神の名を持つか
痛い。動けいない。
なんで俺が殺されるんだ。俺が何かしたか?
ああ、『英雄』よ……まだ自分は無罪だと言い張るか。
私がどれだけ言っても無駄なんだろう。
その顔を見てるともう怒りより虚しさが湧いてくる……
「………もういい」
さっきまで夢を見ていた気がする。
喜ばしくて、悲しくて、腹立たしくて、だけど虚しいような夢。
夢の内容は朧げにしか覚えていない。ただなぜか、漠然とした怒りと無力感が湧いてくる。
「………ここは?」
ほぼ無意識に腕を動かそうとしてあることに気がつく。腕が、動かない。それどころか足も、胴体も動かせない。
そうだ、確かヘノーと話している時に……今ヘノーは無事だろうか。
まずは自分のことだ。
「どうなってんだ」
体のありとあらゆるところが光る輪で固定されている。しかも、この体勢はまるで
「はりつけ?」
まるで十字架による処刑のような形で拘束されている。しかも、僕を固定している十字架までが光る何かでできている。
特殊な『技能』か魔法を使える何者かに襲われたのか。
ドーム状の空間。僕はその中央に立って磔にされている。かなり広い空間だ。ざっくりみてもドームの半径は100mを優に超える。
壁は木目調だが、真っ赤な炎のようなものが網目上に走っている。網目状の炎が揺らめいているともいう。
音も無く、風もなく、僕以外に誰がいるでもない。この空間で動いているものは僕と、そして炎くらいだろう。
僕を襲った相手の目的がわからない。僕を殺しても何もいいことなんてないだろうし、身代金を要求できるような相手もいない。
別に今金があるわけでもなく、貴重なものを所持しているわけでもない。
なぜ僕は……
『貴様は、神の名を持つか』
声が、した。
目の前に、青い炎を纏った巨大な鳥のような何かがいる。
圧倒的な存在感。直視し難いような神聖さ。
悪魔か、化け物か。
地獄の使者か、はたまた神の使いか。逆らったら死、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
どこから出てきた。ほんの少し前までこの空間には僕以外居なかった。どこに隠れていた。
いやそれよりも、なぜ『告害』が反応しなかった。なんだこいつは。僕を襲った犯人か?
衝撃と恐れから思考が停止しそうになるのを必死に堪えてひたすら思考する。
『もう一度、問う。貴様は、神の名を冠する技能を持つか、否か』
神の名を持つ『技能』だと? なぜそんなことを聞くんだ? そもそもそんな『技能』があるのか?
『答えよ』
「…………そんな『技能』は、持っていません」
『そうか』
ほんの少しだけ、目の前の何かから感る圧力が減った気がした。




