模擬戦の終わり(自爆)
「はあぁぁぁ……」
相変わらず腕が突然なくなる衝撃にはなれない。『天骸』で治るとはいえなんて主さまは無茶苦茶な攻撃をしてくるんだ。
回収した剣から黒い触手を伸ばし、手から腕にしっかりと固定する。真っ黒な血管が浮き出てきるようであまりいい見た目ではない。
「フッ!」
一気に『空断ちの呪い』を施した剣を振り上げ、何もない目の前の空間を切り裂く。
途端に風景が歪み、全ての攻撃はそれていった。
いくら凄まじい炎だろうと、空間ごと歪めて仕舞えばこちらには届かない。
だがこれが鉄壁の防御かというとそうでもない。当然主さまだって空間系の『技能』を持っている。
時間が経てば破られる。
故に、この場で僕がするべきことは何か。
「__“目覚めよ亡霊” 」
するべきこと、それは次の攻撃だ。急いで、限りなく全力に近い速さで詠唱を。
「“冷厳な眼を向けよ” “奪い去れ” “罪なき者から一切の灯火を”」
使うのは『亡霊ノ風』に属する攻撃魔法。後少し、もう少しで……
ガシャっというガラスの割れるような音。少しの間を置いて頬に蒼い矢が掠める。
防御が、崩壊した。だが僕は少しばかり微笑みを浮かべ、主さまを指差す。
「__『万物を呑め』」
ほんの小さな点。それが僕と主さまの中間地点に現れる。
近くに行って目を凝らさないと見えないほどの点、そこを中心に、戦場の全ては周りだす。物理的に周る。
僕の作り出した『闇奏』の破片も、主さまの作り出した炎も、周囲の木々も、全てが軌道を描きながらその一点に集中していく。
もはやどれだけここから攻撃をしても無意味。全てが『点』に引き寄せられて潰される。
そして僕たち自身も引き寄せられ始める。抜け出せない強い力で。
『客人! それを操れるのか!?』
主さまが焦ったように聞いてくる。何を焦っているのだろうか。
「操れない攻撃などしませんよ?」
僕に自殺願望などない。自分でも制御できない自爆特攻など決して行うわけがない。
ましてや今は単なる模擬戦。何を心配しているのだろうか。魂は安全だし主さまは不死じゃないか。
点、に引き寄せられるスピードが上がってきた。もう少しだけしたら……
「『闇奏』」
周囲に大量の『闇奏』、そしてごくわずかな大きさのものまで作り出していく。服を構成するものも、最大限の強度を持たせる。
これは決して攻撃のためではない。僕自身の防御のためだ。
「____“表は裏に”」
ごく短い詠唱。
『万物を呑め』という魔法は、実はまだ完成していない。最後の仕上げのために、先ほどの詠唱をしたのだ。
『客人、まさか!』
「___『共に沈め』」
音が、なくなったように感じられた。やけに静かな刻。
そして次の瞬間、全ての引き寄せられていたものが、爆ぜる。
連鎖するように轟音と凄まじい熱を感じた。
「……まあまあいい方かな?__『天骸』」
周囲が破壊し尽くされ、生き地獄のような光景が広がる。
しっかりと幻世樹が無事なのを確認し、次に自分の体の修復作業を行う。攻撃の余波で自分まで傷ついたが、まあ許容範囲だ。
……しかし自分のことながら治癒を修復作業と捉えるあたり、僕の感覚は大丈夫だろうか。
かなり人間だったころと離れているような気がする。
続いて、着ている服を作り直す。
服といっても『闇奏』製の布なので真っ黒なのは変わりない。ただ、ヘノー曰く僕の白い髪が映えるらしい。
いまいち僕にはわからない。しかし特に不便もないし、ヘノーがいいというならそれでいい。
唐突だが、当然今の肉体は人間のものでもないし魔人のものでもない。
強いて言うなら『封ジラレタ鏡』によって大幅強化、造られた肉体だ。
では今の僕の種族はどうなるんだろうかという疑問がある。人間?魔人?それとも何か別の……
『何がいい方なのかわからぬぞ、客人』
「あ、主さま。模擬戦ありがとうございます」
考え事をしていたら主さまのご降臨だ。これだけ攻撃したにも関わらず今は傷ひとつついていない
まだまだ霊獣には遠いことを実感させられる。
いつか本気の主さまと戦えるのだろうか。




