神殺しの毒
『まあ客人、いいではないか。体内の魔力が例えゴーレムの涙程だとしても、落ち込むことはない』
「落ち込みますよ……」
しかもさっきよひ表現が酷くなってる。
ゴーレムって泣くの? ねえ、泣かないなら涙なんてないよね? 0って言いたい?
『なぜ落ち込む? 魔力がなくてなんの問題がある。魔法が使えるのだからそれでいいではないか』
「だから魔法が使え……え?」
魔法が使える? 魔力がないのに? どうやって?
「魔法って魔力を消費して発動するんですよね?」
『そうだ』
「僕って魔力ないんですよね?」
『そうだ』
やっぱり僕には魔法に必要な魔力がない。
「じゃあ魔法使えないんじゃないんですか?」
『使えるぞ? 何を言っている』
何を言っているのか聞きたいのはこっちの方だ。燃料なしにどうやって魔法を?
『心魔力を持っているならば使えるぞ』
「ん?」
『心魔力』? 確か結構前から持っていたはず。使ったことはないが、クラスメイトの一人が同じものを持っていたのは覚えている。
『前に言わなかったか? 心魔力は魔法を使いたい、という意思を魔力に変える。手っ取り早く言えば、使いたいと思えば魔力が出てくる能力だ』
「……つまり、使いたいと思えば体内の魔力関係なく、いくらでも魔法が使えるんですか?」
『そうだな』
なんだそれ、と叫びたくなった。体内の魔力なんて全くいらないじゃないか。なんだその規格外の『技能』。
もしかしたら今僕が持っている『技能』のなかで一番強いかもしれない。
『後で試しに使ってみるといい。今まで魔法を使ってこなかったのなら、そろそろ訓練すべきだ』
確かに、いざという時に使えなくてはなんの意味もないからな。
「そういえば『魔魔法』ってどういうものなんですか?」
『魔を創り出す魔法だ』
「ま?」
間を作る? 朗読劇かなんかの『技能』か? それとも文学作品の書き方がわかるとか? ギャグのセンス?
『何を勘違いしてるかしらぬが、自らの配下となる魔をうむものだぞ』
あ、『ま』って間じゃなくて魔のことなのか。
「どんなのができるんですか?」
『いわゆるゴーレムやガーゴイル、もしくは自律人形などだ。便利だぞ。大きさも強さも思いのままだ。視覚や聴覚の共有もできる』
ロボットを作り出す魔法って認識でいいかな。便利そうだ。
遠いところに偵察に行かせたり、戦闘中の捨て駒にしてもいい。
伝書鳩のような役割にだって使えるし、人には危険すぎるところの探索とかでもいい。やろうと思えば諜報だってできるかもしれない。
「魔法はわかりました。あとで試しに使ってみますね」
『ああ、亡霊ノ風を使う時はなるべく広いところでやってくれ。幻世樹を傷つけた日には……許さぬぞ』
「……気をつけます」
主さまを怒らせたらダメだ。本気になられたら多分僕は1分も持たない。戦闘開始10秒で殺されそうだ。
絶対にこの幻世樹は傷つけないようにしよう。
ちなみに、今いるのは幻世樹の中だ。あの大樹の中にちょっとした空間があって、それがここ。
ちょっとした、と言うのは木のサイズに対してであって、僕からすれば野球場くらいでかい。
早速魔法の練習をしてみようかと思ったが一つまだ聞いてない『技能』があるのを思い出した。
「主さま、『光吸ノ毒牙』ってどういう効果があるんですか?」
『……猛毒だ』
主さまにしてはやけに抽象的な答え。
『それは魂毒という系統の毒。魂毒は世界のどの毒より強力。ありとあらゆる耐性を貫く最悪の毒。軽々しく、使うなよ』
「!……はい」
主さまが、軽々しく使うなと言ったのは初めてだ。今までどの『技能』をみても使い方を教えてくれていたのに、今回は忠告。
『忌ムベキ剣』ですら使うな、とは言われなかったのに。
「使ったら、どうなるんだろ……」
強力だと言うこと以外全くわからない。
僕の独り言には、主さまは具体的に答えなかった。逆に、質問された。
『知りたいか? それの、効果を』
知りたくないと言えば嘘になる。だが、それを知っていいものか。とんでもないものすぎて知らない方がいい気もしてくる。
「……教えてください」
色々考えたが結局は自分の『技能』。いざとなった時に使うかもしれないし、使えなければどんな素晴らしいものも意味がない。
やはり、知っておくべきだと思う。
『__神殺しの毒だ』
「神、殺し?」
『……』
それ以上のことは、何も教えてくれなかった。




