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幻世樹の枝の味

「この部屋ってどうやって入ったんですか?」


 冷静になってこの部屋を見渡すと、扉ひとつどころか窓ひとつ存在しない。ただ木目調のドームがあるだけだ。


『幻世樹の領域に踏み入ったものは空間転移でこの部屋に飛ばされる』


「空間転移……」


 空間転移、要するにワープのようなもの。特定のエリアに入った人をワープさせるなんて明らかに今僕が持っている『技能(スキル)』とは格が違う。


『そうだ客人、詫びにこれをやろう』


 真っ青な炎がたちのぼり、その周囲が歪み出した。その穴からバサッ巨大な何かが落ちてくる。


「………木の枝ですか?」


 目の前には、膨大な量の木の枝が積まれている。葉っぱがついているものもあれば、丸太のようなものまで。


 サイズもバラバラでそれこそ僕の身長並みにあるものから片手で持てる指揮棒サイズもある。


 いきなり目の前に出現した大量の木に驚いていると主さまの炎がいきなり木材を燃やし始めた。


「何をしてるんですか!?」


 火事でも発生させる気なのか。明らかに木でできたこの部屋で物を燃やすなんて。こんな空気の通りの悪そうな空間で物を燃やしたら窒息してしまう。


『これは我が棲家たる幻世樹の枝を我が炎で軽く炙ったものだ』


 僕の驚きなど意に介さずといった様子で説明が始まった。


『この枝は高い耐火性を誇る。我が炎でも軽く炙った程度では焦げ付きすらしない』


「………」

 

 それを詫びにと渡されてどうしろというんだ。この大量の木材を使って家でも建てろと? それにしては少ないか。


『そろそろいいだろう』


 さっきまでの青い炎が全て主さまの方に戻って行った。


 大量の木の方を見ると、確かに焦げ一つ、葉の一枚も燃えていなかった。それどころか虹色に輝いているようにすら見える。


 本当に耐火性には優れているようだ。


「この木は何に使えるのでしょうか?」


 お詫びに単なる木の枝とかではないだろうし、ここは魔法のある世界らしく魔法の杖とかなんだろうか。それとも観賞用?


『使うのではない。食べるのだ』


「………へ?」


 完全に予想外の方向性だった。この木の枝が食べ物? 木の枝を食べる? この丸太のようなサイズのも食べれるのか?


『美味なるぞ。ああ、安心しろ。例え人間であろうと魔人であろうと魔物であろうと食すことは可能だ』


「そ、そうなんですね」


『食べてみよ』


 この、木の枝が食べ物? 本当に食べられるのか? そもそも調理なしでそのまま食べるの?


 だがそもそももしこれが食べられないのであったとしてもそんなものを渡される理由なんてない。主さまなら殺そうと思えば僕くらい簡単に殺せるだろう。


 意を決して、一番小さそうなのを手にとる。


「えっと、この皮を剥いで食べるとかですか?」


『そんなことをする必要など無い。そのまま食べるだけだ』


「そのまま………」


 改めて木を見てみる。これを、そのまま。


『食べぬのか?』


「……食べます」


 恐る恐る口に入れて、齧り付く。


「………甘い」


 変に渋いとか苦いと言うことはなく、独特の甘みが伝わってきた。蜂蜜とメープルシロップを足して黒蜜で割ったような味。


 木の繊維が強いが噛み千切れる範囲内。花びらもちに入っているゴボウが僕の食べた物の中で一番幻世樹の枝の味に近い。


 噛めば噛むほど甘味が出てきて、それと同時にこの木の僅かな苦味が伝わってくる。この独特な風味がクセになりそうだ。


「美味しいですね」


『ああ、この木の強烈な辛さがいいだろう』


「強烈な辛さ?」


 甘くはあるが全く辛くなどないはず。なぜここで辛いと言う単語が出てくるんだ。


 もしや僕の舌がおかしくなってる? そういてば転生してから初めてものを食べたし、味覚が狂っている可能性も否定できない。


「甘いとしか思えないんですが………僕の味覚っておかしいですか?」


『甘い? そんなバカな』


 やっぱり僕がおかしいんだろうか。それとも主さまの味覚の方がおかしい? 真横で飛び跳ねて遊んでいるヘノーに聞いてみる。


「ヘノー、この木食べたことある?」


『あるよ〜。辛すぎてちょっとね〜。でもユウキは甘く感じるの〜?』


 辛いのか。それもヘノーにとっては辛すぎるらしい。まだまだ子供だと言うことか。でも結局、おかしいのは僕の味覚か……


「この体のせいかな」


『どういうこと〜?』


「なんて言うかな。僕は一回殺されてから、この体に生まれ変わったんだよ。だからそのせいで味覚がおかしくなったのかなって」


 この世界で転生というものが一般的なのかもわからない。しかも転生って感覚的なところが多いから上手く説明できない。


 でも可能性としては、「僕」と体の感覚が噛み合わないまま転生したのかもしれない。

 もしくは元からこの身体の感覚器官がおかしいのか。





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