざ僕に尋ねてくる。主さまが理由がわからないわけがない。と思ったところで、これは試されているんだと気づいた。
「『魔魔法』を使ってゴーレムを作っても、所詮強さは僕に及びません。となると、どう頑張ってもゴーレムの攻撃は届かないはずです。主さまクラス相手にするときは邪魔なだけです」
おそらく、今の僕の強さが主さまにダメージを与えられる最低限のラインだと思う。
となるといくら雑兵がいてもただの無駄だろう。
『その判断は正しい。単に余裕がないわけではなく考えて上で使わないならばそれもまた戦略。ただし我ほどの強者相手でなけば十分有効な攻撃であるぞ』
つまり相手によって使い分けることが重要なのだろう。
ここ一年ほど、主さまとヘノー、そして『忌ムベキ剣』の生み出す魔物相手くらいにしか戦ってない。
おかげで一般的なこの世界の実力がわからない。どれだけ強ければ復讐ができるのかも、どれだけ強ければ立場を手に入れられるのかもわからない。
あまり関係ないが、『忌ムベキ剣』の生み出す魔物が強くなっている気がするのは何故だろうか。
やはり戦闘経験が足りない。まだ経験則と呼べるものが身につくほど十分な数の戦闘をこなしていない。
「主さまからみて今回の僕の戦いどうでしたか?」
『最後の空間の魔法は攻撃としてはなかなか良かった。我に傷をつける威力はあったぞ……訓練中も言ったが、よくここまで成長したな。まだ20年と生きていないんだろう?』
「……ええ」
以前、主さまとヘノーには僕が異世界から来たということ、そして最初に『英雄』に殺されたことを話した。
その時に年齢の話もしたから覚えていたんだろう。
『戦うことなき世界に生きていたと聞いた。しかも本格的に訓練し始めたのは約一年前。ここまで上り詰めたその努力と成果は霊獣たる我が保証しよう』
「……ありがとうございます」
主さまのお墨付きか。面と向かって成果を認められると、嬉しくて、どこかむず痒いような気分になる。




