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三密回避

作者: Hoshi Kaoru

感染力の強いウイルスが世界中で猛威を奮う中、人々は感染を避け社会生活を送るために「三密回避」というルールを作った。

一つは密接しないー人との距離を十分にとること。

一つは密集しないー多人数で集まらないこと。

一つは密閉しないー室内では窓やドアを開けること。

これにより多くの室内イベントが中止となり、人々は旅行や外食に行くことも出来ず鬱屈とした思いを抱えながら日々を生きていた。

男もその1人だった。

この禍いの直前に出会った妻と結婚したが、結婚式は二人で写真撮影のみ、新婚旅行は8Kテレビで観光番組を見て行った気分になり、妻が妊娠した際は出産時の立ち会いもできず子どもの入学式も出席は許されなかった。

男はそっと息子に目をやる。

今年小学生になったばかりの息子は無邪気におもちゃで遊んでいる。

明日からは三連休。季節は春。テレビでは桜が見頃だと言う。当然三密回避のため、花見は抽選制だ。男はケータイで明日の花見の時間を確認する。

こんな状況だが、明日はせめて楽しくやろう。


その夜、開けっぱなしの窓が軋む音がして男は目覚めた。窓の方をみるとそこにサンタがいた。「メリークリスマス!」サンタは陽気な声で祝福の言葉を叫ぶ。男はあわててマスクをつけて「サンタさん、今は春ですよ。4月だ。あなたが来るには早すぎる」と言うとサンタは「そうなんじゃが、今はウイルスの影響で三密回避じゃからな。早出じゃよ。ほっほっほっブッフォッ!ゲッゲッウェィ!」マスクもせずに咳き込むサンタに男は尋ねる。「そうですか、サンタさんも大変ですね。ちなみにワクチンは打ってるんですか?」「もちろんじゃ。我々のような不特定多数と接するエッセンシャルワーカーは特に優先的にワクチンを打っておる!証明書が見たければお見せするがいかがかな?」「いえ、結構です。」「それではプレゼントをあげよう。聞いておると思うが、本来なら子どもの元へ直接届けるのじゃがこの禍いでは感染リスクを避けるため大人に渡すことになっておる。クリスマスまでしっかりと隠し通すように。」サンタはそう言って指を舐めて袋を開けプレゼントを取り出し男に手渡した。「改めて、メリークリスマス!ほっほっほッフェックシャーン!」至近距離での祝いの言葉は、本来神の祝福を授かる幸福の瞬間だが、今回ばかりはサンタの焦点の定まらない目や赤みの強い顔色、汚れた歯、そしてその口から飛び散る飛沫を浴びながら男はこのウイルスが8年前の年明けに発生したことを思い出した。

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