忌まわしきその剣 ③
時間軸が24話冒頭に戻ります
「はぁっはぁ……はっ!」
服の袖口を一気に引き伸ばし、鞭のように振るって敵を切り裂いていく。
一度『闇奏』で作ったものは好きなように形状を変化させられる。そして、僕の服は『闇奏』で作られている。
その性質を使って、服から攻撃というトリッキーな戦法が可能となる。
さっきからずっと服を変化させて敵を切り捨てて、その上で周囲に『闇奏』で作った刃物を浮かべて応戦している。
だが、それも限界が近い。呼吸を整えるまもなく大量の魔物が襲ってくる。
いつまで経っても魔物は減らない。むしろどんどん増えていく。
こんなに魔物がいて、増え続けている理由は明白。
あそこにある、銀色と紫色の禍々しい剣のせいだ。あの周囲がまるで渦巻くように歪み、そこから魔物が吐き出される。
「っ〜〜!」
足に激痛が走って、頭から地面に倒れ込む。
余計なことを考えていたらもろに四足歩行の魔獣の体当たりを喰らってしまった。
咄嗟に頭は守ったが、衝撃のせいで眩暈がして平衡感覚が狂う。
周囲の敵の数の把握も攻撃を捌き切ることもできなくなった。
「まずい……!」
近くにいたの魔物の口に赤い光が浮かぶ。明らかに魔法または『技能』の攻撃。
「っは!」
全力で横に転がってなんとか回避した。ふらつく頭を抑えてなんとか立ち上がり、即座に目の前の魔物に『水鴉ノ咆哮』を放つ。
そして周囲に『闇奏』の破片を10ほど浮遊させ、敵をひたすら切り裂いていく。
正直甘くみていた。どの魔物も、僕が今まで戦ってきたのより確実に強い。気を抜いたら即座に腕くらい消し飛ばされそうだ。
今の状況を一言で表すなら、絶望だろう。
最初に『忌ムベキ剣』を発動させた時、まず僕の目の前に禍々しい剣が出来上がった。
剣が紫色に怪しく光ったかと思うと、直後に衝撃波のような謎の攻撃をくらい、剣から一気に遠くに飛ばされた。
そこからはもう防戦一方。ひたすら物量に押されて剣から遠ざかっていく。
剣に触れないと魔物は止まらないと言うのに、近付こうにも近付けない。
「キャキャキャ!」
なんとも不愉快な高い叫び声が響く。
声がした方を向くと、全身が紫色で、ところどころ黄色の斑点のある猿の魔物が目に入った。毒々しいの一言に尽きる出立ちだ。
それ以上のことを考えることはせず、『水鴉ノ咆哮』を叩きこ……
「キキキ」
「防いだ!?」
猿に届く前にバリアのようなものに阻まれ、僕の攻撃は霧散した。
逃げられたり受け止められたりすることはあっても事前に防がれたのは初めてだ。
「キッ」
鳴くや否や猛スピードで突っ込んできた。この距離なら防げ……
「いっ……」
そんな……なんで、こいつは僕の目の前にいる? なんで、僕の腹を光る右腕で貫いているんだ……
「キキキキ!」
なんとも楽しそうに僕の顔を覗き込み、生理的嫌悪を催す気色の悪い笑みを浮かべた。
僕の腹を貫いていた腕が引き抜かれ、そこから大量の血が流れ出す。痛くて叫びたいのに、まるで感覚が麻痺したように体が固まって動かない。
猿が左腕を振り上げ、そこが光だす。これは、本当にまずい。比喩でもなく冗談でもなく本当に殺され……
『客人、油断が過ぎる。弱すぎる』
目の前の猿の魔物の首が飛んだ。それと同時に全身が蒼炎に包まれる。
「主、さま」
戦場に、青い炎に包まれた霊獣が降臨した。
絶対的な王者という言葉が脳裏をよぎる。主さまが現れた途端、全ての魔物の動きが止まった。攻撃もしない、逃げもしない。
王に対する無礼はほんの僅かであれ、あってはならない。故に身動き一つ取ってはならない。
そんな魔物の意思が感じられるようだ。




