その頃、クラスメイトと『英雄』は
今回は別視点です
〜クラスメイトからみた『英雄』〜
「『四木にある霊とうえにある神に』、これが神への祈りの言葉となります。我々に『技能』を与えてくださる神に感謝し、皆さんも唱えていきましょう。」
「「『四木にある霊とうえにある神に』」」
何を祈っているのかがあまりよくわからない祈祷文をクラスメイトたちと繰り返す。
この世界の宗教を学ぶことこそ、最も必要なことという信念のもと行われる宗教講座。週に2回は必ずこの講座が行われる。そのため今日もこの世界の宗教服を着た講師の授業を聞いている。
俺_濁川ハルト_にとって面白くないがつまらなくもない授業だ。
もっと戦闘技術とかの命に直接関わることを教えてほしいという気持ちもあるが、そこまでの訓練に耐えられるのかという不安もある。
「ではみなさん、この『四木』、や『霊』といった単語が何を表しているのかを……」
「あ〜! つまんねえなぁ」
講師の人の話が途中で遮られた。赤城シン、『英雄』の『職業』を持つやつの仕業だ。
大きな声と机に足を乗せるという行儀の悪さで、あからさまに「ダルさ」をアピールしている。
「なんでこんな『宗教の授業』を聞かなきゃいけないんだよ。せっかく面倒な先生様のいない異世界に来たんだぜ?」
聞いてられっかよ、と独り言にしては多いすぎる声で文句を言った。
この態度に危うさを感じたのは俺だけだろうか。
無能だと言って、会ってから数分もしないうちに俺の親友を殺す王がいる場所だ。下手な態度が死に繋がりかねないと思うのは俺の考えすぎか。
どちらにせよ、ピリピリした空気が漂ってきた。
このまま教室内が最悪の空気のままなのかと思いきや、鴻巣ヒカリが立ち上がった。
「赤城さん? あなたの態度は失礼ですよ。せっかくこの授業をしてくださってる講師の方に申し訳ないと思わないんですか?」
「おお、さすが優等生様は仰ることが違うね!」
「なんですって?」
赤城シンの横暴さは増していってる。俺らが簡単な戦闘訓練とかで木刀を振ってる間に、やれお前らには才能がないだの、もっと涼しいところに行かせろだの。
さっきもさすがとかなんとか言っているが、結局人をバカにしているだけだ。
一番酷いのは、俺らの担当のメイドの一人を部屋に連れ込もうとしたことだろうか。あの時ばかりはクラスメイトが止めたが、根本的にあいつの性格が治ったわけじゃない。
それをきっかけに、『英雄』であるあいつを避けるやつが出始めた。
アオイが殺された時は見て見ぬふりだったくせに、と悔しくなったががそれは心の中に押し留める。とにかく赤城を嫌う奴が出始めた。
ここ最近、といっても数日だが、のクラスメイトは二つの派閥に分かれているように見える。
まず一つが、『英雄』赤城シンとその周辺。思考は、強い『職業』を持つやつ万歳。
この派閥はすごい多いわけではないが、どいつもこいつも戦闘向きの『職業』だ。
この考えをよく思わないのが、もう一つの派閥。というかクラスの残り。
あいつのせいでクラスは分断されているようだ。
正直赤城のことは憎んでいる。親友を殺したことは絶対に許せない。
だが俺一人が憎んでも恨んでも意味がない。争えない。俺の『職業』は『盗賊』。
周囲を調べることが主な能力。何も戦いに有利な『技能』はない。
基本的に弱い。全く戦っても意味がない。『英雄』とは比べ物にならないほど、悲しいほど戦闘向きではないのだ。
それに国王が信用できない今、どう動けばいいのか。
いろんな不信と緊張感、ストレスでおかしくなりそうだ。
「赤城さん!」
怒鳴り声に近い怒りの響きが聞こえ、そちらを向く。
しばらく考え事をしている間にどうやら口論が発生していたようだ。かなりヒートアップしているようだ。
「俺は世界を魔人から救う英雄なんだぜ。こんな授業なんかどうでもいい」
「ちょっと! それは……」
下手するとこの世界の宗教全てが敵に回るような発言。流石にまずいと思ったのか別のクラスメイトも止めに入ろうとする。
「ごちゃごちゃうるさいなぁ。こういうやつって大体最初に死ぬんだよね〜」
「あははっ、いいこと言うな!」
「はははっ」
赤城を筆頭に、大笑いし始める。対照的に、笑われている鴻巣は俯いて、悔しいような堪えるような顔。
「俺らはつまんないから戻る」
「優等生諸君は、お勉強、頑張ってねー」
そう言って、数人が出ていく。赤城の腕には専属のメイドが抱きついていた。
教室は、最悪の空気だった。




