第二話 白猫と爺ちゃん
がんばって書いてますが、仕事に負けそうです。
村を出たは良いけど、
これから何処に行けばいいのか分からない。
ソラは村を出た事など無かった。
とりあえず道を歩いて行けば良いのかな。
村から出る道はひとつしかない。
何処に続いているのかは分からないけど、
とにかくこの道を進むしかない。
今までは、どこかに行こうとすると誰かしらに注意されたものだけれど、
今は止める者など誰もいない。
亡くなってしまった村の人達や、
消えた爺ちゃんには悪いけど、
胸が少し高鳴る。
何処に行こうが私の自由なんだと思うと、
どうしても胸の高鳴りが抑えられなかった。
これが冒険なのかな。
林の中へと続く道の真ん中を歩き進む。
馬車も行き来する道なので、
道幅も広い。
ソラは敢えて道の真ん中を歩いて行った。
すると道の脇からガサッと音がする。
何かいる!
ついカッコつけて腰の刀に手をかけてしまうソラ。
「にゃぁ」
ソラ「あ、猫ちゃん!着いてきたの?」
村で別れた白猫だった。
ほんとに着いてきたのかな?
「にゃぁゴロゴロ…」
ソラ「おーよしよし、もふもふぅ」
猫にしてはやはりちょっとデブだ。
ソラは両手で猫を抱き上げる。
脇を持たれて持ち上がった猫は、
バンザイのかっこうでぐでぇっと伸びる。
ソラ「おお、男の子だねぇ」
「にゃ…」
バツが悪そうに顔を背ける猫。
ん?なんか照れた?
まさかね。
ソラ「お利口さんだねぇ、でもちょっとおデブちゃんかな」
「…」
ん?
なんだろ、今度は不機嫌そうだ。
ソラ「着いてきてもいいけど、たくさんご飯はないよ。ふふふ」
ソラは猫を地面に戻し歩き出す。
すると猫も着いてくる。
へぇ、やっぱり利口なんだなぁ。
ソラは手ごろな枝をポキっと折り、
猫の鼻先へと突き出す。
ソラ「ほれ、匂いを嗅げ」
クンクンと匂いを嗅ぐ猫。
うん、猫っぽいね。
ソラ「それいけぇっ」
ソラは枝をポーンと放り投げた。
ダァッと枝を追いかける猫。
しかし途中で止まり、
ソラをジト目で見てきた。
ソラ「俺は犬じゃないって言いたそうだね」
「にゃ」
ソラ「でも利口な猫ちゃんなら、犬にできて猫ちゃんに出来ない事はないよねぇ」
ソラはわざと挑発気味に言ってみる。
「にゃ」
猫はやる気満々のようだ。
「おて!」
シュタッ
「おかわり!」
シュタッ
「フセ!」
シュタッ
「おち…」
シュタッ
「いや全部言ってないのにやるんかーい」
「にゃ…」
「ふぅ利口なのは解ったよ」
「にゃぁ」
「この子、猫に見えるけど魔物の一種なのかなぁ、害は無さそうだから良いかなぁ、あ、名前付けてあげるね」
白猫、白猫かぁ
「うーん、なかなか上手いこと思い付かないなぁ。」
しばらく思案していたソラだったが、思いついたように顔を上げて言った。
「にゃん吉」
「にゃ?!」
「お前は今日からにゃん吉ね!」
「にゃぁああ!」
猫は不服そうだ。
異議を申し立てているらしいが、ソラには通じない。
「苦情は受け付けません。あははは、可愛い名前だよ!よろしくねにゃん吉、これからはご主人を守るんだぞ、ふふふふ」
…………………………
しばらくにゃん吉と歩いて行くが、
林以外何もない。
少し木々が濃くなってきているのは、
森に近づいているのだろう。
「ただ歩いてるのも暇だなぁ、にゃん吉が喋れたら、いろいろおしゃべりできるのになぁ」
「…」
さっきまでは話しかけると「にゃ」とか言って返事してたくせに、なぜかソッポを向いている。
名前がお気に召さないからだろうか。
そもそもソラには、にゃん吉が人の言葉を理解してるような気がしてならなかった。
喋れるのかな?
いやいやいや、まさかねぇ。
「?」
おかしな考えに苦笑いしているソラを、
にゃん吉は不思議顔で見ていた。
………………………………
道は緩い上り坂になってきた。
先が木々で見えなくなってきている。
もう完全に森に入っていた。
森には時折魔物が出ると言う。
ソラはいちお警戒はしてるものの、
少し怖さも感じていた。
「魔物出ませんように…」
ついそんな独り言を呟いたら、
出た。
魔物だ。
ソラ「あれは確か、ゴブロン?ゴブラン?確かそんな名前だったよね」
名前はよく覚えてないソラだったが、
でもその生態はよく覚えていた。
爺ちゃんに初めてこの魔物について聞いた時、
女の子にとっては身の毛もよだつ魔物だったからだ。
ゴブリンにはほとんど雄しか産まれてこない。
たまにメスもいるらしいが極希で、
そのままではなかなか子孫を残せない種族。
じゃぁどうやって増えているのか?
それは人間や他の生き物に、
種を植え付けて産ませているからだ。
特に人間の女の子を好んでいて、
捕まったら最後、
死ぬまで魔物を産ませ続けられる。
「ゴ、ゴブランだよね、あれ。」
「にゃ?!」
にゃん吉がソラの言葉に反応する。
何か言いたそうな雰囲気を出している。
ソラに気が付いたゴブリンは、
ニヤリといやらしい笑いを浮かべた。
個体そのものは大きくもないし、
力も弱いので、一体ならソラでも楽に倒せる。
しかし、ゴブリンは群れで行動している。
「た、倒せるかな?捕まったらどうしよう 」
ソラは凄く不安になっていた。
捕まった時の事を思うと、
心の底から嫌悪感や恐怖が湧き立つ。
ソラは刀を抜いた。
「ぐぎゃぁああ!」
嫌な鳴き声をあげてゴブリンが襲って来た。
「きゃぁ!来ないで!」
ソラは夢中で刀を横薙ぎに一閃した。
「あ、あれ?」
ほとんど手応えなく、
あっと言う間にゴブリンは真っ二つになって倒れていた。
今まで木剣で叩く事しかしてこなかったソラには、
『斬れる』という事が初めての感覚だった。
木剣ではどんなに強く振っても、
相手に当たって木剣は止まる。
でも、この刀はいとも簡単に相手をすり抜けるように斬り、振り抜けてしまった。
木剣のように当たって止まる事を前提として振ってきたソラは、
振り抜けた刀に思わずバランスを崩してしまった。
「こんなに簡単に?てか凄い切れ味…」
「にゃぁ!!」
にゃん吉が鳴き声をあげた
「えっ?!」
一体倒したまでは良いが、
ゴブリンは群れで行動している。
これが、ゴブリンが厄介なところなのだ。
前の道に次々とゴブランが姿を現した。
「ひっゴブランの群れだ」
「にゃぁ?!」
またにゃん吉がソラの言葉に反応する。
「いちいち反応しないで、どうしよう」
「にゃぁ」
にゃん吉が後ろを見ながら鳴いた。
「えー!?」
振り返って驚愕する。
ゴブリンは後ろにもぞろぞろ現れた。
「前にもゴブラン、後ろにもゴブラン、どうしよう」
「にゃぁ!にゃぁ!」
「なんだよもお?!うるさい!!」
にゃん吉「あーもー我慢できん!ゴブリンじゃ!ゴ、ブ、リ、ン!」
ソラ「あーゴブランじゃなくてゴブリンね、って喋れるんかーい!」
驚いた事ににゃん吉が喋りだした。
声は全く違うが、
ソラには聞き覚えのある口調だった。
そしてにゃん吉が喋ったのにはかなり驚かされたソラだったが、
半面、
安心できた。
焦ってた気持ちも、一瞬で落ち着いた。
にゃん吉「こいつら程度なら、ソラの技量とその刀があれば正面突破は容易じゃ。稽古を思い出すのじゃ」
ソラ「うん」
にゃん吉「行け!」
ソラ「はいっ!!」
ソラは正面のゴブリンの群れ目がけて走り出した。
「やぁ!!」
ニヤニヤしてたゴブリン達は、
予想外の動きに驚いたのか、
びっくり顔で動きが止まっている。
ありゃ、よく見たらスキだらけじゃん。
ソラは駆け抜けながら刀を振る。
木剣みたいにいちいち当たって止まらない刀は、
馴れれば凄くスムーズに動けた。
ソラ「これは、凄いかも」
何匹倒したか分からない。
気が付けば群れを抜けていた。
にゃん吉「そのまま走れ!」
ソラ「はい!」
ソラは夢中で走り続けた。
……………………………………
どれほど走っただろうか。
森を抜けてちょっとした広場みたいな所に出た。
しかしまだ先には森が広がっている。
完全に森を抜けた訳ではなさそうだったが、
森の中にこんな開けた場所がある事にソラはちょっと驚いていた。
にゃん吉「おい、おい!」
走り続けるソラににゃん吉が声をかけてくる。
ソラ「なに?」
にゃん吉「いつまで走るんじゃ、止まれ、休むぞ」
ソラは言われた通り止まったが、
森を抜けるまでは安心できないと考えていた。
ソラ「どうして止めるの?どうせなら森を抜けたかったなぁ」
にゃん吉「はぁはぁ、こんなペースで走っとったら、死んでしまうがな…はぁはぁ」
ソラ「ソラは全然平気だけど」
にゃん吉「うむむ、さすが天空の民だな」
ソラ「てかさぁ、最初にあった時から話してくれても良いじゃん、爺ちゃんの意地悪」
にゃん吉「にゅ??わ、ワシは爺ちゃんではないぞ」
ソラ「へぇ、爺ちゃんじゃないんだ」
にゃん吉「そ、そうじゃ」
目を泳がす猫を見た事があるだろうか?
けっこう不気味だ。
ソラ「ねぇ爺ちん、あ、爺やん、あれ?爺さま」
にゃん吉「爺ちゃんじゃ!!あ、」
ソラ「ほらやっぱり爺ちゃんだ!言い間違いに我慢できないの爺ちゃんくらいだもん、さっきだってゴブランを我慢できないで訂正してたしぃ」
にゃん吉「うむむ」
ソラ「まぁいいか、生きてて嬉しいよ」
にゃん吉「ふんだ」
爺ちゃんがいくつなのかはソラも知らない。
けっこうお歳を召していると思われたが、
そのお爺ちゃんが『ふんだ』って言ってるのを、
ソラは微笑ましくみていた。
ソラ「ふふふ、でもその姿はなに?何で猫なの?」
にゃん吉「あ!そうじゃ!そもそもわしは猫ではない!白虎じゃ!」
ソラ「びゃっこ?」
にゃん吉「そうじゃ」
ソラ「じゃぁ何で白虎なの?」
にゃん吉「それはじゃ、じゃな…」
また目を泳がす猫。
ソラ「そもそもあんな大怪我してたのに、再会したら猫だなんてびっくりだよ」
にゃん吉「猫ではない!まぁ良い、わしはあの時…」
――――――――
ソラは行ったか。
しかし、これだけやられるとはな。
少々重症になり過ぎたわい。
時間が無い、急ぐとするか。
わしは収納魔法から、ある大きな巻物を取り出した。
宙に放り投げ詠唱を始める。
巻物は空中に浮いたまま、
くるくると広がった。
そこには魔法陣が書かれている。
万が一に備えて転生術を記した魔法陣。
これはソラにも内緒じゃった。
生き返ってビックリさせてやるのが目的。
さらにこの魔法陣はわしの特別制じゃ。
普通の転生とは人から人へと転生、
つまり生まれ変わるものじゃ。
しかも人へ転生すると赤ん坊からやり直しという不便な物。
じゃからわしは、どうせならかっこいい悪魔に転生してやろうと、この魔法陣を改良したのじゃ。
希望の悪魔の種族を言えばその種族に転生すると言う、
天才なわしが編み出した特別制の魔法陣なのじゃ!
そして都合良く生け贄となる『肉』がそこらに転がっている。これは期待できそうじゃ。
「さぁ、悪魔よわしの身体とその辺に転がる骸をくれてやる。一滴残らず持って行くがいい」
魔法陣は光りだす。
眩い光は人攫い達の死体を包み、
わしの身体も飲み込んだ。
「さぁ、わしの精神を…ふぇ」
くっ、
ま、眩しくてくしゃみが出そうだわい。
昔から太陽をみるとくしゃみが止まらないんじゃ。
ま、まずいぞ。
まだ詠唱の途中だというのに…ひゃ、ひゃ…
「びゃっくしょい!!!」
光が治まった。
どうなったんじゃ?
わしは手足を確認した。
な、なんじゃ、と?!
くっ、カッコいい悪魔になるはずが、
びゃ、白虎ではなかぁあああーーー!!!
は!いかんソラが戻ってくる。
隠れなければ!
――――――――――
にゃん吉「という訳で、わしは華麗なる転生に成功したわけじゃ」
ソラ「そうなんだ。転生するなら、爺ちゃんの事だから、かっこいい悪魔にでもなるかと思ってたぁ」
にゃん吉「ギク、ま、まぁ良いではないか、それより今日はここで野営じゃ」
ソラ「え?もう野営するの?ここで?」
さっきゴブリンに遭遇したばかり、
ここが安全とはとても思えない。
それとも何か安全になる対策でもあるのか、
ソラは不安だった。
そんな不安を読み取ったのか、
にゃん吉が話し出す。
にゃん吉「ここはスポットと呼ばれる類いの場所じゃ、何故か分からんがこういう場所には魔物は滅多に現れないのじゃ」
ソラ「へぇ、スポットねぇ」
にゃん吉「まだ早い時間じゃが、この先スポットがあるとは限らん、話したい事もあるでな、今日はここで野営じゃ」
ソラ「分かった。私も爺ちゃんに聞きたい事たくさんあるしね!」
そう、落ち着いて聞きたい事がいくつかある。
昨日の夜に初めて聞いた、
『天空の民』の話しとか、
ちゃんと聞いて、
ちゃんと受け止めたいと、
ソラはそう思っていた。
……………………………………
野営の準備が終わり、
ソラとにゃん吉はお茶を飲んでいた。
ソラはカップで
にゃん吉はお皿で。
にゃん吉「おいソラ、熱くて飲めん、どんだけ沸かしたんじゃい」
ソラ「そお?熱くないよ」
ソラは普通に飲んでいる。
その姿を見て、
にゃん吉は再度舌を伸ばす。
にゃん吉「あちっ やはり熱いぞ!」
ソラ「ぷっあはははは!」
にゃん吉「何がおかしいソラ!まさかわしのだけ熱くしたな?!」
ソラ「違うよ爺ちゃん、それ猫舌だよ、あははは、猫舌になってるー!」
にゃん吉「なっ?!」
ソラ「あははは、そうじゃないかと思ったんだぁ」
にゃん吉「うむむ、この身体は慣れるまでまだまだかかるのぉ」
ソラ「ふふふ」
にゃん吉「おほん、では話すとするかの」
ソラ「うん」
――――――――――
今から9年前、
爺ちゃんは空を見上げていた。
空には『アレ』が浮いていたからだ。
アレを見るのは何年振りだろうか。
上空高くに浮く、
浮遊大陸。
大昔、大地の神エザフォスによって、
大地を追放されたとされる大陸。
元々は地上、
大秘境、オロス大山脈に存在していた……
ソラ「ねぇねぇ、その話長いの?」
ソラはにゃん吉の長くなりそうな話を遮った。
こうなるとにゃん吉爺ちゃんは死ぬまで話してそうだ。
にゃん吉「なんじゃ、これから面白くなると言うのに」
ソラ「だって、爺ちゃんの御伽噺聞きたいんじゃないもん」
にゃん吉「つまらん奴じゃのぉ」
ソラ「もぅ、いいから、私の事教えよ」
にゃん吉「ふん、仕方ないの。えーっと、うん、わしが久々に浮遊大陸を見ていたら、何かが落ちて来るのが見えたんじゃ」
ソラ「浮遊大陸ってホントにあるの?」
にゃん吉「ソラは見た事なかったか?」
ソラ「ないよ、御伽噺でしか知らない」
にゃん吉「うむ、そうか。その御伽噺の浮遊大陸は実在しておる、わしはそれを見ていたんじゃ」
ソラ「ほんとにあるんだ」
にゃん吉「うむ、見ていたら何かが落ちて来るのが見えての、陸のカケラではないかと思って、落ちた辺りを探しに行ったら、お前がいた、というわけじゃ」
ソラ「うっそだーー!」
にゃん吉「なぬっ!わしが嘘など言うものか!ほんとだもーん!」
ソラ「だって、そんな所から落ちたなら私は死んでるよ」
にゃん吉「だから、言ったじゃろ、その腕輪の魔石が、お主を守ったんじゃよ」
ソラ「腕輪?そう言えばいつのまにか腕輪してたね」
にゃん吉「覚えてないのか?まぁ突然の事がいろいろあったからな。その腕輪に付いていた魔石に、恐らく身代わりの魔術が施されていたのじゃろ」
あー、そう言えばそんな事言ってたね。
にゃん吉「一度だけ、身に付けている者の命を守るという、天空の民にしか伝えられていない魔術じゃ」
ソラ「天空の民…」
にゃん吉「浮遊大陸に住む民、それが天空の民じゃ。じゃがなソラ、お前はわしの孫じゃ。それを忘れるな」
ソラの心を察したのか、
爺ちゃんは優しい言葉をかける。
ソラ「ありがとう爺ちゃん。でもさぁ、猫の孫って微妙だよー」
にゃん吉「いやそこかーい」
ソラ「天空の民かぁ…」
ソラは上空を見上げて言う
にゃん吉「それだけではない、お主は龍人だ。その腕輪の紋章は、半分は分からなくなってしまっているが、ソラは間違いなく龍人じゃ。昨日は驚いたがな」
ソラ「天空の民って、その浮遊大陸に住んでる人だよね?じゃぁ龍人て何?私はなんなの?それに驚いたって何?何かあったの?」
疑問が次々と浮かぶ。
にゃん吉「昨日の夜の事を覚えとらんのか?」
ソラ「覚えてない。」
にゃん吉「ふむ、良く聞くのじゃ。天空の民は確かに浮遊大陸に住む人々じゃ、じゃがその中に龍の血を引く者達がおる。それが龍人じゃ、龍人の特徴は、髪は一様に薄い色、瞳は赤く、そして誰もが美しい。更に、龍人は恐ろしく強い。」
ソラ「それが私?!だって私の髪は黒いし、瞳だって茶色だし、しかも美しく無いしそんな強くもない、全く合ってないじゃん」
にゃん吉「今はな…」
ソラ「今は?」
にゃん吉「そうじゃ、激しい感情でお前は変貌する。昨日は怒りで我を忘れたようじゃが、その時の姿は龍人そのものじゃった。」
ソラ「そんな…それじゃ」
にゃん吉「うむ、人攫い共を倒したのは、ソラ、お主じゃよ」
ソラは驚いた。
それもそのはずで、ソラ本人にはまるで実感がない。
でも爺ちゃんはこんな時に嘘は言わない事もソラは知っていた。
多分本当の事だと思うしかなかった。
ソラ「あたし、人間を殺したんだね」
にゃん吉「ん?なんじゃ?気にやむ事はないぞ、爺ちゃんだって何人も殺している」
にゃん吉爺ちゃんは当たり前のように軽く答えた。
ソラ「え?そうなの?」
にゃん吉「ソラは平和な村で育ったから知らんだろうが、この世は弱肉強食、弱い者は淘汰される。あの男達は多少強かったのかも知れんが、ソラより弱かった。ただそれだけの事よ。但しわしらは魔物ではない。殺して良い相手かどうかは、見極めなければな。悪者は斬って捨てるに限る」
ソラ「ん、わかった…」
ソラは腕輪を外して紋章を見ていた。
確かに紋章だ。
落ちた衝撃なのか、
半分くらい擦れた跡があって分からなくなっている。
ソラ「ん?、文字も掘ってあるね、1845年5月10日 ソ…フィ、ア。ソフィア?」
人の名前かな?
柔らかくて響きの良い名前。
それ以上は削れていて読めない。
あ、この日付けは私の誕生日だ。
にゃん吉「ん。お主の本当の名じゃ」
ソラ「えっ?!」
にゃん吉「家名が分からないが、それは本当のお前の名じゃ、名乗るかどうかはお主の自由じゃ」
ソラ「そんなの決まっ…」
にゃん吉「それと、お主が龍人である事は誰にも内緒じゃ」
ソラ「それはどうして?」
にゃん吉「考えてもみろ、御伽噺の種族だぞ。しかも龍人は悪者として書かれている。そんなの言ったところで信じる者などおらんし、馬鹿にされたり悪者扱いされるのがオチじゃ」
ソラ「それもそうだね」
にゃん吉「わしはお主を天から授かったと思った。じゃから敢えて名を付けた。ソフィアではなく、ソラとして育てようと思ったのじゃ。どういう訳か見た目も変化したしの。」
ソラ「うん、ありがと」
にゃん吉「あと最後に」
ソラ「まだあるんかーい」
にゃん吉「ソラはかわいいぞ」
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その頃、田舎村では。
女騎士「こ、これはどういう事だ!」
女騎士は村の惨状を目の当たりして驚愕していた。
騎士A「人攫いの仕業ですかね?」
女騎士「それにしてもこれはやり過ぎではないか?生き残りがいないか調査しろ!」
騎士達「「「は!」」」
女騎士は他の騎士達に号令をかける。
どうやらこの女騎士は騎士団長のようだ。
女騎士団長「年2回の騎士団訪問の直前に襲うとは、大胆な盗賊団だな」
年2回、国の状況を知る為に、王国の騎士団は各方面を訪問して巡っている。
騎士A「マリアーノ様、奥に一軒だけ焼かれていない家屋があります」
騎士が報告に来た。
マリアーノ「なに?不自然だな、その家を調査しろ、私も行く」
騎士A「は!」
マリアーノと呼ばれた女騎士団長は、
一軒だけ焼かれていない家屋に向かった。
騎士A「誰もいないようです」
マリアーノ「うむ」
部下の報告をうけ、
マリアーノ女騎士団長は内部にずかずかと上がり込む。
マリアーノ「荒らされた形跡はないようだな」
マリアーノは考え込んだ。
これは不自然だ。
マリアーノ「外に生存者はいたか!」
騎士A「いえ、一人もいませんでした」
マリアーノ「そうか…この家を隈なく調べろ!その後に出発だ!」
「「「「はっ!」」」」
――――――――――――