忌まわしきその剣 ④
怪我が治っている。文字通り穴が空いていた僕の腹はもういつも通りだ。
『確かに我は助けると言った。だが、たかが魔物相手になんてざまだ。いくらなんでも早すぎる』
戦闘が始まってから体感一時間弱。命の危機に陥るのには早すぎる。何も反論できない。
「はい……」
『ずっと見ていたが、なんのための技能だ。客人の使い方では勿体なさすぎる。その黒の欠片を操る技能。それひとつだけで簡単に魔物の百や二百殺せるだろう』
「……どうすればいいんですか?」
『考えろ。我が言うのでは意味がない。そもそもだ、客人。貴様魔法だって使えるだろう。戦闘中に新たに技能も手に入れただろう。元からある技能だけに絞っても、先ほどの攻撃を防げるだろう。なぜ、使わない』
「……余裕が、ありませんでした」
『余裕がない? 余裕は作り出すものであって、有無で語るものではない。客人には余裕を作れるだけの技能があるはずだ』
やはり、今のままだと技能の使い方が甘いのだろうか。何かが今のままでは足りないはずだ。
何が足りないんだ? なんの要素が抜けている?
威力か? 精度か? 反射速度か? 観察力か?
『我はまた上空から見ている』
また羽ばたこうと大きく羽を広げた。このままだとだめだ。
「主さま! 何か一つ、助言を!」
『……そうだな。黒の欠片を使う技』
少しの間の後主さまから返答が来た。黒の欠片を操る技とは『闇奏』のことだろうか。
『それについてだが、もっと繊細に、もっと膨大に操れ。物量だ』
「え?」
『助言は以上だ。先ほども言ったが、消し炭にならなければ助けよう』
そう行ったっきり、遙遠くに飛んでいってしまった。
「キキ」
「メエェェ」
「ガガガ」
悠長に考えてる暇はなかった。主さまがいなくなったからまた魔物が活性化し始めた。
物量、そして繊細かつ膨大な量を。そう言っていた。
膨大か。
ああ、そういえば僕は『闇奏』の破片を刃物のように尖らせて攻撃する時、せいぜい20枚程度しか出現させてないな。
「ふふっ」
なるほど、わかった気がする。つまり、もっと細かい破片を、もっともっと大量に。そう主さまはいいたかったんだ。
まず一桁分出現させる。だが、一桁じゃ少なすぎる。
二桁出現させてもまだ足りない。こんなんじゃいつもと変わらない。
三桁でも不十分。魔物の大軍相手には全然足りない
ひたすら出現させ、ついに四桁に行った頃。
「っ〜!」
頭に鋭い痛みが走る。
おそらく脳がこの数の制御をできないんだ。無理もない。これはマルチタスクなんてものじゃない。
1000以上のものを同時に操る必要がある。
……なかなかのハードモードじゃないか。しかも制御に集中してる間にも魔物は襲ってくる。
ひとまずここで『闇奏』の破片を増やすのをやめにして、魔物に対して攻撃に移る。
今まで作り出した1000の刃物を、僕を中心に回転させる。イメージとしては僕が台風の目で、周囲の真っ黒な破片が暴風だ。
「……くっ!」
頭痛が悪化してきた。だが、ここで止まっては殺される!
「さあ、魔物を狩れ!」
数々の『闇奏』の武器が織りなす流れに周囲の魔物を片っ端から巻き込む。
そしてこの流れに巻き込まれた魔物は身体中に『闇奏』が刺さって切り裂かれていく。そんな攻撃をしばらく繰り返す。
僕の作り出した攻撃の波が通り過ぎたところは、まさしく草木一本残らぬ惨状が広がっている。
だいぶ魔物が減ってきた。
素晴らしい。物量で力押しすると言うのはこんなに気持ちがいいのか。
「ふふっ、あはは!」
こうなってくると、もっともっと『闇奏』の破片の数を増やしたくなる。
楽しくなってきた。気持ちいのいい光景だ!
頭痛がするからここが限界? 魔物がくるからもうここらでやめる?
そんなわけはない。もっともっといけるはずだ。
余裕がない? 主さまに言われたじゃないか。余裕は作り出すものだ、って。
「さあ、『闇奏』よ。もっともっと、限りなく増え続けろ!」
言葉と同時に、この草原を覆い尽くすほどに増殖していく。
さっきまで1000程度だったが、そろそろ10000は超えているはずだ。
増やすのに時間をかければかけるほど頭痛は悪化する。
ここら辺で一気に二、三個桁を上げようじゃないか!




