1級幹部会 最悪の全面戦争
「……陛下、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」
魂からの完全な死。
考えたことはあったが、エイガーはあり得ないと心の中では思っていた。しかし、ことが起こってしまった。
眉間に眉を寄せ、深く考え込みながらもいくつかの情報を手に入れなければと質問する。
「許す」
「はっ。ではまず一つ目に、その派遣した者が『魂から死んだ』というのは確定しているのでしょうか」
「私の『権能』で確認した」
『美食の間』の空気が一気に引き締まる。
この情報が不確かなもので、実際には派遣した独立官が生きのびている可能性。
この場にいる誰もが一度は考えたことだったし、そうであれば一番良かった。
そんな希望を求めての質問だったが、魔王が『権能』まで使用したという言葉で生存への期待ははほぼゼロにまで落ち込んだ。
『権能』と称される、上位魂保持者のみが持ち得る技能。
その効果として、まず保持者を不老不死にすることが挙げられる。これはどの『権能』にも共通する特徴である。
さらに内容はその『権能』ごとに異なるが、絶大かつ特殊ななにかを起こすことができる。
余談ではあるが、『神の名を冠する技能』とはこれを指す。
そんな『権能』を用いてまで調べたことが、間違っているとは思えない。
「まず第一に遺体が見つかった。それだけなら転生して生きながらえている可能性もあるが、そこから魂毒という特殊な毒が見つかった」
その言葉に敏感に反応したものが約半数。そして聞き慣れない単語に首を傾げるものもまた約半数。
だが知らないのも無理はない。魂毒は「主に上位魂所持者が操るもの」であって、いかに魔王軍の上級幹部であろうと中位魂の彼らには遠い話なのだから。
「申し訳ありません、魂毒、とはなんでしょうか」
「魂毒というのはその名の通り魂に傷を与える毒だ。それが死体から検出された以上、私が派遣したものは根本的に死んだと見るべきだろう」
「そうなのですか……我々を完全に殺すような危険な毒のことを、私は知りませんでした。上級幹部の一角を担う者としてあるまじき失態! 罰は如何様にでも……」
「そう落ち込むな。アレは、ほんの一握りの天才しか使えん。あんなものを使えるのは広義の人類の中でも、おおよそ二桁に満たない。もちろん私は使えるが」
その言葉に、先ほどまで自分の知識不足を責めていた陸軍元帥は目を見開く。彼はその毒を扱える者の少なさに最も驚いたわけではない。
常に他者を圧倒する知識とそれを実行する力を持つ魔王が、絶対の王が、「天才」という言葉を用いたことに驚いたのだ。
いかに自分たちが優れていようと、敵が強かろうと、全て魔王にとっては取るに足らないのだろうと思っていた。
あの王から見れば、全ては凡人以下の集合なのだろうと思っていた。その王を持ってして、天才にしか使えないという毒。
そういって陸軍元帥が驚いている頃、先ほどから何かを考えていた様子のグリーガーが魔王の方を向く。
「陛下、もしや派遣した独立官というのは、私に品定めを命じた時の者ですか?」
「その通りだ。ようやく思い出したか」
「返す言葉もございません」
わざわざ自ら出向いてまで品定めを命じられたのだ。それを今この時まで思い出せなかったことに深く反省していた。
いくら中位魂を持つといっても、彼の肉体は人の子。怪我もすれば歳もとり、体力も身体能力も知覚能力も落ちていく。
魂から人格や技能は引き継がれていくとはいえ、思考速度や知覚能力は肉体に依存する面も大きい。
やはりこの体の寿命が近いのだろう、とグリーガーは気がついていた。
上級幹部のメンバーは定期的に入れ替わっている。正確には肉体の限界を迎え死に、しばらくして転生しても戻ってくると言うことを繰り返していた。
そろそろ自分もその時期になったのだ。
だが、最後まで働き通さなければならない。死んでから転生し、赤子から子供になり、まともに動ける体になってまた上級幹部会に戻ってくるまでには長い時間がかかる。
聖樹教国が動き出した。人手は多いに越した事はない。まだ死ぬことはできない、と彼はより一層自分を引き締めた。
「質問を宜しいでしょうか」
幹部それぞれがもたらされる情報に驚き、また自らを顧みているところで、また新たに疑問が生まれて行った。
「許す」
「ありがたく。その者の死亡原因ですが教国の第五賢者によるものとみてよろしいでしょうか」
上級幹部に匹敵する者が派遣されても討伐に失敗し、さらに第五賢者の実力が明らかになった。
全体的にそのような話なのかと考えていた幹部も多かったが、そうでもない幹部もいた。
「それは、ない。それごとき、にどうるいはころされない」
彼女は言うべきことは言ったとばかりにそれ以降は黙り込んだ。
誰も手をつけていなかった酒に手を伸ばし、血を混ぜ、側から見ればやけ酒のような勢いでそれを煽る。
なぜそう言い切る?という他の幹部の疑問と視線を全て無視しながら。
「エステーゼの言う通りだ。私の派遣した独立官の遺体の側に、第五賢者と呼ばれていた敵の死体があった。こちらからも魂毒が検出された。つまりしっかりと第五賢者は死んでいる」
「相打ちということですか?」
「第五賢者ごときに魂毒が操れるとは思えない。第五賢者を殺した後、何者かに襲われた。そう見るのが妥当だろう」
「まさか!?」
あり得ない、と言わんばかりの叫び。
そう、通常あり得ないのだ。不意打ちとは言え、完全に上級幹部クラスを殺せるものなど滅多にいない。
少なくとも民間や一卒兵としては絶対にいない。民間や一般の兵には。だから第五賢者との戦いの末、相打ちになったと見るのが妥当だったのだが。
まさか、とさけんた彼も、ある可能性に気がつき始めたようで。顔を青ざめさせている。
「検討はおおよそついている。『大賢者』と呼ばれる九賢者の筆頭、もしくはその側近たる第二賢者によるものだ」
「……そんな」
ここに来て、九賢者の中で最凶が動き始めてしまったという事実。
本来なら教国の上層部が動いただけでも大騒ぎなのに、ここ100年単位で動きを見せなかった『大賢者』が動き始めた。
「全面かつ全力の戦争が、始まるな」
「まずいわね。人間対魔人ではなく、私たちと九賢者との争いとなっては……」
国が崩壊するわね。あまりにも不謹慎なその言葉は直前で飲み込まれた。




