その頃、『英雄』は
今回は別視点です。
「やあっ!」
俺の付属で召喚されたクラスメイトが剣を振っている。案の定的が斬られることはなく、刃が途中で止まってしまった。
今日は木製の的に向かって剣をふる練習らしい。だが、正直俺以外の奴らの才能なんてたかが知れてる。
なにせ、この世界の召喚の本命は俺。『英雄』たる俺こそが主人公なんだから。
たまたま俺という偉大な存在の召喚に巻き込まれただけのモブ、それが今目の前で汗を垂らしながら泥臭く剣を振ってる奴らだ。
こんなチンタラ剣の練習をしたって、『英雄』である俺に追いつくのにどれだけ時間がかかることやら。
一応俺も訓練場にいるが、あまりにも初歩の初歩すぎて全くやる気が出ない。
「シン様、お暇ですか……?」
全くやる気が出ずにクラスメイトたちの訓練を眺めていると、一人の女が控えめに声をかけてきた。
専属メイドのフェアフーだ。どうやら国王はしっかりと俺の才能を見抜いていたらしく、俺だけに、特別に、専属のメイドをつけてくれた。
「ああ、暇で暇でしょうがない」
「でしたらこちらで甘味を食べませんか?」
そう言って訓練場から少し離れた日陰で涼しそうなところを指差す。
「おお、いいな。そうしよう」
せっかく用意してくれたのを断るのも紳士的ではないと思い、仕方なく俺は訓練から離れる。
「以前シン様が好きだとおっしゃっていた、クッキーを用意いたしました」
「覚えていたのか」
確かに前の食事中に少し世間話で言ったが、まさか覚えているとは思わなかった。彼女はなかなか有能みたいだ。
こんなメイドをつけてくれた国王には、何かあったら少し力を貸してやってもいいかもしれない。
「今日の訓練はどのようなことをされましたか?」
「剣術の基本中の基本だよ。だが、俺みたいな『英雄』に必要なものはあそこにはないみたいでね……」
「流石です! もうすでにそんな域にいらっしゃるのですか!」
「もちろん。俺には聖剣がある。あんな剣術なんかいらないんだよ」
すごいです!とフェアフーが可愛らしく俺を褒め称える。それを見ながら、我ながらいいメイドを持った、と思う。
単に気が利くだけではなく、しっかりとフォローしてくれる。それに可愛い。
「どうされました……?」
しばらくフェアフーの方を見ていると首を傾げられた。
「なんでもない。それよりいつになったら俺は魔人と戦えるんだ?」
いいかげん的相手の訓練が嫌になってきた。
さっさと実戦をした方が、俺にとっても、国にとってもいい。
俺を戦に出せばすぐに人間有利にできる。
それなのに俺をこんな場所に留めておくとは、この国の上層は判断力までないのだろうか。
「もうしばらくは無理かと……すみません、お待たせしてしまって」
国王陛下の許可がないことには……と謝る。国王がまだ危険だと判断して、対魔人戦を行なっていないらしい。
彼女の申し訳なさそうな顔をみて俺は、これはフォローした方がいいか、と思う。
「大丈夫、君が謝る必要はない。国王は俺みたいな才能のある人がいるとは思ってなかったんだよ。天才は凡人に理解されるのに時間がかかるんだ……」
そう、こうして周囲の成長を待たなきゃいけないのも、もどかしいが天才の宿命なんだ。そう自分に言い聞かせる。
「天才は理解されにくいのですね……大丈夫です、シン様!」
俺が天才ゆえに暇を持て余し、結局できることがなく才能が活かせない。
少し周囲との差に悲しくなっていると、フェアフーが何かを決意したように伝えてきた。
「たとえ誰にも理解されなくても、私がいます! 私があなたの理解者になります!」
「………ありがとう」
理解者がいてくれるのは心強い。いくら『英雄』でも、凡人からの理解はどうしても気になる。
「俺は『英雄』だ。才能のない奴らの成長を待つのも、また仕事なのかもな……」
『英雄』という『職業』を持つものは神に認められた者、という思想があるらしい。
つまり俺はこの世界で神に認められた、崇められるべきものらしい。
なぜ凡人であるクラスメイトが、天才である俺をもっと崇めないのか甚だ疑問だ。そんなことを考える。
「どうか『英雄』様、魔人を、魔王を殺してこの世界を平和にしてください」
「任せておけ」
可愛いメイドに、自信たっぷりに応える。
俺は哀れで、無力で、何もできない、この世界の凡人を救うための『英雄』だからな。
皆が寝静まった頃、メイドのフェアフーが国王の前に跪いていた。
「あの小僧を籠絡せよ。あの年頃なら適当に色にでも溺れさせておけ」
「仰せのままに」
淡々と無表情に、彼女は命令を実行するために動きだす。




