魂の知覚条件
「ん〜……やっぱ甘いな」
朝、最高の環境でぐっすり眠った後、それはもう心地よく起きられた。
『虚無ノ塔』から出るのが億劫になる程、素晴らしい環境だった。
もう少し寝たい気もしたが、このままここにいると二度と起きれなくなりそうだったので早々に外に戻ることにした。
そして今、僕は幻世樹の枝を齧っている。
「甘いの〜? こんな辛いのにね〜」
ヘノー曰く、この枝は辛いらしい。
僕が前に食べた時は単なる甘いお菓子だった。だから肉体を作り変えた今なら味が変わるかと思ったが。
「『鏡』で肉体を作り替えても、結局味覚は変わんないね」
「不思議だね〜」
本当に不思議だ。よくよく考えれば、霊獣と人類の味覚は同じなのだろうか。今の僕が人類なのかは置いておいて。
余談だが、霊獣の子にとって、食事は生存に必須ではない。ヘノーにとってこの木の枝とかは嗜好品らしい。
霊獣クラスになると基本何もしなくても不老不死、肉体が壊れても魂が無事なら転生、霊獣を根本的に殺す手段は基本ない。
それを聞いたとき、なんでそんな異次元の生物が4体もいるんだ、と思った。
閑話休題
「そういえば……僕の顔って変じゃない?」
髪の毛が真っ白になって、前と比べてものすごく伸びたのは自覚してる。だが、顔まではわからない。
ヘノーも主さまも今まで通り接してくれてるけど、醜い顔になっていないかの確認はできていない。
「顔? 自分で作り変えたんじゃないの〜?」
なぜわざわざそんなことを聞くのかと言わんばかりに首を傾げられた。
「いや、顔は自分でいじってないんだよ」
「え? 勝手にそんなに変わったの〜?」
「そうじゃないんだよ……説明が難しいんだけど」
なんというか、この体を作るときに重視したのは「バランス」だ。
とにかくありとあらゆる才能を、満遍なく伸ばしていった。下手に一部を改変して、アンバランスな化け物にはなりたくなかったから。
「気がついたら髪の色とか、体格とか変わってたんだよね」
バランスよく能力を強化することを重視したせいで、結局外見まで整える余裕がなかった。
気がついたら勝手に変わっていた、というのが僕の印象。
そして『鏡』から出た後、(普通の意味で)鏡を見ることはしていない。なんとなく抵抗感があった。
だからこそ今ここでヘノーの感想を聴きたいのだが。
「ん〜いまのアオイ顔? かっこいいし、かわいいよ〜」
かっこいいし、可愛いとはどういう意味だ。
とにかく最低限、見るに絶えないほどの酷い顔にはなっていないのはわかった。
「でもやっぱりアオイは変わんないね〜」
「変わんない?」
自分でも結構前と変わったと思っているが、変わらない?
「うん。魂の感じとか〜、何も変わってないよ。なんか見てて気持ちいい感じがする」
「魂の感じ……」
それは比喩表現ではなく、実際の魂の様子とかそういうことか? 少なくとも僕は魂の様子を知覚できたことはないぞ?
「それどうやったらわかるの?」
「アオイ見えないの? なんか眼をぐってやったらぼやって見えるよ」
ぐってやってぼやっと……全くわからない。
『起きていたか、客人』
「あ、主さま〜。おはよ〜」
ヘノーと二人で話しているところに上から主さまが舞い降りてきた。いきなり燃え盛る鳥が現れるのって結構怖い。
「おはようございます、主さま。ところでヘノーの言っている魂を見るってなんですか?」
『読んで字の如く、魂を見るんだ。そのものの魂の様子で、大体の強さは把握できる』
魂って見えるものなのか? 結局どうやって?
「どうやってみればいいんですか?」
『魂を見る条件は二つ。一つは、魂が大きく関連する技能を持つこと。もう一つは、各種感覚器官の性能を大きく向上させる技能を持つことだ。この二つがそれっていれば、あとは魂をみよう、と念じるだけだ』
「魂が大きく関連する『技能』?」
『わかりやすく言えば、屍か神の名がつくものだ』
つまり、その条件はもう満たしているのか。『屍ニ生キル』がある。
もう一方の各種感覚器官の方は……ちょうど『鏡』のなかで手に入れた。
……じゃあ見ようと思えば魂を観れるのか?




