忌まわしきその剣 ②
『忌ムベキ剣』はなんとなく使わなかったのに、感が冴えてる?
「え?」
『みたところ客人の戦闘力などあってないようなもの』
「……」
はっきり言われると流石に傷つく。そうか……そんなにひどいか……
さっきから何も言わないけど頭の上に乗ってきたヘノーだけが唯一の癒しだ。主さまの言葉は心に刺さって抉っていく……
「……で、感が冴えてるとは?」
気を取り直して主さまに質問する。
『その技能の効果は無限に魔物を生み出すことだ』
「……は?」
あの『英雄』の『聖剣創造』みたいに剣を生み出すとかじゃなくて、無限の魔物? 剣という武器の性質から大きく逸脱している。
なんとなく危険そうだとは思ってたけどまさかそこまでの危険物だとは思わなかった。
枯れ枝だと思って眺めてたらそれがワニだった時みたいだ。……なんか違うか。
『その感を大切にするがいい。もし客人が迂闊に使っていたら、今頃自分の技能に殺されていたぞ』
自分の『技能』に殺されるなんて、想像しただけで恐ろしい。まさか自分の身を守るための『技能』に殺されかねないとは。
「でもこの『技能』は使えませんね。自爆するためにしか使えないようですし」
『何を言うか。客人は力を手に入れたいのだろう?』
「そうですけど、それとなんの関係が……あ」
今最悪の予想が浮かんできた。
強くなるために一番手っ取り早いのはなんだ? それは簡単。ひたすら戦い続けることだ。
実際戦闘能力なんて何もなかったこの僕が連日の戦いで少しは戦えるようになったのだから。
まあ主さまにとってはあってないようなものらしいが。
元の話に戻ると、強くなりたいなら戦い続ければいい。そのために必要なのはなんだ? そう、敵の存在だ。
さて、『忌ムベキ剣』の能力はなんだ? 無限の魔物を生み出すこと。言い換えると、無限に敵が出てくる能力。
『客人はその『忌ムベキ剣』を使え。そしてひたすら戦い続けろ。その剣から魔物が生み出されるが、剣に触れればそれは止まる』
「……」
的中した。最悪。
つまり剣に触れるまでひたすら戦い続けなきゃいけないデスゲームってことじゃねえか。
「でもそんなことをしたら僕は確実に死にますよ!?」
ついさっき主さまが言ったじゃないか。『僕がそれを使ったら死んでいた』と。
『死ぬ直前に我が客人を回復させよう。安心しろ。客人を鍛えると宣言した以上、途中で死なせるような真似はせん』
「……」
死ぬことすらできない無限の拷問か何かか? いや、強くなると決めたんだ。
そのためには一番の近道だ。しかも主さまのおかげで最悪の事態だけは防げるんだ。最高のこの環境を生かさなくてどうする。
『覚悟は決まったか?』
「……はい」
『では、戦いの前に客人の能力をもう少し把握してこうか。持っている技能を言え』
「はい。まず一つ目に___」
『では、自身の力を把握したな?』
今までどう使うか分からなかった『技能』の使い方を一つ一つ教えてもらった。
予想外の能力を持っているものから、まあ予想通りの効果を持ったものまで色々あった。
『では、それを存分に活用せよ。気を抜けば__待っているのは死だ』
「……はい」
『では……ここでやろう』
僕が『虚無ノ塔』の中に入った時の同じような感じで、視界が切り替わった。
「ここは?」
広々とした見渡す限りの草原。ただし、『告害』によるとものすごい魔物の巣窟のようだ。
今は主さまのおかげが近寄ってこないが、遠巻きに様子を伺っている。それもかなりの数が。
『ここで訓練するのがよかろう。広々としてやりやすい』
「あの、大量に魔物がいますけど……」
『今から客人が大量に魔物を生み出すのだ。別にもとから居ようがいまいが何も変わらぬ』
それはそうなんだが……
「そういえば僕の『技能』を使うとどれくらいの強さの魔物が生み出されるんですか?」
『知らぬ』
「え?」
『我にとっては魔物など取るにたらん。よってその強さの把握などしているわけがない』
「……」
強さ故の弊害。弱すぎて魔物の強さを把握していないのか。
つまり、僕が最初から全力でやるしかないのか。全力で警戒して全力で魔物を殺さないと、下手したら開始1秒でダウンする。
実戦の時だって敵の強さわかからないから、訓練にちょうどいいとも言えるか。
『では、我は上空にいる。先ほど言ったようにう、客人が死ぬ前には回復させる。一瞬で消し炭にならぬ限り助けてやろう』
そう言って羽ばたいたかと思うと、次の瞬間には主さまは遥か遠い空にいた。
「……やるか」
このまま一人草原に突っ立ってても意味がない。
覚悟を決めよう。魔物を屠ろう。そして最後に剣に触れよう。
さあ、声をあげよう。
「__『忌ムベキ剣』、発動」




