権能に次ぐ
『ねえアオイ、寝てる時誰かに会った〜?』
「寝てる時?」
この質問が文字通り物理的に人と顔を合わせたか、と言う意味ではないことはわかる。
寝ている人が誰かと会って会話するとか無理な話だしな。
「なんで?」
だが質問の意図が分からず聞き返してしまった。一体どう言う意味の問いかけなのだろうか。
『寝てる時のアオイの体になんか真っ黒な魔法陣が出てきて、主さまが祝福なんじゃないかって言ってたから。誰かに会って祝福してもらったのかなって』
「魔法陣!?」
慌てて僕自身の体を見てみてみるが、特に何もない。皮膚に異常もなし、肌に何か刺青のようなものが刻まれているわけでもない。
『もう消えたようなだな』
「はい……どう言う模様が僕の体に浮かんでたんですか?」
『どういう、と言う質問に明確に返せるような模様ではない。言ってしまえば我々如きには把握することもできない、精密な魔法陣だ』
「なんでそんな…………あ」
なんのきっかけもなく魔法陣があらわれるわけがない。そう言おうとして、一つきっかけとなり得るものががあったことを思い出す。
「深淵か……?」
『何か心当たりがあるのか?』
「はい。ですが確証がないので……ステータスを見ますね」
久しぶりのステータス確認だと思いながら、それを念じた。
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職業:『深淵ニ招カレル者』
技能:『虚無ノ塔』『蜃気楼』『封ジラレタ鏡』『魔魔法』『亡霊ノ風』『光吸ノ毒牙』『精霊王法:風』 『蒼ノ癒炎』
中位技能:『屍ニ生キル』
独自技能:『天骸』『災厄ヲ呼ブ剣』『星夜奏』
亜権能:『魂ヲ知ル』
祝福:『権利: 来訪者』
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「……! 『屍ニ生キル者』が消えた……」
僕が召喚された当初からずっと持っていた『職業』。全ての始まりとなるものがついに消えた。
『職業』自体を恨むものでもないし、転生することができたからよかったものの、間違いなく殺される原因だった。
いざそれが消えるとなると、寂しいような気もするし、怒りの矛先が消えてどうしようもなく腹がたつようにも感じる。
悲しくて嬉しくて腹立たしくて、それでもずっとあった『職業』がついに消えた。
『悪魔』も消え、『深淵ニ招カレル者』に統一された。
あまりに衝撃的な結果に言葉を失う。
『アオイ? 心配しないでいいんだよ……何があっても大丈夫だから』
僕が何かのショックを受けたと思ったのか、へノーが気遣うように安心させるように声をかけてくれる。
さらに、乗っている肩から体全体を使って僕の顔を撫でられた。
「別に悪いことじゃないよ。あと……それはちょっと恥ずかしいかな」
『え〜。じゃあ人型に戻る?』
「それでも変わんないよ......どっちでもへノーは綺麗で安心できるし」
どっちにしろ魂変わらない。見惚れるほど美しいし、へノーはへノーだ。僕にとってはあまり人型だろうとスライム体型だろうと変わらない。
まあ人間(?)としての僕の思考的には、人型の方が親しみやすいか。
『……こっちが恥ずかしくなるよ』
「ん?」
それっきり黙ってしまったので、へノーが何を言ったのかはわからない。
『客人、こちらの話に戻ってもいいか?』
「はい。主さまの予想は正しかったみたいです」
『祝福だったか......!』
その言葉に僕は頷く。しっかりと新しい祝福がついていた。
『権利: 来訪者』。名前からして確実に「深淵らしき場所の意思」が関係しているだろう。
「祝福らしくあり得ない量の『技能』が進化しました」
『ほう? 我々が全く気がつかないうちに祝福を客人に施すような者となると......独自技能の一つや二つ増えたか?』
「いいえ。『独自技能』に変化はありません」
以前より遥かに威力や効率が高まっている可能性はあるものの、その数や名称自体に変化はない。
予想と僕の返答が大きくずれていたのか訝しげな顔をしている主さま。
『では単に技能が進化したのか?』
「それもあります。ですがそれ以上に、『亜権能』というものを手に入れました」
『なに!?』
ばさっと翼をはためかせ、身体中の炎がグラグラと揺れていた。
へノーに至っては僕の肩の上でポンポン僕にぶつかってくるくらい動揺している。
「神の名を冠する」技能のことを『権能』と呼ぶ、と昔主さまが教えてくれた。だからこそ、一段劣るとはいえそれに準ずるものを手に入れたというのは衝撃が大きいのだろう。
『アオイが権能を!?』
「いや、技能名に『神』って入ってない。それに亜、権能だから多分そこまで強力なわけじゃないと思う」
だがステータスを開いた瞬間に、もっというと僕がその『亜権能』を認知した瞬間に、それの使い方が頭に入ってきた。
まだまだ検証と訓練が必要だが、最低限の機能は今引き出せる。流石は亜「権能」だ。
『ねえ、アオイは不老不死になったの.......?』
どこか震えた声できゅっと服を握りながら問われる。
「え......?」
想定外かつ重大な問題に、急いで主さまの方に振り向く。
脳内に入ってきた情報にはないのでわからないし、答えられなかった。
『それは我にはわからん』
「なぜ、ですか?」
『我は亜権能というものを手に入れることなく、権能を手にした。我以外の上位の者も大半はそうだ』
その後の話によると、『亜権能』を獲得するかどうかは人によるそう。
いままで魂に蓄積された非常に大きな力が、何かのきっかけで『権能』と呼ばれる領域に至るのは一瞬のこと。
強力な『技能』から『権能』へ。
この二つのほんの僅かな隙間で彷徨っている特殊な状態。これが『亜権能』の正体。
それ故、その状態を通過することはあれ、それを『技能』として得る人はほぼいない。
『......それほど重大な問題のようには思えぬが、どうやらそうでもないようだな』
『うん! ずっとアオイといるためにどうすればいいかが変わるんだよ!?』
『そうだな。ではもう我以外の一体の霊獣と会ってはどうだ?』
真面目な話のはずなのに、なぜか揶揄うような声で提案される。
「もう主さま以外の霊獣ですか?」
『ああ、確か奴は亜権能を持っていた時期があったはずだ』
「そんな霊獣がいるんですか」
ついさっき滅多にそれを獲得している人はいないと言われただけに驚きは大きい。
その霊獣のところに行けばこのどっちつかずな状態が解消されるのだろうか。
「で、その方はどこのどちらさまですか?」
『詳しくはへノーに聞くといい』
『へ? ボク?』
『君ほど奴を知る者はいないだろう。なにせ、亜権能を獲得していた霊獣とは……』
___君の親のことだからだからな。
そんな言葉が放たれた。
『結局いったい何からの祝福だ? 一度同格を殺したとはいえ、祝福如きで亜権能など。客人は一体何と出会った?』
「......わかりません。ただ、僕が倒れていた間に恐ろしく不気味な何かの中にいたので......」
僕はあれを深淵と呼んでいる。だが本当になんなのかはわからない。おそらくわかろうとする事からして間違いなのだ。
あれは神そのものだ。絶対的で決して揺らがない。それ故にあの「意思」によって僕に何をさせたいのかもわからない。
『来訪者』に何を期待するのか。
いや、期待などしておらず、ただただやってくる“もの”を観察したいのか。
最高次元から僕らなどを眺めて娯楽や暇つぶしになるのか。
ただ一つ言えるのは、僕はあんなところよりこの世界がよっぽど好きだという事だ。




