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作為

 それから二人は、不思議な街を散策し続けた。そこに商業施設や住宅はなく、街は無機質なビル群に覆われていた。

「この街じゃ、ハンバーガーなんか食べられそうにないね……」

 ディランは肩を落とし、深いため息をついた。一方で、奏多(かなた)は依然として不敵な笑みを浮かべたままである。

「アンタ、ハンバーガーが好きなんだな」

「うん。もう二度と食べることは出来ないと思うけどね。しかしこれだけ練り歩いたのに、全然お腹が空かないなぁ」

 二人が見て回った限り、この街に飲食店と思しきものはない。この先、彼女たちは飲まず食わずの生活を強いられることになるだろう。しかしディランの言っていた通り、二人が空腹を感じることもない。ここはそういう街なのだ。

「なあ、ディラン」

「どうしたの?」

「どうやらこの街は、何者かの作為によって作られたものらしい」

 そう言い切った奏多は、確信を帯びた眼差しをしていた。

「作為によって……?」

「ああ。最後に生き残った一人が脱出できる世界であれば、最初にこの世界に来た一人が脱出できるはずだ。そして、その次に来た奴もまた同様だ。それを繰り返すことで、オレたちは本来ここから脱出できるはずなんだよ……そこに何者かの作為がない限りはな」

「……確かに、そうだね」

 彼女の推論に、ディランは納得せざるを得なかった。無論、奏多が何者かの作為の介入を確信している理由はそれだけではない。

「その上、オレたちは時間を操れないのに、空腹を感じずに生きている。ここには資源らしきものが見当たらないが、立派なビルが立ち並んでいる」

「うん……」

「更にオレたちは、同じ声を聞いたはずだ。何者かがいるんだよ。オレたちを弄ぶ……悪趣味な何者かが」

 ここに来てから間もないわりに、彼女は妙に冷静だ。そんな彼女を前にして、ディランは問う。

「君は、やけに落ち着いているね。怖くないのかい? この街が」

 当然の疑問だ。見知らぬ街に幽閉され、その街が不条理に満ちたものであれば、普通は取り乱すものであろう。そんな状況下に立たされた奏多の答えは、ただ一つだ。

「オレが独りだったら、多少は取り乱していたかも知れねぇな。だけどアンタを放っておけねぇと思った手前、ここで尻込みするわけにもいかねぇ。だからオレは冷静でいられるんだ」

 世界を背に戦っていただけのことはあり、彼女は慈悲深い性格だった。ディランは屈託のない笑みを浮かべ、彼女に言う。

「藪から棒にプロポーズかい?」

 その言葉は、彼自身がつい先ほど奏多から受け取ったものであった。奏多は歯を見せて笑い、強気な受け答えをする。

「そうであって欲しいのか? どうしたもんかな……」

「え……いや、その……」

「冗談だよ」

 またしても、ディランは彼女の冗談に弄ばれてしまった。彼は再び頬を赤らめ、その場でうつむく。

「ずるいよ、君は」

「ハハハ……ずるい女は嫌いか?」

「……これから僕は、君に振り回されることになりそうだね」

 もはや彼に勝ち目はない。奏多は明らかに、彼の純情を面白がっていた。


 そんな話をしながら歩みを進める二人の前に、衝撃的な光景が飛び込んできた。

「おいおい。まさかコイツらも時間を巻き戻し続けたのか?」

 前方から、十体の魔物の群れが姿を現した。彼女は己の手元に結晶の剣を生み出し、臨戦態勢に入る。ディランも慌てて鉄の剣を生み出し、咄嗟に身構えた。

「見るからに、話が通用するような相手ではなさそうだね」

「ああ。オレたちの生活は、前途多難になりそうだな。覚悟は出来てるか?」

「出来てるわけないでしょ。僕は君と違って、そんなに勇敢じゃないんだよ」

 彼がそう答えたのも無理はない。されど目の前の敵を一掃しなければ、二人に未来は無い。


 この街に迷い込んで以来の、初めての戦闘の幕開けだ。

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