人型ヘノー
……暖かい。
あそこで疲れ切って倒れた後主さまが介抱してくれたのだろうか。
疲労のせいか目を開けるのが少々面倒に感じる。それに今の環境は非常に心地いい。
ふわっとした布団であろうものに包まれ、暖かく、まるで誰かに抱きつかれているかのような……
ん?
なんか本当にハグされているような感覚だ。ほのかに自分ではない力を感じるし、微妙に圧迫感がある。
だが、だとしたら誰に? 主さまが助けてくれたものだと思っていたが違うのか?
恐る恐る目を開ける。
「……!」
思わず大声で叫びそうになった。
本当に、人がいた。いや人間なのか魔人なのかは知らないが、本当に誰かがいた。
紫色の長い髪に、寝顔からでもわかるほど整った顔。今のこの姿だけでも芸術的と言える。
年齢的にはそこまで僕と変わらないように見える。
今の僕の状況を簡潔に言うと、知らない女性に抱きつかれている、だ。しかも寝ているし。
この人誰だ!? こんな人僕の記憶にはないし、当然知り合いというわけでもない。
なん知らない人と同じベッドにいるんだ!?
とりあえずこの人に抱きつかれているのは不味そうなので、ゆっくり脱出する。
「……ん」
僕が手から逃れたところで、この人は起きた。その目は美しい金色だが、寝起きのせいかどこか焦点があっていなかった。
そして今の状況にあまり関係ないかもしれないが、物凄く可愛い。
あ、思いっきり目が合った。しかもその状態が数秒間続いた。
気まずい空気が流れるかとも思ったが、そうはならなかった。
「……アオ、イ?」
「え? そうだけど……」
なんで僕の名前を知っているんだ?
僕の名前をこの世界で知っているのは、クラスメイト、主さま、そしてヘノーだけのはず。なぜ顔も知らないこの人が……
「アオイ〜!」
「ちょっ……」
何やら感極まった様子で、思いっきり勢いをつけて抱きついてきた。
「ボク心配したんだよ〜! 三日間も起きないんだもん!」
「三日?」
「そうだよ! 主さまがアオイを連れて帰ってきてから今日で三日目!」
三日も眠っていたのか。そこまでギリギリのことをしていたのだと改めて自覚させられる。
いや、それより
「もしかして、ヘノー?」
「ん〜? ボクはヘノーだよ?」
まじか。なんとなく口調的にヘノーに似ていると思って聞いたのが的中するとは。
「……っていうかヘノーってスライムじゃなかったの?」
「ボクはトキシックスライムだよ!」
えっへん、といったふうに胸を張って答えられた。
スライムというのは人型になれるのか?
「人になれたの?」
「なれるよ〜。そういう『技能』があるからね」
『技能』か。そんなものまであるなんて。
「……ヘノーって女の子だったんだ」
「そうだよ〜」
なるほど、色々な疑問がある程度解消した。
ところで、一つ大きな問題がある。
「ねえ、ヘノー?」
「どうしたの〜?」
「いつまで僕に抱きついてるの……?」
さっきからヘノーは僕にくっついたまま微動だにしない。
しかも、今僕は寝ている。その状態で抱きつこうとしたせいか知らないが、なぜかヘノーは今『僕の上に乗っている』。
なんというか、側から見たらかなりヤバい光景なのではないだろうか。
『目覚めたか、客人』
「あ、主さま」
『そうか、ヘノーと客人は仲がいいのだな』
「……」
「うん!」




